第17話 ホーリーダイバー
「ふう……」
ヒルダがその場にへたり込む。
「KK、【ホーリーダイバー】持ってる?」
「もちろん」
「だったら、私たちが今どこにいるのか教えて欲しいんだけど」
「わかった」
【ホーリーダイバー】は冒険者の形をした小さな人形で、マップの上に置くことで、マップのどこに自分がいるのかを指し示す。回数は1回。使い捨てだ。
俺はマップを地面に広げた。その上にアイテム【ホーリーダイバー】を置く。
人形がマップの上を歩き出した。地下1階、2階、3階……どんどん深く潜っていく。最下層の地下10階で【ホーリーダイバー】は止まった。
「最下層だ」
「みたいね」
最下層の大広間に通じる通路に俺達はいるらしい。オークの死骸の反対側をまっすぐ行けば大広間だ。大広間から先はマップがない。未踏破だからだ。
「たしかチルドレンオブザグレイブは最奥部のマップ作成を受注していたんだよね、KK?」
「ああ」
「さっきのオーク。どう思う?」
「どうとは?」
「あいつら何? 新種? デカいし、カチコチだし。堅すぎてなかなか刃が通らなかったよ? おまけに熱耐性持ってたし。そんなオーク、いたっけ?」
「聞いたこと無いな。それよりも問題はここにオークがいたということだ」
オークの死体に視線をやりつつ俺は言った。
「確かに」ヒルダが同意する。
「どういうことです?」
まだ身体の震えが止まっていないフレデリカが聞いてきた。俺はフレデリカに向き直り、
「誰もこのオークを倒せなかったってことだ。逆から言えば、ここに来たパーティーはオークに倒されたかもしれない、ってことだ」と言った。
フレデリカは口をポカンと開けて突っ立っている。おそらく脳細胞をフル回転させているのだろう。やがて合点がいったらしく「おお!」と声を上げた。
「ちるどれんおんぶの皆さん、オークに倒されたってことですか!?」
「かもしれない、ってこと」
ヒルダが口を挟んだ。
「仮にオークが彼らを倒していたならば、死体はオークが食べていると思う。オークは消化吸収が遅いから、まだこいつらの胃の中にあるはず」
オークの死体にヒルダが歩み寄る。剣を出しオークの腹に突き刺す。
「相変わらず堅いわねっ!」
両手で力を込めなんとかオークの腹部を切り開いた。腕を突っ込み内臓を取り出す。
「さてと。胃はどこだ?」
ナイフを取り出し胃を切り開いた。内臓は普通の堅さらしく、ヒルダはあっという間に胃の内容物を周囲にぶちまけた。
「おぇえええ!」
臓物と消化物の悪臭にフレデリカが涙目になった。
「き、気持ち悪いです! 見たくないです!」
「駄目。冒険者になるんでしょ、フレデリカちゃん。慣れなきゃ」
中身を検める。
「うわーこいつらゴキブリ食ってる。この骨は……大ネズミか。人間の肉や骨はないね。ドッグタグも見当たらない。既に消化されちゃってる可能性もないわけじゃないけど」
ヒルダは剣についた汚れを落とす。そして、
「パーティー全員を食べ終わるのには相当な日数がかかるはず。チルドレンオブザグレイブがこのオークと会敵したかどうかはわからないけど、少なくともこいつには食べられてない」と言った。
俺も同意見だった。
「ひいいいい! ゴキブリさん!」
いきなりなフレデリカの悲鳴。匂いにつられてダンジョンゴキブリが集まってきたのだ。俺やフレデリカ、ヒルダには目もくれずオークの肉と内臓、ぶちまけられた内容物に群がっていく。
「大丈夫よ。餌がある間はそっちに夢中になるから」
「ホントですか?」
「ええ。無くなったら私たちを襲ってくるかもしれないけどね。さっきみたいに」
「ふええええ」
「ということで、急ぎましょ」
オークの死体処理をダンジョンゴキブリに任せ、俺たちは大広間へと向かった。