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ゾンビマン  作者: 上城ダンケ
ロンサム•クロウ
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第4話 食堂のゾンビマンとサキュバス

「えーっと、大丈夫です、お腹空いてません」


 ぎゅるるる。フレデリカの胴体が奏でる空気音。


「お、おならじゃないもん!」


 赤い顔で俺に訴える。


「わかってる。腹の虫だ。腹減ってるんだろう? 遠慮するな。飯を食え」


 改めてフレデリカに聞く。


「でもフレデリカ、お金持ってないです……」

「金ならある。心配するな」

「ほ、ホントですか?」

「ああ。さっきあのデブから慰謝料を貰っておいたんでな。お前には受け取る権利がある」


 パンパンに膨れ上がった革袋をフレデリカに見せた。先ほどデブから抜き取ったものだ。中には金貨と銀貨がびっしり入っている。


「おお! KKは凄いです! プロの泥棒さんなのです!」

「人聞きが悪いな。俺は泥棒じゃないぜ。正当な対価を頂いたまでだ」

「ごめんなさいです……」

「別にいい。とりあえず、座ろう。ここはあのデブが汚したから、あっちのテーブルはどうだ?」


 俺は入り口付近のテーブルを指さした。フレデリカは笑顔で頷き、そのテーブルに走り寄る。


「メニューは壁にある。好きなもの頼め」

「ふむう……フレデリカは、スープとパンとミートボールがいいです」

「結構食うな」

「はい。育ち盛りなのです」


 フレデリカが微笑んだ。俺は給仕を呼びつけ、スープとパンとミートボール、それと600グラムのステーキを注文した。


「ところでサキュバスのお嬢ちゃん」

「フレデリカです」

「フレデリカ。これを持って行け」


 デブから奪った革袋。そこから食事代を抜き取り、テーブルの上に置いた。


「え? いいんですか?」

「ああ。さっきも言ったろ? 慰謝料だ。デブから嫌な目に遭ったのはフレデリカ、お前だ。受け取るべきはお前だ、フレデリカ」

「わあ、ありがとなのです、デブの人!」


 嬉しそうにフレデリカが中をあらためる。


「金貨が一杯です!」

「よかったな」

「フレデリカ、これで冒険者になれます!」


 鼻息荒くフレデリカが言った。


「は? 冒険者になる?」


 俺は聞き返す。


「はいです! このお金で武器と防具を買いそろえて、フレデリカ、冒険者になるです! フレデリカ、冒険者になりたかったからギルドに来たですよ? ギルドの食堂に行けばパーティーメンバー募集していると聞きました。だからギルドの食堂に来たのに、武器がないとダメとか防具もないのに無理とか言われて落ち込んでいたです」

「蠱惑のウィンクすらできない小娘サキュバスのくせに、冒険者? パーティーに入る?」

「はい」


 周囲のテーブルから笑い声が聞こえてきた。無理もない。冒険者ギルドは実力主義だ。同郷の幼馴染み同士が素人パーティー組むなら話は分かる。だが、見ず知らずの素人を雇うパーティーなんざ存在しない。ましてやスキルも使えない幼女サキュバスなぞ、だれがパーティーに入れてくれようか。


「フレデリカ。お前、今までクエスト受注したことあるのか?」

「ないですよ?」

「クエスト未経験でパーティーに参加しようとしているのか?」

「ダメです?」


 俺はため息をついた。


「何の実績もないヤツを歓迎してくれるパーティーなんか無いぜ?」

「えー……それは困ったです。どうしたらいいですか?」

「普通はソロからスタートだ」

「ソロってなんですか?」

「……ひとりでクエストを受注する冒険者のことだ」

「へえ」


 そんなことも知らないのか、と言いたいのをぐっとこらえる。


「ソロ冒険者としてある程度経験を積めばパーティーに参加することも可能だ。あそこを見ろ」


 食堂の奥の壁を指さす。そこには大小様々な紙が貼ってある。


「昔からパーティーメンバーを探すのは食堂って決まっていてな。直接話しかけるのが基本だが、ああやって食堂の壁にメンバー募集やメンバー参加希望の紙を貼ることもある」

「ほほう!」


 フレデリカが目を輝かせる。


「じゃ、フレデリカもあそこにパーティーに入れてくださいって貼るです」

「あのなあ、お前、俺の話聞いてないだろ? まずはソロで経験を積んでんだな、」

「へいお待ち」


 俺がフレデリカを諭そうとしたその時、テーブルに料理が運ばれてきた。


「わあ、ご馳走です! 食べていいですか?」


 フレデリカが歓喜の声を上げた。もう俺の話なんか眼中にないようだ。


「もちろん」


 苦笑しつつ俺は言った。


「わーい、頂きます、です!」


 よほど腹が減っていたらしく、ものすごい勢いで食べ始めた。


「おい、そんなに急いで食べるな。喉に詰まるぞ」

「このパン、白くて美味しいです! さすが王都のパンです!」

「よかったな」

「このスープも美味しいです! 塩水を温めただけのスープと大違いです!」

「……よかったな」


 13歳にしては幼い体つきは貧相な食生活のせいなのだろう。そしてボロボロの服装。推察するにかなり貧しい生活をしていたようだ。


「……えっとフレデリカ、何の話してたです?」


 パンを頬張りながらフレデリカが言った。


「飯を食ったら家に帰る、って話だ」

「うーん、なんか違う気がするです」

「違わない。その飯を食ったらこの革袋を持って家に帰るんだ」

「革袋? お金? ……思い出したです、フレデリカ、このお金で武器と防具買って冒険者になるです! そしてあそこの壁にパーティーメンバー募集って貼り出すです!」

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