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ゾンビマン  作者: 上城ダンケ
ロンサム•クロウ
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第8話 受付嬢のヒストリア

「そのクエスト、お前には無理だ。やめとけ」

「いやです! ご褒美の金貨10枚はフレデリカのものなのです! 返してなの!」

「金貨なら、さっきの革袋にたんまり入っているだろう? それで我慢しろ」

「やだーっ! フレデリカ、そのクエストで、大儲けするです! だから、返して!」

「お前には無理だって言ってるだろ?」

「無理じゃないです! 返して! フレデリカのクエスト、かーえーしーてー!」


 俺から受注書を取り戻そうとフレデリカが飛び跳ねる。


「諦めろ」

「KKの意地悪! やっぱりKKは泥棒です! 人のクエスト盗ったです!」

「盗ってない。受注書を大広間の壁に戻すだけだ」

「うわーん、フレデリカ、騙されたよぉ、意地悪のKKにクエスト盗られたよぉー!!」


 フレデリカが泣き始めた。通路に幼いサキュバスの泣き声が響く。注目を集める俺。本日二回目だ。


「どうしました?」


 俺の背後から声がした。振り返ると、見覚えのある顔の女が立っていた。


「ヒストリアか」

「はい、そうです。名前覚えててくれたのですね。嬉しく思います」

「ほとんど毎日会ってるからな」

「ところでKKさん、私の職業、ご存じかしら?」

「もちろん。ギルド会館の職員だ」

「そうです。よくできました。ギルド会館職員、クエスト担当のヒストリアです」


 どこからか風が吹き、ヒストリアの銀色の髪が揺れた。

 ヒストリアは魔法使いだ。純白のローブには正義を象徴する天秤の刺繡が施されている。

 それは、彼女がギルド内秩序を維持するための実力行使を許可されていることを示していた。

 彼女の穏やかな表情と繊細な肢体、見た目の麗しさに騙されてはいけない。クエストを管理し、その成否を審査する。それがクエスト担当すなわちクエスト受付嬢の仕事だ。

 様々な冒険者に毅然と立ち向かい、不正を働く冒険者をギルドから追放、場合によっては評議会に引き渡すまでが彼女の職務なのだ。彼女の魔法攻撃力は並の冒険者では決してかなわない。


「KKさん、冒険者ギルドに加入して何年になりました?」

「8年くらいだが?」

「ではギルドルールもご存じですね?」

「もちろん」


 ヒストリアが流れるような動きで俺の手から受注書を抜き取り、そのままフレデリカに受注書を渡した。


「わーい、フレデリカのクエスト戻ってきたです! お姉さん、ありがとなのです!」

「おい、待て、何をしてるんだ!」

「他人のクエストを奪ってはならない。このルール、知らないわけではありませんね?」


 詰め寄る俺に、ヒストリアは厳しい口調で言った。


「もちろん知ってる。だが、この場合そんなの関係ないだろう? このサキュバスの小娘は無印なんだぞ? 今日冒険者になったばかりなんだぞ? そんなド素人がファーストクエストにS級クエストを選びやがったんだ。死にに行くようなものだろうが! それでも、ギルドルールが優先されるっての言うのか?」

「ええ。もちろん。如何なる場合もギルドルールに例外はありません。ギルド評議会の定めたギルドルールは絶対です。KKさんに私は一度目の警告を行いました。二度目はありません。これ以上逆らうならばドッグタグ剥奪しますが、よろしいですか?

「……つまりギルド追放ってことか?」

「そうなりますね」

「しかしだな」

「言いたいことは分かります」


 ヒストリアが俺のセリフを制止した。


「私とてこの幼いサキュバスを見殺しにはしたくありません。ですがギルドルールは絶対なのです。『すべては自己責任』であり『クエスト受注は早い者勝ち』、そして『他人のクエストを奪ってはならない』。これは動きようがありません」


 天秤の刺繡は伊達じゃない。これ以上俺が意見を言おうものなら容赦なく俺をギルドから追放するだろう。


「さて、サキュバスのお嬢さま」


 ヒストリアがフレデリカに向き直る。


「フレデリカです」

「フレデリカさん。貴方、本当にそのクエスト受注するのかしら?」

「はい!」

「そのクエスト、とっても危険ですよ。冒険者デビューには向いてないと思いますけれども」

「そうですか?」

「そうですよ。今ならまだ間に合います。そのクエスト、受注を諦めてはどうですか?」

「嫌です! これがいいです!」

「そうですか」


 ヒストリアが残念そうに肩をすくめ、俺を一瞥する。


「私にできるのはここまでです、KK」


 そう言ってどこからかペンを取り出し、受注書にクエスト受理のサインをした。


「はい、フレデリカさん。これでクエストは受注されました。頑張ってください。クエスト保険をかけるならば、これはS級クエストですので金貨1枚になりますが、いかがします?」

「いいです! フレデリカ、強いですから!」

「そうですか」


 再びヒストリアが俺の方を見る。


「だそうです、KK。困ったものですね」

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