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第二十二章:「俺は蓮を愛してる」

 戦場は地獄のようだった。


 空を覆う黒雲、舞い散る火の粉、倒れ伏す兵士たちの呻き声――。

 魔王軍の軍勢は圧倒的で、まるで大地そのものが飲み込まれそうな勢いだった。


 俺は剣を振るいながら、必死に前線を押し戻していた。


 「クソ……次から次へと……!」


 魔族の剣士が俺に向かって斬りかかる。


 「はあああっ!」


 俺はすれ違いざまに剣を振り抜き、敵を一閃する。

 血が舞い、魔族が崩れ落ちる。


 「姫様、大丈夫ですか!?」


 ユージンの声が飛んできた。


 「問題ねぇ!」


 俺は叫び返し、すぐに次の敵を迎え撃とうとする。


 そのとき――


 「蓮!!」


 蒼真の声が響いた。


 振り返ると、蒼真が魔王軍の中を駆け抜け、俺のもとへと向かってくる。


 「な、なんでこっちに来てんだよ!?」


 「お前が無茶してるからだろ!」


 蒼真は剣を振るいながら、俺のそばまでたどり着くと、そのまま魔族の攻撃を防ぎ、俺の背中を庇うように立った。


 「おい、何守ろうとしてんだ! 俺は戦える!」


 「分かってる! でも……お前がここで死んだら、俺は……!」


 蒼真が振り向き、俺を真っ直ぐに見つめた。


 「……!」


 その瞬間、世界が静止したような感覚に襲われる。


 蒼真の瞳は、まるで俺のすべてを見透かすかのようだった。


 「蓮……」


 蒼真が、静かに、でも確かに口を開く。


 「俺は……お前を愛してる」


 「――!」


 戦場の喧騒が、遠くなる。


 魔王軍との激戦の中で、剣を交える音が響くこの場所で、蒼真は……俺に、告白した。


 「……は?」


 思わず、俺は剣を握る手が震えた。


 「お、おい、こんな時に……!」


 「こんな時だからこそ、言わなきゃならないんだよ!」


 蒼真は息を荒げながら、必死に言葉を紡ぐ。


 「お前は、俺にとってずっと大切な存在だった。幼馴染として、ライバルとして……でも、それだけじゃなかったんだ」


 「……」


 俺は言葉を失う。


 「お前が"王女"になった時、最初はただ驚いた。でも、それでもお前は"蓮"だった。強くて、真っ直ぐで、バカみたいに諦めが悪くて……」


 蒼真は、微笑む。


 「そんなお前を、俺はずっと見てた。俺の中で、お前は――"好きなやつ"になってた」


 「……っ!」


 心臓が跳ねる。


 剣を持つ手が、震える。


 「お前がどんな姿でも、どんな生き方を選んでも……俺は、お前が好きだ」


 戦場の只中で、蒼真の告白は、静かに、でも確かに俺の心を揺さぶった。


 「俺と一緒に生きてくれ」


 蒼真が手を差し伸べる。


 「俺はお前を守る。ずっと、どんな時でも……!」


 「……っ」


 俺の中で、様々な感情が交錯する。


 蒼真とは、ずっとライバルだった。

 誰よりも競い合い、誰よりも近くにいた。


 でも、それが"愛"だなんて――考えたこともなかった。


 「俺は……」


 混乱しながら、俺は口を開く。


 「俺は、まだ答えを出せねぇ……!」


 「それでいい」


 蒼真は微笑む。


 「でも、今だけは……お前のそばにいさせてくれ」


 俺は――


 「……バカ野郎」


 小さく呟きながらも、蒼真の手を取った。


 「今は、戦うぞ」


 「当然だ」


 俺たちは再び剣を構える。


 戦場の只中で、心臓の鼓動だけが、やけに大きく響いていた。

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