第18話 大広間にて
大広間に通じる通路をひたすら歩く。途中複数のトラップがあったが、全て回避した。そして到着。
フレデリカの松明が大広間に入る扉を照らし出す。
「私が先頭でいいよね」
ヒルダが魔装剣を抜いた。右手にはウィンドオブチェンジ、左手にはクロスファイア。ヒルダの呼吸音が静かに響き、二つの魔装剣に魔法力が満ちた。
ヒルダが俺に合図を送り扉を開ける。ヒルダが飛び込む。フレデリカをかばいつつ、俺も後に続く。
真っ暗な闇。暗視能力にも限界がある。俺やヒルダでさえ、フレデリカの松明だけでは光が足りないほどの闇だ。
「ア・ライト・イン・ザ・ブラック!」
魔装剣クロスファイアを高く持ち上げヒルダが呪文を唱えた。クロスファイアから複数の魔法照明弾が発射され中を漂う。大広間全体が視認には困らない程度に明るくなる。
「そんないいものがあるなら、最初から出してなのです!」
フレデリカが松明をぶんぶん振り回しながら言った。
「フレデリカちゃんの松明ほど長持ちしないの」
言ってる間もア・ライト・イン・ザ・ブラックはゆっくりと照度を落としていく。
「KK、人がいるです!」
フレデリカが叫んだ。大広間の中央に少女がいた。手足は鎖に繋がれ、鎖は床に固定されている。年格好は15、6か。冒険者デビューしてそんなに日は経っていない感じだ。
「待て。罠かもしれない」
俺、フレデリカ、ヒルダの隊形のまま少女に接近する。
「まあひどい」
少女が身にまとう神官のローブは無残に引き裂かれていた。ヒルダが少女に寄り添い声をかけるが、少女は呆然としている。度重なる暴行のせいなのだろう。
「ねえ、あなた、チルドレンオブザグレイブのメンバー? 初めて見る顔だけど?」
「はい」
「そう、じゃあ新入りさんね。若いのに、チルドレンオブザグレイブか。かなり優秀なんだ。ところで仲間は? リーダーのトニーはどこ?」
「みんな……殺されました」
うつろな目で少女が答えた。
「誰? 誰が殺したの?」
「……ゴブリン」
「ゴブリン?」
「ええ」
「ありえないわ」
即座にヒルダが否定した。
「だって、トニーはもともとゴブリン討伐で名をあげた冒険者だよ? ゴブリンのことなら何でも知ってる、別名ゴブリンバスターなんだよ? 絶対にゴブリンに負けるわけがない……」
ヒルダは信じられないといった様子で呟いた。
「フレデリカちゃん、絶対私から離れないで」
「なぜです?」
「トニーはね、ナンバーダンジョンに行くときは必ず【幽玄の滴】ブレスレットを身につけていたの。ゴブリンの集団攻撃かわすにはこれが一番だ、って言ってね。そのトニーがやられたってことは……」
「こ、このブレスレット、意味がないってことです?」
「もちろん、物理攻撃は避けるよ。でもトニーを倒したとなると……そのゴブリン、魔法を使うのかもしれない」
動揺するフレデリカをなだめるようにヒルダが言ったが、フレデリカの恐怖は止まらない。もともとまん丸な目をもっと丸くして、
「そんなゴブリンがいるなんて聞いてないです!」
と言った。
「とりあえず、そのゴブリンがいないうちにここから出よう。安心しろ、どんなゴブリンが出ようが倒してみせる」
まだ震えているフレデリカと少女に優しく俺は言った。
「ありがとうございます。でも」
虚ろだった少女の目が妖しく光った。
「あんなに沢山のゴブリン、倒せるんですか?」