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第十章:「神崎……お前なのか?」

 異世界に召喚され、王女として生きることを強いられ、ついには勇者召喚の儀式が執り行われた。

 そして――そこに現れたのは、俺のよく知る顔だった。


 橘蒼真。

 俺の幼馴染であり、最大のライバル。


 その彼が、異世界の勇者として召喚され、目の前に立っている。


 「……え?」


 蒼真の目が、驚愕に見開かれる。


 「お、お前……」


 俺はゆっくりと息を吸い、吐いた。


 「……久しぶりだな、蒼真」


 静かにそう言った。


 だが、蒼真は俺をまじまじと見つめたまま、まるで信じられないものを見るような目をしている。


 「ま、待て……お前、神崎……だよな?」


 「……ああ」


 俺が頷いた瞬間、蒼真は言葉を失った。


 彼の視線が、俺の顔から、流れる銀髪へ、そして俺の身体へとゆっくりと動く。


 そして――


 「……なんで、お前が女になってるんだよ!?」


 驚愕と戸惑いの入り混じった声が、大広間に響き渡った。


 俺は思わず顔をしかめる。


 「だから、そういう反応はやめろって……」


 「いやいやいや! どう考えてもおかしいだろ!? お前、男だったよな!? それが、なんでこんな……こんな……」


 蒼真は俺を指差しながら、困惑を隠せない様子だった。


 「……その話は後で説明する」


 「説明って……お前、何がどうなったら、こうなるんだよ……」


 「俺が聞きてぇよ」


 俺がため息混じりにそう言うと、蒼真は少しだけ眉をひそめた。


 「……マジなのか?」


 「マジだよ」


 「冗談じゃなくて?」


 「お前、俺がこんな冗談言うと思うか?」


 「……いや、それもそうだけど……」


 蒼真は頭を抱え込む。


 「くそ……マジでわけが分からねぇ……」


 そして、再び俺を見つめた。その瞳には、まだ信じられないという感情が渦巻いている。


 「お前……本当に、神崎蓮なのか?」


 俺は苦笑しながら答えた。


 「……ああ、そうだよ」


 その言葉を聞いた蒼真は、しばらく俺を見つめた後、深く息をついた。


 「……本当に、お前なんだな」


 そう言うと、彼はゆっくりと歩み寄ってきた。


 「おい、近づきすぎだろ」


 俺が一歩後ずさると、蒼真は怪訝そうな顔をする。


 「は? なんでお前がそんな反応するんだよ」


 「……お前が近いからだ」


 「は?」


 蒼真はますます困惑したように首を傾げる。


 「いやいや、お前、今までこんなことで気にしたことなかっただろ?」


 「それは俺が男だったからだ」


 「……今もお前はお前だろ?」


 「身体が違うんだよ、身体が」


 俺が頬を染めながら言うと、蒼真はようやく何かに気づいたように「あ……」と声を漏らした。


 「……ってことは、お前、今、"女の子"の感覚なんだな……?」


 「うるさい」


 俺がムスッとした顔で答えると、蒼真は思わず吹き出した。


 「くっ……ははっ、マジかよ……お前がこんな反応するなんて……」


 「笑うな!」


 俺は蒼真の胸を軽く叩く。


 だが、その瞬間――


 「……っ!」


 俺は自分の手を見て、驚いた。


 蒼真の胸板が、思ったよりも硬かったのだ。


 「……お前、いつの間にそんな鍛えた?」


 「は? もともとこれくらいだっただろ?」


 「……いや、俺が前の身体のときよりも、もっと……」


 「お前、今の身体が華奢だからだろ」


 蒼真は少し困ったように言う。


 「そういう意味じゃなくて……」


 俺が何か言おうとした瞬間、ユージンが咳払いをした。


 「お二人とも、再会を喜ぶのは結構ですが……今は状況を把握する方が先決かと」


 「……あ」


 そうだった。


 蒼真がここに来たってことは――


 「お前、本当に"勇者"として召喚されたのか?」


 「……らしいな」


 蒼真は肩をすくめながら言った。


 「俺も詳しいことは分からねぇけど、なんか"この国を救え"って言われたよ」


 「……勇者、ねぇ……」


 俺は呟く。


 俺が王女に、そして蒼真が勇者に――


 「運命ってのは、ずいぶん皮肉だな」


 「まったくだな」


 蒼真が苦笑しながら言った。


 こうして、俺と蒼真の再会は、最悪なほどにややこしい形で迎えられたのだった。

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