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第三章:王女としての宣告

 「ふざけるな……俺が、王女だと?」


 声が震えていたのは、怒りのせいか、それとも恐怖のせいか。俺は床に膝をついたまま、呆然と老人――いや、魔法使いを睨みつけた。


 彼は穏やかに微笑んでいるが、その目にはどこか確信めいた光が宿っている。まるで、俺が王女であることが決定事項であるかのように。


 「どうしても信じられませんか、姫様?」


 「当たり前だ! 俺は男だった! 剣士だった! それが、目を覚ましたらこんな……!」


 思わず胸元を掴む。だが、その手のひらに感じるのは、柔らかなふくらみ。やはり、これは夢でも錯覚でもない。


 「落ち着いてください、姫様」


 老人がゆっくりと歩み寄る。俺は反射的に後ずさるが、身体は今までのものとは違う。軽いのに力が出ない。足元がふらつき、バランスを崩しかける。


 「……っ!」


 すると、突然、背後から別の腕が伸びてきて、俺の身体をしっかりと支えた。


 「大丈夫ですか、姫様?」


 低く、穏やかな声。振り返ると、そこには長身の男が立っていた。鋼のような青い瞳と、整った顔立ち。銀の甲冑を身にまとい、背筋を伸ばしたその姿は、まさしく騎士のそれだった。


 「……お前は?」


 「私の名はユージン・クラウゼ。姫様の騎士として、命を捧げる者です」


 騎士――俺の、騎士?


 「待て、そんな覚えはねえぞ……」


 「当然です。姫様は長い間、封印されておりましたから」


 老人が再び口を開く。俺はぎこちなく立ち上がり、言葉を搾り出した。


 「封印? 一体何の話だ」


 「姫様は、アルザード王国最後の王族であり、この国の再興を担う希望の存在なのです。ゆえに、王国が滅びる際、王家の血を絶やさぬようにと、姫様の魂は封じられ、時が満ちるまで待機していたのです」


 「待て、それじゃあ俺の記憶はどうなる?」


 「おそらく、封印の影響で過去の記憶が混ざったのでしょう。本来の姫様の魂が、違う世界で『神崎蓮』という名の剣士として生きていた……そう考えれば、辻褄が合います」


 「そんな……」


 俺は愕然とした。神崎蓮として生きてきた俺が、ただの幻だった? そんなはずはない。だが、身体は紛れもなくこの世界のもので、男だったはずの俺は、今、少女の姿をしている。


 「そんなの……認められるかよ」


 だが、老人は冷静に続ける。


 「認めるも何も、姫様はもう、この世界の運命から逃れることはできません」


 「……どういう意味だ?」


 「この国には、姫様の帰還を待つ者が大勢おります。そして、姫様の存在を快く思わぬ者も……」


 老人の言葉が終わるより早く、扉の向こうで激しい足音が響いた。


 「姫様の目覚めを聞きつけた者たちが、すでに動き出しています。城の中に潜む敵が、姫様を抹殺しようとしているのです」


 俺の背筋が凍る。


 「何だと……!?」


 ユージンがすっと剣を抜いた。その刃は月光を浴びて静かに輝いている。


 「姫様、今すぐお逃げください。ここに留まれば、命はありません」


 「お、俺が狙われる……?」


 状況が飲み込めない。ついさっきまで、俺は試合の最中だった。だというのに、今は王女になり、命まで狙われている? こんなの、どんな悪い冗談だ?


 「ふざけるな……俺は、そんなの望んでねぇ!」


 だが、そんな俺の叫びをかき消すように、扉が激しく開かれた。


 ――逃げられない。そう、本能が告げていた。

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