第010章 〈再現された暴走・Ⅰ〉
2075/4/2 p.m.4:36 地下訓練区画
[仮想空間ルーム、疑似暴走体『メタルスーツ』を再現開始]
悠真は体長3mはあろう金属の怪物と対峙していた。
「沙耶さん?これ死にませんよね?一撃でノックアウトされそうなんですけど?」
「大丈夫よ、メタルスーツのAIは優秀だから死ぬことは無い。ケガしてもすぐ横にアンダーガーデン専用の医療施設があるから心配いらないわ。」
沙耶さんがそう言い終わると同時に、メタルスーツは悠真へ攻撃を開始した。その巨体とは裏腹に速度が速く、悠真の眼前へ鋼鉄の拳が迫る。
「危な!」
とっさに躱すが、拳によって生じた破壊は広範囲の地面を抉り、周辺に地面の破片が飛び散る。
「沙耶さん!?、やっぱり死にそうなんですけど!?ゼロさんの訓練よりきついんですけど?」
「訓練…?ちょっと何言ってるかよくわからないわ悠真くん。」
そんなことを言っている間にも悠真とメタルスーツの攻防は続いている。いや、メタルスーツの攻撃をゼロとの訓練と明後先生との実戦で身に着けた回避スキルで無理やりよけまくっているだけであり、悠真は少しも反撃できていない。一方的な蹂躙だ。
悠真の足が、わずかに縺れた。
連続する回避。着地の衝撃。金属拳が空気を裂く圧。
それらが少しずつ、確実に体力を削っていく。
「っ……!」
息が荒い。視界の端が白む。
( メタルスーツはただのマシンで感情を持たない。ただ最短距離で、最適な攻撃を繰り返すだけの存在だ。どうすれば…)
__違う。
悠真は歯を食いしばる。
「ゼロさんの訓練と……決定的に、違う……!」
ゼロの訓練は苛烈だった。
だが、そこには必ず「余裕」があった。
成長を見越し、判断を促し、わずかな余白を残す「人を成長させるための余裕」
しかし、目の前の疑似暴走体は違う。
機械としての学習もプログラムされた感情もあるが、そこに慈悲、「余裕」は存在しない。
「――っ!」
メタルスーツの足からハンマーのようなものが地面を叩き、衝撃波がリング状に広がる。
悠真は跳躍で逃げるが、着地した瞬間、背後から金属音が迫った。
「うわっ― !」
間一髪で身を捻る。
肩口をかすめた鋼の装甲が、服を引き裂き、皮膚を浅く削った。
「……入学時や舞さんとの仮想戦闘よりも、痛いじゃないですか……!」
その声に、沙耶は初めて少しだけ表情を変えた。
「ええ。痛覚再現率は通常の授業で使われる五割ではなく八割。これは“暴走体に襲われた人間”の再現だから。」
「再現……?」
悠真が距離を取りながら問い返す。
沙耶は端末を操作しつつ、淡々と告げた。
「メタルスーツは、過去に実在した能力暴走事例を基に作られているわ。
速度、攻撃頻度、判断ロジック……全部“再現”。」
その言葉に、悠真の背筋が冷えた。
「……つまり」
「あなたがこれから直面するのは、再発する可能性がある“現実”よ。」
次の瞬間、メタルスーツの装甲が赤く発光した。
[攻撃モード:オーバードライブ]
「ちょっ、なんですか!?すさまじい可能性を感じるんですけど?」
「NT-Dじゃないわよ悠真くん。」
轟音と共に、金属の怪物が突進する。
地面が悲鳴を上げ、空気が歪む。
__逃げきれない。
悠真は瞬時に理解した。
(だったら……)
ゼロとの訓練で、何度も叩き込まれた声が脳裏に蘇る。
__(悠真様、回避だけでは、戦わなければ生き残れませんよ。)
悠真は、足を止めた。
「……来いよ」
小さく呟き、体内の熱を一気に引き上げる。
炎が、呼応する。
初めてだ。
避けるのではなく、受け止めた上で動くという選択。
沙耶の目が、わずかに見開かれた。
「――その判断、ようやくね。」
メタルスーツの拳が振り下ろされる。
次の瞬間、地下訓練区画に、これまでとは質の違う衝撃が響き渡った。
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〈兵器紹介〉「メタルスーツ」
能力が弱い者のために造られた兵器、AIによる自動操縦モードとパイロットが入った手動モードがある。どんな人物でもフルで使用すればAランク相当の力を出せるが製作コストが高い。今回の訓練で使われたのはただの仮想現実模造品なので被害は無い。




