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ゾンビマン  作者: 上城ダンケ
モブ•ルールズ
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第15話 閉じた扉の前で


「ねぇKK」

「なんだ?」


 マップを確認するために立ち止まっていると、フレデリカが話しかけてきた。


「KKって、いつから冒険者なのです?」

「10年程前からだが?」

「なんで冒険者なのです?」


 そういえば、俺が冒険者になったいきさつをフレデリカには言ってない。


「それはね……」


 俺の代わって、ヒルダがゾンビマン誕生秘話をフレデリカに語ってくれた。


「へぇーっ! KKは魔法軍の魔法剣士だったですか!?」

「そうよ、すごかったんだから。KKは」

「はへぇ!」


 フレデリカが目を輝かせて俺を見た。


「昔の話だ。今の俺は魔装剣も持ってないし、使うこともない。この剣を見ろ。どこの武器商でも売ってるありふれたロングソードだ。ヒルダの魔装剣、ウィンドオブチェンジやクロスファイアに比べればおもちゃみたいなものさ」

「KKの剣、おもちゃの剣だったですか?」

「そういう意味じゃない」


 ヒルダがクスクス笑った。


「フレデリカちゃん、KKはね、謙遜したの」

「謙遜?」

「そう。自分の実力を控えめに、へりくだって言ったのよ」

「どうしてです?」

「それがKKなのよ」

「ふーん」


 フレデリカが俺の顔をしげしげ見つめる。


「なんだ? 俺の顔に何か付いているか?」

「お面かぶっているからわからないです」

「お面じゃない。兜だ」

「KKってどんな顔ですか? フレデリカ、見てみたい」

「んー? フレデリカちゃん、KKの顔に興味あるの?」

「はい。すこしだけ」


 文字通り興味津々という顔でフレデリカが答えた。


「そうねぇ……うーん……普通、かなあ? 昔のKKはホント、普通の顔だったよ。とっても普通って感じで」


 ヒルダの口からは普通以外の言葉は出てこなかった。剣術には長けていてもボキャブラリーには長けていない。それがヒルダだ。


「ふーん」


 再び前を向き、斜め後ろからフレデリカが俺を見上げる。


「普通なんですか」

「普通だったらどうなんだ?」

「別に、なのです」


 ぷい、とそっぽを向く。


「はやく行くです! ちるどれんなんとかが助けを待ってるです!」


 後ろからダガーで俺を突く。


「おい、武器は仲間に向けてはいけないんだぞ。武器商で言われなかったか?」

「覚えてないですっ!」


 カンカンと俺の甲冑をダガーで叩き続けながらフレデリカが言った。


「確かに、急いだ方がいいわね」


 後ろからヒルダが言った。

 俺も賛成だ。ぐずぐずしてる暇はない。フレデリカのブレスレットの効果が切れては困るのである。


 ダンジョンではときどき左右の壁に扉が現れる。その扉の奥には小さめの部屋がある。


 未踏破のダンジョンでは全ての扉が閉まっているが、踏破済みのダンジョンや階層では扉は開け放たれている。これはダンジョンを冒険する冒険者のマナーであり、「その部屋チャンバーお宝(トレジャー)はもう頂いた」という意味だ。


「閉まってるね」


 閉じた扉の前でヒルダが言った。


「この部屋、マップではどうなっているの?」

「かつてはスライムが宝箱を守っていたようだ」

「ふーん。スライムか。いかにも地下1階、ザコオブザコって感じ」


 ヒルダが右手に剣を構え、左手で扉のノブをつかんだ。


「そんなザコが生き残ってるワケないのよねぇ」


 ヒルダが慎重にノブを回す。カチリ。鍵はかかっていない。扉を少しばかり開け、中を見る。


「……からっぽ?」


 どん、と足で扉を蹴って全開放し内部に突入する。


「あれ?」


 それがヒルダの最後の声だった。ヒルダは消えた。


「ヒルダーっ!」

「ヒルダさーんっ!」


 開け放たれた扉の向こう側に向かって俺とフレデリカが叫ぶ。俺たちの声はまるで無音室で叫んだかのごとく、響くこともなく吸い込まれていった。


「ヒルダさん、どうなったです?」


 不安な表情でフレデリカが俺に聞く。


「見てろ」


 俺は地面に落ちている小石を広い、部屋の中に投げ入れた。小石は扉から数センチの空中で忽然と消えた。


「き、消えたです!」

「瞬間移動トラップだ」

「しゅんかんいどう?」

「そうだ」


 地下1階に瞬間移動トラップなどあるはずがない。通常、瞬間移動トラップは最下層にある。最下層まで到達した敵を一気に地上階に戻し、最奥部を防御するためだ。


「ヒルダさん、どこに行ったですか?」


 俺の知る限り、瞬間移動トラップが地下1階にあったことはない。地下1階から地上に戻しても意味が無いからだ。そんな意味の無いトラップをわざわざ新たに設置するとは思えない。


 となれば。


「……最下層か」


 敵は相当な自信家なのだろう。侵入者を最下層に一気に呼び込み、殲滅する気なのだ。捜索対象のチルドレンオブザグレイブも、このトラップに引っかかり最下層に行ったに違いない。


 フレデリカを見る。俺の影に隠れ腰が引けている。ガクガクカタカタ小刻みに震えていた。


「フレデリカ」

「は、はい、なんです?」

「飛び込むぞ」

「ど、どこにですか?」

「この部屋に、だ。ヒルダを追いかける」

「フ、フレデリカ、ここで待ってます!」

「さっきも言っただろ? それはかえって危険だ」

「でもでも!」

「とりあえずお前に物理攻撃は無効だ。安心しろ」

「安心できないですぅ!」


 ひょい。フレデリカを肩に担ぐ。


「わーわー!」

「おい、ジタバタするな。いいか、いくぞ?」

「おーろーしーてー!」


 騒ぐフレデリカを担いだまま俺は部屋に飛び込んだ。

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