初めての戦い?
「それじゃあこれからフィールドに行く?」
そう俺が聞くと乙音からは少し意外な言葉が飛んできた。
「ちょっと待って。」
「別に良いけど…どうしたの?」
「試してもいい?」
「試すって何の話?」
「配信の話。」
「配信?何か試すことがあるの?」
「今までしたことがないから少し試したい。」
「俺は良いけどカーネはそれで良いの?準備とか出来てない気がするんだけど。」
「確かに出来てるとは言えない。でもどうせ人なんて来ないから別にいい。」
「えーと……そう?」
実際のところ、俺もそう思っている。何の地盤もない、初心者の配信にいきなり人が来る可能性なんてどう考えても低いけど……
「このゲームを配信する有名人は確かに少ない。でも確実にいるのは知ってる。それなのに人が来る可能性なんてほとんどない。」
「それは……うーん……」
「反応的にショウも同じ考え?」
「まぁ……そう、だね。」
「ちょうど良いから問題ない。」
「丁度良い?」
「試すのに人はいらない。居てもいいけど居なくてもいい。」
「カーネが良いなら別に良いんだけどさ…人がいた方が実験としても良いと思うよ?」
「段階的にするつもりだからいい。それにまだ人を呼ぶつもりは無いから。」
「まぁ、それなら良いけどね。」
まだってことはそのうち呼ぶつもりなのかな?一応覚えておこっと。
そんなことを考えていると突然俺の目の前に透けている……画面と呼ぶことにした。画面が現れた。
「これって?」
「チャンネルの権限の共有。ショウも色々出来るようになった。」
「そっか。うん?」
確認していくと乙音に聞かないといけないことが1つ出来た。
「ちょっと待って。これってほとんど全ての権限を共有してない?」
「してる。ショウが出来ないのはチャンネルの削除とかのプラットフォームの仕様上共有出来ないところくらい。」
「それで良いの?」
確かにチャンネルの削除とかは出来ないみたいだけど……チャンネル名の変更とか動画や配信のアーカイブの削除権限はあるんだよね。ここまでの権限は共有したらいけない気がするんだけど……
「何が?」
「ここまでの権限を渡して良いの?」
「何か問題?」
「え、俺が勝手に動画とか配信を消したり出来るよ?」
「何もないのに?」
「今はそうだけどさ……」
「それにショウは配信とかが増えてきたら勝手…何も問題がないのに勝手に消すの?」
「そんなことはしないけど…」
「私もそう思ってるから。簡単に言うとショウを信じてるから渡してるだけ。ショウ以外ならそんな大事な権限を渡すようなことはしない。」
「……」
乙音のそんな直球な言葉に俺は思わず黙り込んでしまった。
俺はそんな乙音の言葉に対して何かを言おうとしたがどんな言葉も俺の頭に浮かんでくることはなく、只々時間が過ぎていくのだった…
そんな沈黙を破ったのは俺ではなく乙音の言葉だった。
「私はショウを信じてる。だから渡した。それだけ。だからそれで問題ない。これでいい?」
「……うん。大丈夫。」
ここまで俺のことを信じてくれているとは思っていなかったよ。勿論ある程度信頼されているのは分かっていたけど……ここまで信じられているとはって感じだね。でも、乙音のそんな大きな信頼を裏切ることなんて俺には出来ないししたくもないから…頑張ろ。
それから10分後、俺と乙音の姿はフィールドにあった。
フィールドと言っても街のすぐそばだけどね。でも街のそばのはずなのに人工物は道くらいしか無いのかな?多分だけど。他は多少の整備はされてるのかもしれないけどそれでも自然のままの草原が広がってるね。
そんなことを考えていると乙音から言葉が飛んできた。
「つけてみていい?」
「大丈夫だよ。」
「分かった。」
そう乙音が言った瞬間、俺の視界の端に画面が表示された。その画面には俺達と周囲の光景が映し出されていた。
画面を見た感じではカメラは俺達の前方1メートルくらいの位置の高さ1.5メートルくらいにあるのかな?でもカメラみたいなものは俺には見えないんだよね。
「これってカメラはどうなってるの?」
「透明なものが自動でついて来る。マイクも。こだわりが無いならデフォルトのままでいいって。」
「カーネはどうするの?」
「少し戦ってみて設定をするか決める。」
「分かったよ。」
と、そんな話をしながら歩いていたとき前方の草が動いて見えた。
「あそこに何か居ない?」
「どこ?」
「あの……あの辺。」
「ふふっ、相変わらず分かりにくい。」
「五月蝿いよ。分かってるなら戦ってきたらどう?」
「うん。」
乙音はそう言いながら前に向かって歩いて行った。
乙音の言葉に少し腹が立ったけど事実だから仕方ないかな。
乙音が俺の刺したところに向かうとそこから兎が飛び出してきた。兎は逃げることなく、乙音に向かって突撃していった。
乙音は兎の突撃が命中するギリギリで地面を蹴ることで躱し、その動きの流れのまま短剣を横向きにして兎に向かって振り抜いた。
乙音が振り抜いた短剣は兎の右前脚を完全に斬り飛ばした。負傷した兎は身体のコントロールが上手く出来なくなり俺に向かって突撃……突撃というには力のないものでしかないが、それでも俺の方に向かって飛んできていた。
「倒して。」
「準備してないんだけど…!」
乙音がそう言ってきたけど剣はストレージの中に入れているままなんだよね!?それでも最序盤のモブに負けるとは思わないけどさぁ……
俺がストレージから剣を取り出す前に兎は俺の目の前に辿り着いて……墜落した。俺は思わず足元に飛んできた兎に向かって右足を振り抜いた。
「軽っ…」
まるで段ボールで出来た兎を蹴り飛ばしたような感触だった。俺が蹴り飛ばした兎は空中を舞って地面に落ちるかと思われたが、その前に空中でポリゴンに分解され消えるのだった……
〔バーサークラビットの肉〕
そのような表示が出てきた。それを確認した直後に近くから声が聞こえてきた。
「ショウは何か出た?」
「……今は良いや。なんか兎肉が出たよ。カーネは?」
「スカ。多分貢献度でショウにドロップがいった。」
「今のって俺の方が貢献してたの?」
「私は足を1本切っただけ。ショウは他の全部とラストアタックをしたから。」
「ラストアタック?関係あるの?」
「ある。だから狙えるときは狙った方がいい。」
「それなら狙えるときは狙うよ。」
「うん。」
言いたいことはあるけど今は心の中に収めておくことにしよっと。文句よりも重要な話が色々あるからね。
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