ep2 覚醒?
隠れるために入った部屋にはたくさんの本とノートが散らばっていた。実験の記録や専門書が置かれていたんだろう。
「アーシェラ、あいつを倒す方法を考えるぞ‼なんかアイデアあるか?」
「・・・・・」
「俺は本気だぞ。」
「自殺を手伝う趣味はない。」
「死んでも倒すんだよ。」
「お前がやらなくてもいい仕事だろ。」
「いや、俺の仕事だ。」
目を見つめながら言い切ってやる。こういう大事な時には、相手の目を見て話すのが大事って飲み屋のおっさんが言ってた気がするからな。
「王国騎士が倒すだろ。」
「たぶん王国騎士でも荷が重いだろ。」
俺の予想が正しければ、あれは人間が止められるもんじゃねえ。戦場で生き残るコツは相手との力量差を正確に把握することだ。俺はそうやって生きてきた。だが、今回の敵は、次元が違うところにいる。神の領域に突入しそう、ってかもう突入してるかも。
「お前じゃ、絶対に暴走は止められない。」
「やってみなきゃわからんだろ。」
「断言できる。お前じゃ、絶対に無理だ。それとも何か?負けると分かってて、死んでもいいから戦いたいんですか?」
「あたりまえだろ。俺も軍人の端くれだからな。戦うときは死ぬ覚悟持ってるわ。」
アーシェラの鉱物のような無機質な眼が濁ったように感じた。こいつがこういう目をするのは迷っているときだ。
「綺麗事は置いといて、それがお前の選択か?ここで死んでも胸張れるか?」
無言でうなずく。数秒の沈黙が俺たちの間を支配する。耳に入ってくるのは遠くで聞こえる怒号と、爆発音のみだ。
大きなため息をつきながらアーシェラが応える。
「生命を魔力に変換する魔法がある。」
「それもありだ。ちなみに俺は精霊鎧を思いついてた。」
アーシェラの目をみてにやりと笑ってやった。こいつには俺と生死を共にしてもらう。
精霊鎧、精霊武装とといわれることもあるな。これは、自分の契約精霊を鎧のように自分の体にまとわりつかせて、防御力と身体能力を上げる魔法のことだ。これのメリットは、魔力場の中でも精霊ほどの魔力量であれば存在できるため、接近戦が仕掛けられるというところにある。(精霊は魔力の塊が意思をもったような存在なので体を自由に可変できるんだ。)
接近戦を仕掛ければ、きえる光球の使いどころをかなり絞れる。知性がどれほど残っているのかはわからんが、少なくも自分ごと消し飛ばそうとはしないはずだ。
相手の攻撃パターンの一つをつぶせれば相当大きい。しかも、精霊であれば魔力場内でも魔法が使える。敵に通用するかはおいておいて、さっきみたいに生身の人間が戦うよりは圧倒的に良い。じゃあ、さっき使っとけって?わかってないな、俺程度の魔法使いじゃ発動に時間がかかりすぎて精霊鎧する前にお陀仏よ。
「お前と心中なんて御免なんだが。」
「冗談きついぜ、ジョニー。」
まったく、冗談は顔だけにしてほしいわ。俺とお前の仲だろーが。
「そうそう、よくある海外のコメディドラマのセリフね。そういうときの名前は大体ジョニーだもんね。多分ジョークと響きが似ているからなんだろうねっておーい、俺の名前アーシェラやがな。」
今ののり突っ込みは65点くらいだな。てかドラマってなんだ?聞いたことないんだけど、どこの国の単語やねん。
「まあ、話が崖から飛び降り自殺してるけど、今出た二つがまだ現実的な案だよな。」
やろうと思えば、5人くらい集めて魔力タンクにする外道魔法もあるし、完全に魔力を遮断する装備を身に着けてヒット&アウェイで戦うとか、いくつか思いつくけどどれも無理なので却下。
「ちなみに、お前、精霊鎧のやり方知ってる?」
「いわわわわわ、知るわけねーだろ、このあほんだらぁ。」
「キャラ薄いのごまかすためであっても、もっと笑い方練って来いよバカ。」
「いいだろーが、もしアニメ化とかなったときに『キャラ濃いな』って思ってもらえるだろーが。お前も笑い方ひととととと、とかにしてきいや。」
「また話がややこしくなってるだろーが。笑い方なんてどーでもいいんだよ。周り見てみろ。まるで準備されていたかのように、本とかデータが散らばってるからあいつを倒す方法をこの中から探すぞ。多分、物語の構成的にここで覚醒への手がかりつかんで、あいつぶっ飛ばして国を救った英雄になるんだよ。」
「そんなネタバレをキャラに言わせる馬鹿な作者がいるわけねーだろ。遊戯王のアニメの次回予告じゃないんだから。今の発言が完全にバットエンドへのフラグになってるわ。」
アニメ?遊戯王?こいつ何を言ってるんだ?俺の知らない単語を使って会話すんじゃねーよ。
だめだ、会話するとらちが明かない、黙って探さなきゃ。さっきも言ったように、ここは王国の頭脳が集まっていたローデン王立研究所だ。おそらく、禁忌とされているような魔法に関しても何かしらの情報があるはずだ。まずは一番近くにある本棚から調べてみるか、これなんか真っ黒でいかにも怪しい雰囲気が出てるぞ、どれどれ。
「うんち、うんこ、大便、ウンピの適切な使い分けに関する研究、ふざけてんのか‼」
思わず床にぶん投げちまった。なんじゃこのひどい研究は。俺でももっとましな研究テーマ出せるわ。次だ、次。
「ヲタクに優しいギャルの見つけ方~論理徹底解説編~」
これはいい研究だ。どさくさに紛れて持って帰っちゃお。
「おいライアン、これなんてどうだ。」
「えーと・・・生命倫理にかかわる魔術~終~。」
何でここではまじめな本もってくるんだよ。さっきまでノリ突込みとかで暴れてたやん。これじゃ、うんこの本とかギャルの本とか漁ってた俺がばかみたいだろーが。
「よさそうだな、アーシェラはこれを調べてくれ。俺は他のも探してみるわ。」
「おけ。」
さっきは意味わからん本ばっかだったからな。本棚変えるか。こっちの本棚は分厚い本ばかりでいかにも専門書って感じだ。よし、気合入れて探すぞ。
「スーゴ・イハカセデスによる全く新しい精霊学」
たしか、スーゴ先生はとんでもなく権威のあるすごい博士だった気がする。これを調べてみるか。
全然見つからない、さっきか十分くらい黙々と探しているのに、精霊鎧の方法どころか生命力変換に関しても収穫はゼロ。これは、調べ終わる前に決着がつくかもな。正直かなり焦っている。
「ライアン、これを見てみろ。」
アーシェラが赤い本をこちらに投げてくる。よく見るとまだらな赤い模様だった。何があったかは想像に難くない、誰かの血潮がついた本なのだろう。タイトルは『危険な生命魔法集』。
開いて内容を確かめると命を引き換えに、使用できる魔力量を一時的に増やす術式について書かれていた。まあ、ややこしいから生命変換魔法と呼ぶことにする。
この本によると、魔力を生み出す魔臓と呼ばれる器官に加速魔法をかけることで大幅に魔力量を増やせるそうだ。これが何で死につながるかというと、魔臓には作り出せる魔力量に限りがあるからだ。限界を超えて魔力を生み出すことはできないため、魔臓が機能しなくなる。そうなると生命活動の一部に魔力を使っている我々人間はどうしようもなくなるのだ。
「でかしたぞ、さっそく準備しよう、脇腹に魔法陣を書く必要があるっぽいな。なんかナイフかなんか持ってこいアーシェラ。俺はもう少しだけ精霊鎧の方法探してみるわ。」
片手をあげて了解の合図をしてアーシェラが部屋を出ていく。外では相変わらず激しい剣戟や魔法の音が響いている。まだ王国騎士が倒されていないし、倒してもいない証拠だ。
さて、精霊鎧の本を探す前に本の公式使って、活動時間と魔力量の関係を導き出しますか。どんくらいの魔力出量が確保できて、活動時間がどの程度なのかがわからないと作戦もくそもないからな。
計算に没頭しいると、ひときわ大きな爆音が響いた。遅れて爆風が部屋を荒らして去っていく。こんな状況なのにこの風を心地よく感じる俺はもうぶっ壊れているのかもしれん。
ほとんどの本に火が付いたり、吹き飛ばされてなくなったりしているなかで、一冊だけ真っ白な本が目の前に落ちてきた。なんだこの神々しい本は、
「アルモヘレナの重なる扉」
なんじゃこのタイトル、何に関して書いてあるんだか分からんぞ。
まあ、なんか運命的なものを感じるから読んどくんだけどね。真っ黒い本ばっかりの中の真っ白い本だぞ、どう考えても重要。
さて、この本を読む前に少しばかり予備知識を確認しよう。アルモヘレナは魔法にかかわる人間ならだれでも知ってる名前だ。まあ、よくない意味で有名なんだけどね。
彼のフルネームはエリウス・サレルニ・アルモヘレナ。どこの国の人だったかは忘れたが、今から30年前に契約精霊や時空魔法の研究者として有名だった人だ。生まれるのが早すぎた天才ともてはやされていたが、彼が35歳の時に発表した論文『精霊の本質』というのが物議をかもすことになる。
いまでも謎が多い契約精霊のことを、並行世界の住人だと言い出したのだ。精霊と契約するということは、並行世界、俗にいうパラレルワールドの中の自分を好きな時に呼び出せるようにする魔法で、精霊の姿が人に近いものが多いのも、奇妙なほど性格が似通っているのも、そのためだといったのだ。まあ、俺の場合だと、別世界のライアンを無理やり呼び出して精霊という形にしてアーシェラとして利用してるわけだ。
これには、他の精霊研究者たちが猛反発。まず並行世界の存在を証明しろとか、大気中に存在している高濃度の魔力の塊はどう説明するのかとか、挙句の果てにはハゲを直すにはどうするんだとか全く関係ない話をしだしてくる人もいたとかいなかったとか。これだけ同業者たちから大バッシングを受けたアルモヘレナだったが、自説を取り下げることはなく、それどころか並行世界に干渉しようと精霊を使って大規模な研究を開始した。
しかし、この研究が原因で彼は狂ってしまい、歴史に狂人として名を残すことになる。いくつもの実験の果てに自我を失い、真っ白い人型の怪物となり、街をいくつか崩壊させるほどの大暴走の末に42歳で死んだのだ。死傷者の数は数えきれないほどで、彼が通った跡は真っ赤に染まっていたため追跡は容易だったという。それでも、当時の国の精鋭部隊ですら止めようがなく、三日三晩にわたり破壊の限りを尽くした後で突然爆散したそうだ。この事件を忘れないように当時の崩壊した街並みと血の道は、負の遺産として今も見れる。行ってみたいね。
さてさて、ここまで読んでくれた人ならなんとなく察しているんじゃないか?自我を失うほどの暴走、元人間、そう、あそこで暴れまわっている黒い奴だ。色が違うのが気になるが、俺は何らかの事故で誰かがアルモヘレナと同じことをしてしまい、あの黒い奴は誕生してしまったのだと思っている。現にアルモヘレナの本もここにあるしな。予備知識を確認したところで中身を見てみますか。
一応、ギャグ回のつもりです




