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第八章:初めての戦闘

 夜の城は静寂に包まれていた。


 だが、その静けさの中に、どこか不吉な気配を感じる。


 「……なんか、嫌な感じがする」


 俺はベッドの上に座りながら、漠然とした不安を覚えていた。


 この身体になってから、勘が鋭くなった気がする。気のせいかもしれないが、まるで肌が何かを察知しているような――そんな感覚があった。


 「姫様、そろそろお休みを」


 執事が恭しく声をかけるが、俺は首を横に振った。


 「いや、ちょっと外の空気を吸ってくる」


 「こんな夜更けに?」


 「なんとなく……落ち着かなくてな」


 執事は少し眉をひそめたが、深くは追及せず、俺を見送った。


 ◆


 月明かりに照らされた中庭を歩きながら、俺はため息をついた。


 「はぁ……これから、どうすりゃいいんだか」


 王女として生きる? ふざけるな。俺は戦える人間だ。誰かに守られるだけなんて性に合わない。


 「でも、この身体で本当に戦えるのか……?」


 そう思った瞬間、背筋に冷たい何かが走った。


 ――気配がする。


 咄嗟に身を翻した瞬間、空を裂くような音が聞こえた。


 「ッ!」


 何かが俺のいた場所を通過し、地面に突き刺さる。細い金属の針――毒か?


 「……やっぱりな」


 俺は小さく呟いた。


 敵が動き出すのは時間の問題だった。そして、今夜がその時だったようだ。


 「姫様にしては、なかなか鋭い勘をお持ちだ」


 暗闇から、黒い影が浮かび上がる。


 「……誰だよ、お前」


 「王女が目覚めるのは、我々にとって好ましくない。ここで消えてもらう」


 「へぇ……そりゃあ随分とはっきりしてんな」


 俺は拳を握りしめた。心臓が早鐘のように鳴る。だが、不思議と恐怖はない。むしろ、久々に"戦い"の感覚が蘇ってくるのを感じていた。


 「……やれるか?」


 この身体になってから、まだ本格的に戦ったことはない。だけど、身体の軽さや感覚の違いはもう分かっている。何より――俺は、戦うことを諦めたくない。


 「試してやるよ」


 俺はスカートの裾を蹴り上げ、走り出した。


 ◆


 「――ッ、この動き……!」


 刺客の驚愕の声が聞こえる。


 俺の動きが、思ったよりも鋭いのだろう。確かに、男の頃より筋力は落ちた。けれど、速さはむしろ増していた。


 相手が短剣を振るった瞬間、それを見切り、紙一重で避ける。


 「な……っ!」


 刺客の動きが鈍った、その一瞬の隙を突く。


 俺は近くに落ちていた木の枝を拾い上げ、反射的に振り抜いた。


 「ぐっ……!」


 木の枝とはいえ、全身の勢いを乗せた一撃。刺客は怯んで数歩後退する。


 (……まだいける)


 俺は素早く身を翻し、二撃目を繰り出す。木の枝が相手の手元を打ち、短剣が地面に落ちた。


 「くっ……」


 敵が俺に飛びかかろうとした瞬間、別の声が響いた。


 「そこまでだ」


 視界の端に銀色の光が走る。


 「……ユージン?」


 騎士ユージン・クラウゼが、鋭い眼差しでこちらを見ていた。彼の剣が月光を反射し、静かに構えられている。


 「姫様……その動きは、一体?」


 ユージンの声には驚きが滲んでいた。


 「……あんたに教わらなくても、俺は戦えるんだよ」


 俺は肩で息をしながら答えた。


 ユージンは数秒、じっと俺を見つめていたが、やがて表情を引き締めた。


 「それは理解しました。しかし、姫様……」


 彼は俺に歩み寄り、静かに言った。


 「"護られる者"の戦い方ではありませんでした」


 「……何?」


 「あなたは、まるで"剣士"のように戦っていた」


 その言葉に、俺は言葉を失った。


 ユージンの目は、俺が隠そうとしていた"剣士としての本能"を見抜いていた。


 「姫様、戦う覚悟はおありですか?」


 ユージンの問いかけに、俺はゆっくりと拳を握る。


 「……当然だろ」


 そう答えた俺を見て、ユージンは小さく微笑んだ。


 「では、剣をお持ちください。姫様には、王女としての剣を」


 新たな戦いの始まりを予感しながら、俺はユージンの言葉を噛み締めた。

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