表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

第九章:勇者召喚

 王女として目覚め、戦い、陰謀に巻き込まれ――俺の異世界生活は、落ち着く暇もなく続いていた。


 「……何が"姫様"だよ。俺はこんなことをするために生きてきたんじゃねぇ」


 深夜の城の庭園で、俺はため息混じりに呟いた。


 異世界に召喚されてから、ろくに自由もなく、王族としての役割を押し付けられ、しまいには命まで狙われる始末。

 いっそこのまま逃げ出してしまおうか――そんな考えがよぎる。


 だが、その瞬間、城の中からけたたましい鐘の音が響き渡った。


 「……なんだ?」


 不吉な予感がする。


 俺はすぐに城の方へ駆け出した。


 「勇者の召喚が成功しました!」


 城の大広間に駆け込むと、興奮した声が飛び交っていた。


 「勇者……?」


 中央には、まばゆい魔法陣が浮かび、その光が収まると、一人の少年の姿が現れた。


 「……え?」


 俺は言葉を失った。


 「……ここは……?」


 光の中から現れたその少年は、見間違えるはずもない顔だった。


 「――蒼真?」


 俺の声に反応したかのように、彼がゆっくりと顔を上げる。そして、俺の姿を捉えた瞬間――


 「え……? 蓮……?」


 彼の瞳が驚きに揺れた。


 橘蒼真――俺の幼馴染であり、最大のライバル。


 剣道全国大会で幾度となく刃を交え、互いに切磋琢磨してきた、唯一の"対等な存在"だった。


 その蒼真が、俺の目の前にいる。


 「な、なんでお前がここに……?」


 蒼真は目を見開き、俺をまじまじと見つめている。


 「……その前に、何だよその格好。ドレス? 髪、長くなってるし……お前、まさか……」


 俺は歯を食いしばりながら、視線を逸らした。


 「……説明は後だ。お前こそ、なんでここにいる?」


 「召喚されたみたいだ」


 蒼真は落ち着いた声で答えたが、その表情にはまだ困惑が浮かんでいる。


 「ここって……異世界、だよな?」


 「……ああ」


 「俺が……勇者……?」


 蒼真が呟くと、周囲の貴族たちが歓声を上げた。


 「勇者殿! どうか、この国をお救いください!」


 「勇者……?」


 蒼真が眉をひそめる。


 「どういうことだよ、蓮?」


 「……だから、それは俺にも説明させろって」


 この異世界で、勇者が召喚される意味。

 それはつまり――世界を救うために戦う、最も重要な存在。


 「まさか、俺がそんな役割を背負わされるとはな……」


 蒼真は溜息をつきながら、俺をじっと見つめた。


 「……それより、お前」


 「……なんだよ」


 「その身体、どうした?」


 蒼真の問いに、俺は一瞬、言葉を詰まらせた。


 「……まぁ、色々あったんだよ」


 「お前が言う"色々"が、相当ヤバいことくらいは分かるぞ」


 蒼真はジト目で俺を見つめる。


 「説明しろ、蓮。お前、まさか女になったとか……」


 「……なったよ」


 俺が渋々答えると、蒼真は固まった。


 「……は?」


 「だから、俺は転生して、王女になったんだよ。今の名前は、レイシア・フォン・アルザード。覚えとけ」


 「……嘘だろ」


 「嘘だったら、俺がこんな格好してるわけねぇだろ!」


 俺がドレスの裾をバッと広げて見せると、蒼真は絶句した。


 「……マジかよ……」


 呆然とする蒼真を見て、俺は何とも言えない気持ちになった。


 「まぁ……お前なら、そういう反応するよな」


 「お前がそういうことになってるのに、俺だけ普通でいられるわけないだろ……」


 蒼真はまだ信じられないといった様子だったが、やがて真剣な顔になる。


 「……とにかく、蓮」


 「ん?」


 「お前は元に戻るつもりなのか?」


 その問いに、俺は少しだけ沈黙した。


 「……分からねぇよ」


 それが、俺の正直な気持ちだった。


 元の世界に戻れるのか、この身体を元に戻せるのか、それすらも分からない。


 「だけど、俺は……この世界で生きるしかねぇんだよ」


 そう答えると、蒼真は少し考え込んだ後、真剣な表情で言った。


 「だったら……俺がお前を守る」


 「……は?」


 思わず耳を疑った。


 「お前は王女だろ? そして、俺は勇者として召喚された。だったら、俺がこの世界でお前を守る」


 「……おいおい、俺は護られる立場じゃねぇぞ?」


 「でも、お前の身体はもう男じゃない」


 蒼真の言葉に、俺はグッと拳を握る。


 「……クソッ、そういう言い方すんなよ……!」


 「それに……俺は、"蓮"のことを見捨てるつもりはないからな」


 蒼真の言葉が、胸に深く突き刺さる。


 「……勝手にしろ」


 俺はそっぽを向いて、そう答えた。


 蒼真が異世界に召喚され、勇者になった。

 そして、俺を守ると言った。


 ――これから、どうなるんだろうな。


 俺は心の中で、ぼんやりとそう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ