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第二十一章:決戦前夜、二人の想い

 夜の帳が静かに降りる。


 魔王軍との決戦を控えた王都は、不気味なほどの静寂に包まれていた。まるで、嵐の前の静けさのように。


 城のバルコニーで、俺は静かに夜空を見上げていた。


 この世界に来てから、どれだけの時間が経っただろう。

 王女として目覚め、剣士としての自分を模索し、戦う決意を固め――そして、今。


 「……明日で、決まるんだな」


 この世界の未来も、俺の運命も。


 「やっぱり、こんなところにいたな」


 背後から聞こえた声に、俺はゆっくりと振り返った。


 「……蒼真」


 蒼真が腕を組んで立っていた。


 「お前、こういう時は絶対に一人で考え込んでるだろうと思った」


 「……そうかもな」


 俺は小さく笑い、視線を夜空へ戻した。


 「明日、決戦だな」


 「……ああ」


 蒼真が俺の隣に並び、同じように空を見上げる。


 「不安か?」


 「……分からねぇ」


 俺は正直に答えた。


 「戦うこと自体は怖くねぇ。でも……何かが変わる気がする」


 「何か?」


 「この世界も、俺も……全部」


 蒼真は少しだけ黙った後、小さく笑った。


 「お前らしいな」


 「そうか?」


 「そうだよ」


 蒼真はふっと息を吐く。


 「お前はさ、昔からそうだった。勝てるかどうかなんて考える前に、"戦うしかない"って思って突っ込んでいく」


 「……バカにしてるのか?」


 「いや、褒めてるんだよ」


 蒼真はまっすぐに俺を見つめる。


 「お前は、すげぇよ」


 「……急にどうした?」


 俺は怪訝そうに蒼真を見た。


 すると、蒼真は少しだけ視線をそらし、夜空を仰ぐ。


 「なぁ、蓮……いや、レイシア」


 「……ん?」


 「もし……この戦いが終わったらさ」


 蒼真の声が、妙に真剣だった。


 「お前は、どうするんだ?」


 「……どうする、って?」


 「元の世界に戻りたいって、最初は言ってただろ?」


 「……」


 俺は言葉に詰まる。


 確かに、ずっと戻る方法を探していた。でも、今は――


 「……分からねぇ」


 俺は正直に答えた。


 「最初は、絶対に戻りたいって思ってた。でも、今は……この世界にいる"俺"も、俺なんだって思えてきた」


 「……そうか」


 蒼真は静かに呟く。


 そして、少しの沈黙の後、ゆっくりと俺の方を向いた。


 「だったら……」


 蒼真の声が低くなる。


 「もし、お前がこの世界に残るって言うなら……俺は――」


 俺の心臓が、不意に跳ねた。


 「……え?」


 蒼真はまっすぐ俺を見つめている。


 「俺は、お前のそばにいたい」


 ――何を、言ってるんだ?


 「お前は、ずっと俺の"ライバル"だった。幼馴染で、最高の剣士で……負けたくない相手だった」


 蒼真の言葉が、真剣すぎて、俺は戸惑う。


 「でも……今のお前を見てると、なんていうか……その……」


 蒼真が、珍しく言葉を詰まらせた。


 「……俺は、お前に――」


 「……待て」


 俺は咄嗟に手を挙げた。


 「お前、何を言おうとしてる?」


 「……っ!」


 蒼真が、ほんの一瞬だけ顔を赤くする。


 「いや、その……!」


 「……」


 俺は、心臓の音がやけにうるさい気がした。


 「俺、お前のこと……」


 蒼真が、何かを言いかけた――その瞬間。


 ゴォォォォン――!


 城の鐘が鳴り響いた。


 「っ!?」


 俺たちは同時に振り向く。


 「魔王軍の動きがあったのか……!?」


 「くそ……!」


 蒼真は歯を食いしばり、俺を一瞬だけ見つめた。


 「……行くぞ、蓮」


 「……ああ」


 俺たちは、互いに頷き合い、城を駆け出した。


 ――俺は、今、何を聞きかけたんだ?


 ――いや、それよりも……


 決戦が、ついに始まる。

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