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第二十章:魔王軍の襲来

 不吉な空が王都を覆っていた。


 紫がかった雲が低く垂れ込め、黒い雷が空を裂く。遠くから響く地響きのような振動が、大地を震わせている。


 「……ついに来たか」


 城のバルコニーからその光景を見下ろしながら、俺は深く息をついた。


 「姫様」


 ユージンが静かに言う。


 「魔王軍が王都に向けて進軍を開始しました。報告では、おそらく明朝には城門へ到達するとのことです」


 「……そうか」


 俺は拳を握る。


 この日が来ることは分かっていた。


 勇者として召喚された蒼真が戦う運命にある以上、いずれ魔王軍と衝突するのは避けられなかった。


 「蒼真は?」


 「すでに戦支度を整え、軍と共に前線へ向かいました」


 「……そうか」


 俺の胸に、言いようのない感情が渦巻く。


 蒼真は勇者として、この世界を救うために戦っている。

 それが、彼の"役目"なのだ。


 だけど――


 「ユージン」


 「はい」


 俺は彼を真っ直ぐに見た。


 「俺も、戦う」


 ユージンは一瞬、目を見開いた。


 「……姫様?」


 「俺は、ただ王城で待つだけなんてまっぴらごめんだ」


 俺の言葉に、ユージンの表情が険しくなる。


 「ですが、姫様……王族が前線に立つのは、あまりにも危険です」


 「そんなことは分かってる」


 俺は拳を握りしめた。


 「でもな、俺はもう"守られるだけの存在"じゃねぇ」


 ユージンは沈黙する。


 「この世界に来てから、ずっと考えてた。俺は、何のためにここにいるのか」


 「……」


 「最初は、ただ元に戻る方法を探していた。でも今は違う」


 俺は自分の胸に手を当てる。


 「この世界で、俺は王女として生きている。そして、剣士としても生きている」


 「……」


 「なら、俺は"この世界のために戦う"」


 ユージンの目が揺れる。


 「……ですが、姫様」


 「ユージン、お前は俺の騎士だろ?」


 俺は微笑む。


 「なら、俺が決めたことに付き合えよ」


 ユージンはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。


 「……お仕えする身としては、手のかかる主ですね」


 「悪いな」


 「いいえ」


 ユージンは剣の柄に手をかけ、俺の前に膝をついた。


 「姫様が戦うとお決めになったのなら、私はどこまでもお供いたします」


 俺は、静かに頷いた。


 夜が明け、戦場は混乱の渦に包まれていた。


 「――押し込まれるな! 陣を維持しろ!」


 蒼真の怒声が戦場に響く。


 魔王軍の黒き騎士たちが、次々と剣を振り下ろす。


 俺はその中に飛び込んだ。


 「はあああっ!」


 剣を振るい、黒き騎士の一体を斬り伏せる。


 「っ!?」


 敵の動きが一瞬止まる。


 「な、なんでお前がここにいるんだよ!」


 蒼真の叫びが聞こえる。


 「俺も戦うって言っただろ!」


 「バカかお前は!」


 蒼真が俺の腕を掴む。


 「お前は王女なんだぞ! 戦場に出てくるなんて……!」


 「王女だろうがなんだろうが、関係ねぇ!」


 俺は腕を振り払う。


 「俺は剣士だ! そして、この世界にいる"レイシア・フォン・アルザード"なんだ!」


 蒼真が驚いたように俺を見る。


 「……お前、マジかよ」


 「マジだよ」


 俺は剣を構え、目の前の敵を見据えた。


 「俺はもう迷わねぇ。王女として、剣士として……"この世界を守る"!」


 蒼真はしばらく俺を見つめていたが、やがて大きく息を吐いた。


 「……お前ってやつは、本当に……」


 そして、ふっと笑う。


 「いいぜ、蓮……いや、レイシア」


 蒼真が剣を構える。


 「なら、俺の隣で戦え!」


 「上等だ!」


 俺たちは互いに背を預け、剣を構える。


 ――この戦いを、終わらせるために。


 王女として、剣士として――俺は、この世界のために戦う!

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