表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/34

第二章:王族とは何か

 王都に陽が差し始める。


 魔王軍との戦いから数ヶ月が経ち、王国の復興は確実に進んでいた。

 だが、それと同じように――俺の悩みもまた、深く根付いていった。


 「王女としての俺」と「剣士としての俺」。


 その二つをどう両立させるのか。

 いや、そもそも――両立などできるものなのか?


 「姫様、そろそろ朝の謁見のお時間です」


 侍女のクラリスが、静かに声をかける。


 「……分かった」


 俺は王宮の広い鏡の前に立ち、自分の姿を見つめた。


 戦いの場では動きやすい騎士風の装いをしていたが、今の俺は美しく織られた青と白のドレスを纏っている。


 袖には細やかな刺繍が施され、金の装飾が施されたティアラが額に添えられていた。


 「……違和感しかねぇな」


 思わず呟く。


 「お美しいですわよ、姫様」


 「お世辞はいい」


 クラリスは微笑んだ。


 「いえ、本当にお似合いですわ。ですが――」


 「ですが?」


 「少し、落ち着かないご様子ですね」


 俺は思わず苦笑した。


 「そりゃそうだろ。戦場で剣を握ってたのに、今はこうしてドレスを着て、貴族たちの前に立つんだぜ?」


 「姫様、それが"王族"というものですわ」


 クラリスの言葉に、俺は思わず眉をひそめる。


 「……王族って、何なんだ?」


 「姫様?」


 俺は深く息をつく。


 「貴族たちは、"王族は剣を取るべきではない"と言う。でも、俺は剣士として生きてきたし、それを捨てるつもりはねぇ」


 「……」


 「じゃあ、俺は"王族"として間違ってるのか?」


 クラリスは、静かに俺を見つめた。


 「間違ってはいませんわ」


 「……?」


 「ですが、姫様。"王族"は"剣士"ではなく、"象徴"なのです」


 「象徴……?」


 「王族の務めとは、民の誇りとなり、彼らに安定をもたらすこと」


 クラリスはゆっくりと続ける。


 「姫様が剣を振るうことは、間違いではありません。しかし、それは"王族のあるべき姿"として受け入れられるとは限りませんわ」


 俺は黙った。


 クラリスの言うことは、正しいのかもしれない。


 だが――それでも、俺は自分の生き方を捨てることはできない。


 王宮の庭園に足を踏み入れると、そこにはユージンがいた。


 「姫様」


 彼はいつものように冷静な表情で、剣を手にしている。


 「ユージン」


 「どうなされましたか?」


 俺は少しだけ逡巡したが、やがて正直に口を開いた。


 「俺は、"王族"としての道と、"剣士"としての道、どちらを選べばいいんだ?」


 ユージンは、一瞬だけ目を見開いた。


 「……なるほど」


 「お前は、どう思う?」


 ユージンは静かに剣を鞘に収める。


 「姫様は、王族としてこの世界に生を受けられました。しかし、剣士としての生き方も捨てることはできない」


 俺は頷く。


 「ならば、その両方を貫けばよいのでは?」


 「……できるのか?」


 ユージンは少しだけ微笑んだ。


 「答えは、姫様ご自身が決めることです」


 俺は、考え込むように剣の柄を握る。


 「だが、貴族どもはそれを認めねぇだろうな」


 「貴族たちは伝統を重んじます。しかし――」


 ユージンは俺の目をじっと見つめた。


 「"伝統"とは、時代に応じて形を変えるものでもあります」


 俺は驚いたように彼を見た。


 「……お前、そんなこと言うタイプだったか?」


 「私は、姫様の騎士です」


 ユージンは静かに微笑む。


 「姫様が何を選ぼうとも、それを支え続けることが私の誓いです」


 俺の胸の奥が、少しだけ軽くなった気がした。


 夕暮れ時、王宮のバルコニーから王都を見下ろした。


 街の復興は着々と進み、人々はそれぞれの人生を歩み始めている。


 「……俺も、俺の道を決めるか」


 ユージンの言葉が胸に響く。


 "伝統は、時代に応じて形を変えるもの"


 ならば――俺もまた、"新しい王族の在り方"を示すべきなのではないか?


 「戦う王女――それが、俺の生き方だ」


 俺はそう呟くと、剣を腰に携えたまま、静かに夜空を見上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ