表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/34

AFTERSTORY第一章

 魔王軍との戦いが終わった王都は、静かに新たな日常を取り戻しつつあった。


 焦げた屋根の修復作業が進み、崩れた城壁は職人たちによって次々と積み直されていく。

 戦火に焼かれた街並みの中で、商人たちは再び店を開き、人々は少しずつ笑顔を取り戻していた。


 しかし、戦いの爪痕は深く、完全な平穏にはまだ遠い。


 そして、その中心にいるのは――俺、レイシア・フォン・アルザード。


 「姫様、本日の会議は午後からとなっております」


 侍女クラリスの穏やかな声が部屋に響く。

 俺は深いため息をつきながら、王宮のバルコニーから王都を見下ろした。


 「……もう少し、ゆっくりできる時間が欲しいな」


 「お言葉ですが、姫様。王族としての責務を果たさなければ、国は回りません」


 「それは分かってるよ……でもなぁ……」


 俺は重たい金の装飾がついた書類を手に取り、眉をひそめる。


 「この書類の量、おかしくねぇか?」


 「王国の復興に関する決定事項が山積みですので」


 「分かってるよ……」


 俺はもう一度ため息をついた。


 「姫様」


 王宮の会議室に入ると、待ち構えていた貴族たちが一斉に起立し、頭を下げる。


 「王国再建のための復興計画について、本日は詳細な議論を行いたく存じます」


 「……分かった」


 俺は椅子に腰を下ろし、貴族たちの視線を正面から受け止める。


 しかし、その視線には……明らかな"警戒"と"不満"が含まれていた。


 「まずは、王城の修繕と兵士の再編についてですが……」


 「それと併せて、王女殿下の"戦闘行為"についても、正式に討議するべきでは?」


 突然、会議室の空気が張り詰める。


 「王女殿下が戦場に立たれるなど、前例がございません。王族としての振る舞いを求める声が、国内外から上がっております」


 「そもそも、王族は前線で剣を振るうべきではないのでは?」


 「アルザード王家は、その威厳を持って国を統べる立場であり、戦士として戦うことを生業とする者ではないはず」


 貴族たちは次々と口を開き、俺の存在を問題視し始める。


 「……」


 俺は静かにそれを聞いていた。


 分かっていたことだ。

 俺のような"戦う王女"が異例なのは、自分でも理解している。


 だが、それでも――


 「俺は、ただ王族として座っているだけの人間になるつもりはねぇよ」


 静かに言い放つと、会議室の空気がピンと張り詰める。


 「戦いは終わった。しかし、今もこの国には剣が必要だ。俺は"王女"としてではなく、この国を守る"一人の人間"として剣を取った。それは今後も変わらない」


 貴族たちは驚いたように顔を見合わせる。


 しかし、一人の老貴族が静かに頷いた。


 「……姫様のご決意は、理解いたしました」


 「ですが、王国の未来を考えるならば、やはり"王"を据えることも考慮せねばなりません」


 「……政略結婚の話か?」


 俺は眉をひそめる。


 「今はそんなことを話す時じゃないだろ」


 「姫様、復興のためには強固な基盤が必要なのです」


 俺は拳を握る。


 「……考えておく」


 それだけ言い残し、俺は会議室を後にした。


 「……貴族どもの意見は、やっぱり堅いな」


 会議室を出たあと、俺は城の中庭へ向かっていた。


 そこには、ユージンが待っていた。


 「お疲れでしょう、姫様」


 「お前まで"姫様"って呼ぶのか?」


 ユージンは微かに微笑む。


 「それが、王族に仕える騎士の務めですので」


 俺はため息をつく。


 「俺は……こんな毎日を送ることになるなんて思ってもみなかった」


 「ですが、姫様は王女としての責務を果たしておられる」


 「……そうなのか?」


 俺は、ふと呟く。


 「俺はただ、戦いたいだけだった。剣士として、自分の誇りを貫くために」


 「しかし、それは姫様の"強さ"でもあります」


 ユージンの言葉に、俺は少しだけ驚く。


 「貴族たちがどう言おうと、私は姫様が決めた道をお支えします」


 俺は、小さく笑う。


 「……お前がいると、少しは気が楽になるな」


 ユージンは無言で微笑んだ。


 「お前、もうすぐ旅立つんだってな」


 王城の見晴らし台。


 そこには、蒼真がいた。


 「……ああ。異国の地に、俺の使命があるらしい」


 蒼真は遠くを見つめながら、ぽつりと言う。


 「本当に、行くのか?」


 「お前がここに残るって決めたなら……俺は俺の道を行く」


 蒼真は静かに言った。


 「寂しくなるな」


 「……俺は、行かないでくれなんて言えねぇからな」


 俺の言葉に、蒼真は苦笑した。


 「分かってるよ、バカ」


 「お前もな」


 俺たちは互いに微笑み合う。


 この世界での新たな日常が始まる――それぞれの道を歩むために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ