第6話 クエスト受注は早い者勝ちだよ、KK?
大広間の壁のクエスト受注書。冒険者たちは自分のレベルに応じたクエストを探し出す。
冒険者のレベルは全部で4段階。無印、B級、A級、S級である。レベル認定は至極簡単で、そのランクのクエストを10回成功させればギルドが認定してくれる。別に無印から順番に登り詰める必要は無い。ギルドルール「すべては自己責任」に基づき、いきなりS級クエストをやってもいい。とさいえ未経験の新人がいきなりS級クエストを受注しても死ぬがな。
「さてと。どれにするか」
S級を中心にクエストの品定めを始める。魔法が使えなくなっても、腐っても元王立魔法軍軍人なのだ。冒険者ごっこの連中とは鍛え方が違う。俺が受注するのは基本的にS級だ。不死身だしな。
「ナンバーダンジョン最奥部からのS級パーティー救出、か。めんどくさそうだ。パス。……ゴブリン盗賊団の殲滅? 推定ゴブリン数1024匹だと? 何日かかると思ってるんだ。俺はそんなに暇じゃない。パス」
今日のクエストは外れが多い。単純にめんどくさくて手間がかかるものがS級に分類されているようだ。
今日はA級クエストでも受注するかと諦めていた頃、一枚の受注書が目を引いた。
「ナンバーダンジョンの再探索か。パーティー救出クエストといい、ナンバーダンジョンがらみが多いな」
これにするか、と手を伸ばす。
「なになに? 報酬金貨20枚! なんて破格なの! もーらい!」
俺が受注書をつかむ寸前、女の手が受注書を剥ぎ取った。
「そのクエスト、俺が先に目をつけたんだがな」
「あら、そうだったの?」
受注書を手に女が悪戯っぽく笑った。
女の顔には見覚えがある。S級パーティー「スターゲイザー」のリーダー、魔法剣士のヒルダだ。
光を乱反射して虹色の輝く金髪に、切れ長の碧い瞳。スタイルは抜群に良く、動きやすいよう短くしたスカートから伸びる足はすらりと長く、透き通るように白い。
秀でているのは美貌だけではない。魔法軍隊長だった父親譲りの剣術、類稀なる魔法の才能。冒険者の頂点に立つと同時に憧れの存在である。
「クエスト受注は早い者勝ち。ギルドルール知ってるよね?」
「俺の方が先に手を伸ばしたはずだ。早い者勝ちというなら、俺に権利があるだろう?」
「いいじゃんいいじゃん。堅いこと言わないの。ホント、堅いんだから」
ヒルダが俺の甲冑を小突いた。
「やめろ。呪われし甲冑なんだぞ。手が腐るって噂だ」
「やだ! そうなの!? 知ってたけど! もっと触っちゃお!」
「だから、やめろって言ってる」
ぺたぺた俺の甲冑を触るヒルダ。俺はゆっくりその手を払いのけた。
「ところで、さっきのアレだけど」
名残惜しそうに指先を甲冑に這わせながらヒルダが言った。
「アレ?」
「そう、アレ。相変わらずお節介焼きね。幼いサキュバスを助けるだなんて」
「見てたのか」
「ええ。最初から。金貨渡して席を立つとこまで全部。じーっと見させてもらいました」
「趣味悪いな」
「真っ黒い甲冑を一年中着ているような男に言われたくないですぅ」
「そんなに俺の裸が見たいのなら、脱ごうか? あまりの醜さに卒倒するぜ?」
薄暗いギルド会館。短時間であれば甲冑を脱いでも日光に焼かれて死ぬことはない。
「遠慮しとくわ。ルラルちゃんに怒られちゃう。お兄ちゃんの裸、見ちゃイヤーって」
「ルラルはそんなこと言わないし、だいたい、俺のことをお兄ちゃんとは呼ばん」
「昔は言ってたけどなー」
「そんな昔のことは忘れたな」
「昔、か。そうね。人魔大戦以前だもんね。私もルラルちゃんも子どもだったなー」
「お前は今でも子どもだ」
「あら、こう見えても18歳ですけど?」
「俺より10歳若い。十分子どもだ」
「そうね、KKはおっさんだもんね」
ニヤけた笑いを浮かべつつヒルダが言った。
「ということで、おっさんのKKに言いたいことがあるんだけど?」
「なんだ?」
「この前の返事まだなんだけどな」
「返事? なんのことだ?」
「えー忘れたの? ひっどーい! うちのパーティーに誘ったじゃない! 臨時要員としてスターゲイザーに入らないかって!」
「そういえば……」
先週そんなこと言われた気がする。
「もう、本当にKKって私のこと気にしてないよね? ルラルちゃんに言いつけちゃうから!」
ふくれっ面でヒルダが俺を睨みつつ言った。
「好きにしろ」
「で、どうなの? スターゲイザーに入ってくれるの、くれないの?」
「もちろんお断りだ」
「えー!? なんでー!? スターゲイザーだよ? 自分で言うのもなんだけど、人気実力ともにナンバーワンパーティーだよ?」
「俺はソロを貫くって決めたんだ」
「そんなの知ってるよ。知ってて頼んでるの。私、KKのことなら何だって知ってるよ? だってえ、一緒にお風呂に入った仲だもん。ね?」
意地悪い笑顔を浮かべてヒルダが言った。
「ああ、そうだったな。グレグ師範の命令で何度もお前を風呂に入れた。それどころかオムツだって替えたことがある」
「え!? 私の……オムツを替えたりしてたの?」
「グレグ師範がやれと言えば何でもやった」
「オムツ替えたってことは……見、見た!? 私のいろんなとこ、見たの!?」
「見ずに交換は出来ない」
みるみるうちにヒルダの顔が赤くなった。耳まで真っ赤だ。
「へんたい! KKの変態!」
再び拳で俺の甲冑を叩く。今度はそこそこ本気のようだ。
「私、お嫁に行けないじゃない! 責任取ってよ、KK!」
「わかった」
「……え?」