☆番外004☆ 〈加速野郎と異世界・Ⅱ〉
2075/4/2 a.m.1:44 矢馬杉高等学校
猫耳の少女は、壁から完全に抜け出すと、ふわりと床に着地した。
赤黒い照明のせいで分かりづらいが、年は俺たちと同じか、少し下くらいに見える。
「いや、誰?ってこっちの台詞なんだが」
「ここ、俺たちの学校なんだけど」
少女はきょとんと首を傾げる。
「がっこう?……ああ、模倣構造体のこと?」
「もう分からん単語出すな!」
礼司が半歩前に出て、警戒するように腕を刃状に変形させる。
「なぁ隼人、こいつ敵か?」
「判断材料が少なすぎる……が、少なくとも幽霊ではなさそうだ」
「失礼だね。幽霊じゃないよ。」
少女は不機嫌そうに頬を膨らませると、指をパチンと鳴らした。
その瞬間、廊下の影から異形の怪物たちが這い出てくる。凄まじく正気度を削るような光景だ。
「おいおいおい!増えたぞ!」
「邪魔だから死んでもらうよ。」
少女――いや、猫耳の何かは、ため息をついた。
「アンチちゃん、出ておいで。」
影から今度は中性的な痩せ細った男が出てきた。
「黒先輩、どうしたんですか?」
「アンチちゃん、あいつら片付けるからよく見てて。」
そう言いながら猫耳少女、黒は再び影に潜る。
「まずいな…先輩の気が済むまでなるべく耐えてくださいね?」
アンチと呼ばれた男は少し申し訳なさそうにそう言った。
そう言い終わると同時に、礼司の足元の影から黒が飛び出す。手にはナイフを持っている。
「ヤバいって!」
礼司はとっさに刃に変形した腕で防ぐ。
ガキンと金属同士がぶつかる音が周囲に響く。
「っ、重い……!」
「礼司、下がれ!」
俺は即座に能力を叩き込む。
(加速――!)
「遅いよ」
黒の声が、真横から聞こえた。
「なっ――」
次の瞬間、背中に激痛が走る。おそらく何かに切られたのだろう。
見えない何かに蹴り飛ばされ、俺は廊下を転がる。
「隼人!」
「大丈夫だ、まだ……!」
起き上がろうとして、異常に気づいた。
__加速できない。
「……能力が、切られた?」
「正解」
黒が、影から半身だけ現れる。
「あなたたちはもうおしまいよ。」
「そんなのアリかよ……!」
アンチは申し訳なさそうに肩をすくめ、黒を止めに入る。
「先輩、そろそろもういいでしょう。彼らを返してあげたいんですが…」
「むぅ、かわいい後輩の言うことなら仕方がない、今回は特別に見逃してあげるわ。」
アンチは俺たちに手を向ける。次の瞬間、こっちに来た時と同様のめまいが二人を襲った。
「は!」
「た、助かった…」
隼人と礼司は体中の力が抜けたのかその場にへたり込む。しかしそこがトイレだと気が付きさっと二人とも立ち上がる。
「うわ汚っね!」
その後二人は支えあって帰り、この日のことは二人だけの秘密にした。しゃべったらあの猫耳少女に殺されそうで怖かった。




