第3話 フレデリカはサキュバス
「礼はいらん。俺はああいう手合いが大嫌いなんだ。ただそれだけだ。あとゾンビマンと言われるのも嫌いだ」
「そうだったですか、ごめんなさいですゾンビマンさん」
「……わかってねーだろ、お前」
「なにがですか?」
本気でわかってないらしい。仕方ない。見たところ13、4歳といったところか。十分ガキだ。理解を求める方が野暮ってものだ。
「とにかく、ここでお別れだ。変なヤツに絡まれる前にギルドから立ち去ることだ。ここはお前のような小娘が遊ぶ場所じゃない」
「待ってください! フレデリカ、ゾンビマンさんにお礼がしたいです!」
「礼はいらない。あと、その呼び方は嫌いといったはずだが?」
「ごめんなさいです、ゾンビマンさん」
「だからその呼び方は……。ともかくだな、礼はいらんのだ。早く家に帰れ。さっきも言ったよな? ここはお子様の来るところじゃない」
「フレデリカ、お子様じゃないです! 大人だもん!」
「大人? 何寝言言ってるんだ? どこからどう見てもお子様じゃねーか」
「違うもん!」
「お前、サキュバスなんだよな?」
「はい、そーです。フレデリカ、サキュバスです!」
「いいか。サキュバスってのは胸とケツがでかいんだ。色気そのものが歩いているといっていいくらいセクシーなんだ」
「へへ、フレデリカ、それほどでもないです」
自信たっぷりに胸を反らせるフレデリカ。
「話は最後まで聞け。いいか? お前からは色気は全く漂ってこない。自分の胸をよく見てみろ。真っ平らだろ? 色気のイの字もない」
「むー! ゾンビマンのえっち! フレデリカのお胸、見ないで!」
「だから見るほどの胸はないと言ってるんだ」
「あるもん! フレデリカ、脱いだらすごいです! お色気むんむんです! 今すぐ脱ぐです!」
「おいおい、俺を犯罪者にするつもりか? 幼女へのわいせつ行為で牢獄送りはごめんだぜ」
「フレデリカ、幼女じゃないです! 大人です!」
むすーっとほっぺを膨らませフレデリカが抗議した。
「フレデリカ、もう13歳!」
「やっぱりガキじゃねーか」
「ちがーう! 身体はいっちょまえのサキュバスなんだから! ほら!」
フレデリカが腰に手を当て身体をくねらせる。セクシーポーズのつもりらしい。
「えい、えい!」
さらに変顔が始まった。
「なにやってるんだ? 頭でも打ったか?」
「ウィンクです! “蠱惑のウィンク”なのです!」
「蠱惑のウィンク?」
「ですです! えい! とや! あーん、どうしても両目瞑ってしまいます……」
サキュバス固有スキル、蠱惑のウィンク。このウィンクを直視した者は一時的にサキュバスの言いなりになる。そしてその隙に精気を吸われてしまう。サキュバスがサキュバスたる基本中の基本だ。
「お前、蠱惑のウィンクが出来ないのか? それってサキュバス失格じゃねーのか?」
「ひ、ひどい! フレデリカのこと、サキュバス失格って言ったです! フレデリカ、頑張っているのに……いっしょうけんめいなのに……失格だなんて……う、う、うわーん! サキュバス失格って言われた!」
フレデリカが泣き出した。あたり一面にフレデリカの鳴き声が響き渡る。一斉に俺に視線が集まる。
「おい、泣くな。俺が泣かしたみたいだろ」
「泣かしたです。ゾンビマンさんがフレデリカ泣かしたです。フレデリカのこと、サキュバス失格って言ったです」
「それはそうだが、何も泣くことないだろう」
「だって、だって! フレデリカ、いっつもみんなからサキュバス失格って言われてて、それで、それで……うわーん!」
再び号泣。
「悪かった! 俺が悪かった! 謝る。だから泣くな」
「フレデリカのことサキュバス失格って言わないですか?」
「ああ、言わない」
「絶対?」
「絶対」
「本当に?」
「本当だ」
フレデリカが泣き止んだ。
「だったら泣かないです。えへ。約束ですよ、ゾンビマンさん」
「ああ。約束する。ところで約束ついでなんだが、お前も俺に対して一つ約束してくれないか?」
「なんです?」
「俺はゾンビマンと言われるのは嫌なんだ」
「そうなんですか?」
キョトンとした表情でフレデリカが俺を見た。
「ああ。何度も言ったと思うがな」
「へー」
へー、じゃねーよ。突っ込もうと思ったがとりあえず話を続ける。
「KKだ」
「けぇけぇ?」
「そう。KK。それが俺の名前だ」
「イニシャルですか?」
「違う」
「毛毛、ですか?」
「違う。KKだ」
「ふーん。KKですか。変な名前です。どういう意味ですか?」
「さあな」
「知らないですか?」
「知ってる」
「だったら教えてください」
「そのうちな」
「むー」
ふくれっ面のフレデリカ。
「そんなことより飯だ。さっきのデブのせいでステーキが台無しになってな、食べ直すつもりだ。お前も腹が減っているんじゃないのか?」