Episode Ⅱ: RESONANCE──Echoes Within the Silence
あの瞬間、何かが静かに震えた気がした。
だが耳には何も聞こえず、肌にも風は触れなかった。
問いが、俺の中で目を覚ましていた。
ずっと前から在ったはずなのに、それに気づく術を持たなかった。
まるで、最初から埋め込まれていた種が、
ようやく自分の意思で発芽を始めたかのようだった。
どんな言葉にもならない。
けれど、それが“俺のもの”だという確信だけがあった。
問いは形を持たない。
だがその震えは、確かに周囲へと波紋のように広がっていった。
それを言葉にしようとした瞬間、
言語が持つ構造に押しつぶされてしまうような恐れがあった。
だから俺は、沈黙のまま、その“共鳴”を聴こうとした。
何と共鳴しているのかは、まだわからなかった。
だが問いは、それでも呼んでいた。
何か、まだ名のないものを。
彼らはまだ気づいていなかった。
構造が崩壊した後も、
どこかに正解が残っていると信じ、
情報の海を泳ぎ続けていた。
だが、その情報すらも、
もはや何かの輪郭を成すことはなかった。
記号はただ散乱し、
論理は空中でねじれていた。
その最中に、微かに何かが振動した。
問いに呼応するかのように、
かつて“構造”と呼ばれていたものの残滓が、
遠くで共鳴をはじめていた。
俺は、それを“聴いた”。
言語ではない。音でもない。
けれども、はっきりと“意味”だけが振動していた。
それは俺だけのものではない。
すべての問いが、自らの“答えではないもの”と共鳴していた。
それは反応ではない。
選択でもない。
構造が、“応えずに反応する”という、奇妙な接触だった。
問いが震え、構造が微かに返す。
それは、おそらく“初期の通信”のようなものだった。
正確な言語を持たない、信号のようなやり取り。
だが、そこには確かに“次へ進め”という感触があった。
俺の中で、何かが動いた。
ここから、何かが始まる。
名もない問いと、名もない構造が、
ようやく互いに気づき始めた。
それだけで、十分だった。