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第二十四章:「俺は、王女レイシアとして生きる」

 静寂が満ちた大広間。


 魔法陣の淡い光がゆらめき、古びた魔道書のページが微かに揺れる。

 ここに立つのは、俺、レイシア・フォン・アルザードと――蒼真、そしてユージン。


 「……ついに、ここまで来たな」


 俺は静かに呟く。


 長い間、探し求めた"帰る方法"が、今、目の前にある。

 この魔法陣を使えば、俺は元の世界へ戻ることができる。


 神崎蓮として、男の姿に戻ることができる。


 それが、俺の最初の目的だったはずなのに。


 「蓮……」


 蒼真が、絞り出すように俺の名を呼んだ。


 「お前……本当に、戻るのか?」


 「……」


 俺は魔法陣を見下ろしながら、拳を握る。


 「最初は……絶対に戻るって決めてた」


 「……」


 「でも、今は……俺の中で、もう"帰る"ことが唯一の答えじゃなくなった」


 蒼真の目が揺れる。


 「……それは」


 「俺は……」


 俺はゆっくりと、目を閉じた。


 この世界に来て、俺は多くのものを経験した。

 王女としての宿命を背負い、剣士としての誇りを貫こうとし、そして――この世界の仲間と共に歩んできた。


 蒼真。

 ユージン。

 クラリス。

 そして、この世界の人々。


 彼らと共に生きることが、俺にとって"当たり前"になりつつある。


 俺は、ただ"元に戻りたい"という理由だけで、この世界を捨てられるのか?


 「俺は……王女レイシアとして、生きる」


 言葉にした瞬間、自分の中で何かが決まった気がした。


 「……!」


 蒼真が息を呑む。


 「戻らない、のか?」


 「……ああ」


 俺は蒼真をまっすぐに見つめた。


 「俺は、もう"神崎蓮"じゃない。この世界で生きる"レイシア"なんだ」


 「でも……」


 蒼真の手が、ぎゅっと拳を握るのが見えた。


 「お前は、ずっと帰ることを望んでたじゃないか……! それなのに、今さら……」


 「今さら、じゃねぇよ」


 俺は微笑んだ。


 「俺は、もうここで生きるって決めたんだ」


 蒼真は唇を噛みしめ、俯く。


 「……そうかよ」


 彼の声が、かすかに震えた。


 「じゃあ、俺は……」


 「お前は、お前の道を行けよ」


 俺は、静かに言った。


 「お前は"勇者"なんだろ?」


 蒼真は目を閉じ、深く息を吐いた。


 「……ちくしょう」


 彼は小さく笑った。


 「お前らしいよ、ほんと」


 「だろ?」


 「……けどさ」


 蒼真は、ふっと俺の前に歩み寄る。


 「俺は、まだお前のことを諦められねぇよ」


 「……!」


 蒼真は俺の手を握り、まっすぐな瞳で見つめてくる。


 「お前が王女として生きるって言うなら、それを止めたりしねぇ。でも、それでも俺は、お前のことが好きだ」


 俺の胸が、ざわつく。


 「……」


 「俺は、お前のそばにいる」


 「……バカ」


 俺はそっと、蒼真の手を振り払った。


 「お前は勇者として生きろよ」


 「それでも、お前が俺の心から消えることはねぇよ」


 蒼真の言葉に、俺は何も言えなくなった。


 静かに、ユージンが近づいてくる。


 「姫様」


 彼は、微笑んだ。


 「お帰りを望まれるなら、私は何も言いませんでした。しかし、貴方がこの世界で生きることを選ばれたのなら……私は、心の底から誇らしく思います」


 「……ユージン」


 「私は、王女レイシアに仕える騎士です。これからも、どこまでもお供いたします」


 ユージンの言葉が、胸に深く染みた。


 「ありがとう、ユージン」


 俺は、そっと微笑む。


 魔法陣の光が、ゆっくりと消えていく。


 俺は、元の世界には戻らない。


 この世界で、王女レイシアとして生きる。


 そして、俺は剣を手に取り、歩き出した。


 この新しい人生を、自分の意志で選んだから。


 俺は、もう迷わない――。

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