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第十四章:急接近するユージン

 舞踏会が終わり、俺はやっとの思いで自室へ戻ってきた。


 「はぁ……疲れた……」


 フカフカのソファに座り込み、ぐったりとため息をつく。


 貴族たちに囲まれ、王女らしい振る舞いを求められ、さらにはダンスまで踊らされる――

 人生でこんなに気を遣った日はなかった。


 「俺、もう二度とあんな場所行きたくねぇ……」


 そうぼやいていると、ノックの音がした。


 「姫様、お邪魔しても?」


 ユージンの落ち着いた声が聞こえる。


 「……ああ、入れよ」


 俺がそう言うと、ユージンは静かに部屋へ入ってきた。


 「お疲れのようですね」


 「当たり前だろ……慣れねぇことばっかで、こっちはヘトヘトなんだよ」


 俺は背もたれに頭を預けながら、ユージンを見上げる。


 「それに……アイツのせいで余計に疲れた」


 「"アイツ"とは?」


 「蒼真だよ」


 俺がそう言うと、ユージンは微かに目を細めた。


 「確かに、勇者殿は姫様と非常に親しげなご様子でした」


 「……まぁ、幼馴染だからな」


 俺が肩をすくめると、ユージンは何かを考えるように少し黙り込んだ。


 「……?」


 なんだ? いつも冷静なユージンの表情が、どこか複雑に見える。


 「……どうかしたか?」


 俺が尋ねると、ユージンは微かにため息をついた。


 「いえ、ただ……」


 ユージンは静かに俺に近づいてくる。


 「……?」


 気づけば、俺とユージンの距離はかなり近かった。


 「ちょ、ちょっと……」


 思わず後ずさろうとするが、ソファに座っているせいで逃げ場がない。


 「姫様」


 ユージンが低い声で囁く。


 「……な、なんだよ」


 「貴族たちは、皆、姫様に魅了されていましたね」


 「……は?」


 「特に、ダンスの時……姫様の美しさに、誰もが息を呑んでいました」


 ユージンの言葉に、俺の心臓がドクンと跳ねる。


 「……お前、何言って……」


 「私は……」


 ユージンが俺をじっと見つめる。


 「……貴族たちが姫様に向ける視線が、少し、気に入りませんでした」


 「……っ!」


 その言葉の意味を理解した瞬間、俺の顔が一気に熱くなる。


 「お、お前……それって……」


 「おそらく、"騎士としての忠誠心"では説明できない感情なのでしょう」


 ユージンが俺の手をそっと取る。


 「なっ……!」


 「私は、姫様の剣となる存在……それは揺るぎません。しかし……」


 ユージンの指が、俺の手の甲をなぞるように動く。


 「それ以上の感情が芽生え始めていることを、自覚しております」


 ユージンの瞳は、深く、静かに俺を見つめていた。


 「ちょ、ちょっと待て……」


 俺は慌てて手を引こうとするが、ユージンは優しく、それでいてしっかりと俺の手を握ったまま離さない。


 「姫様……」


 「や、やめろって! 俺は男だったんだぞ!? そんな……!」


 「分かっています」


 ユージンは穏やかに微笑む。


 「ですが、私の心がどう感じるかは、別の話です」


 「……っ!」


 俺は完全に混乱していた。


 ユージンは、俺のことを"王女"として見ているのか? それとも――


 「私は、姫様をお守りするだけではなく……」


 ユージンがそっと顔を近づける。


 「……姫様の隣にいる者になりたいと、思うようになりました」


 「っ……!」


 俺の心臓が、異常なほどに速く脈打っているのが分かる。


 「……冗談、だろ?」


 震える声で問いかけると、ユージンは静かに首を振った。


 「いいえ、本気です」


 ユージンの真剣な瞳に、俺は言葉を失った。


 俺は、どうすればいい?


 このままユージンを拒絶するべきか? それとも――


 「……姫様」


 ユージンが俺の手を優しく握る。


 俺は、ただ、彼を見つめることしかできなかった。

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