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ゾンビマン  作者: 上城ダンケ
モブ•ルールズ
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第14話 フレデリカ、ここで待っててもいいですか?

「最近になって誰かがトラップを増設したってことだ」


 俺が言うと、


「それもごく最近」


 とヒルダが付け加えた。そして「これ見て」と俺に矢を渡す。


「血、か」

「ええ。それもそんなには古くはない」

「踏破済み、マップ完備。そんなナンバーダンジョンに現れた血痕付未発見トラップ。矛盾に満ちているよな」

「でしょ? 矛盾している。つまり、そういうこと、ね」

「なるほど。そういうことか」

「どういうことです?」


 俺とヒルダの会話にフレデリカが割って入り、疑問に満ちた目でこっちを見た。


「解説しよう。比較的新しい血が付いていることの意味は分るか?」

「うーん、すこし?」


 いや、だいぶ分ってないだろ。目で分る。


「この矢は最近標的を殺傷したということだ。そこまで大丈夫か?」


 少し迷ってからフレデリカがコクコク頷いた。


 あまり大丈夫そうではないが、俺は解説を続ける。


「矢は消耗品だ。普通なら獲物から回収したりなどしない。だがこのシャフトに使われている木は大変貴重かつ特殊な木でな、鉄のように固いんだ。そう簡単に手に入るものではない」

「ほほう!」

「だから、何者かが死体から回収し、トラップに再びセットしたに違いない。そういうことだ」

「ふむふむ。……つまり、どういうことです?」


 よくわからないらしい。


「前も言ったがナンバーダンジョンのトラップは何年も前に破壊されている。仮に未発見のトラップがあって発動したならば、血痕なんか付いているわけがない」

「ほほう?」


 全然わかってないようだな、このサキュバス。


「つまりごく最近、このダンジョンのトラップを増設した奴がいるってことだ」


 やっとのことでフレデリカが大きく首を縦に振った。


「フレデリカ分ったです! 誰かがトラップ増やしたのです!」

「その通りだ」

「誰がトラップを増やしたの?」

「それはわからない。だが、少なくともS級パーティーを帰還困難にするレベルの実力はあるはずだ。とりあえず今は他に仕掛けがないか調べる必要がある」


 会話を打ち切り、感覚を研ぎ澄ます。さらなるトラップがないか探ためだ。

 ヒルダもトリガーになりそうな岩や突起を剣で確かめる。


「とりあえず、他にはないわ」

「そのようだ」


 トラップが無いのを確認した俺は隠し扉を完全に開けた。眼前に階段が現れ、階下からひんやりとした、しかし澱んだ空気が上がって来た。


「瘴気だな」

「なんだか、ぞわっとするです」


 フレデリカのような素人でも、瘴気の強さを感じているようだ。


「この瘴気……かなりのものね。魔装剣も反応している」


 ヒルダの顔から笑いが消えた。魔装剣からの波動を確かめるように剣の柄を握りしめる。


 地下1階にしては瘴気が強すぎる。最大限に警戒する必要がある。

 つんつん。フレデリカが俺の背中を突いてきた。


「どうした?」

「あのー……フレデリカ、ここで待っててもいいですか? フレデリカ、まだ無印の冒険者なのです。なんばーだんじょん、フレデリカには無理なのです」


 ダガーを持つ手が震えていた。ダガーはクエスト前に武器商から購入した。名のある職人が鍛え上げた切れ味抜群の高級品だ。


 ――フレデリカ、武器買ったです! これで一人前の冒険者なのです! えい!


 そう言って店の中でダガーを振り回し、微笑んでいたのが遠い昔のようだ。

 一人前の冒険者か。簡単なクエストから始めて経験を積み、次第に困難なクエストに挑む。そうやって経験と金貨を得、貯まった金で武器と防具をアップグレードする。


 これが冒険者だ。高級なダガーを買うだけで成れるものではない。やはりフレデリカを止めるべきだった。どのタイミングで俺は間違えたのだろう。軽い後悔が俺を襲った。

 フレデリカを守らねばならぬ。


「お前をここに置いていく方が危険だ。一緒にいくぞ。一人前の冒険者なんだろ? フレデリカは」

「えーと……はい」

「なら付いてこい」

「ふぇぇ」


 情けない声を出すフレデリカを引き連れ、俺達は階段を下りた。


「瘴気が濃いわね」


 ヒルダが言った。


「地下一階にしては珍しい。かなり強いモンスターがいるはずだ」

「トラップも沢山ありそう」


 俺たちが救出すべきパーティー「チルドレンオブザグレイブ」はグレイブ(墓地)の名の通り、墓地系ダンジョンに強い。墓地系ダンジョンはトラップの宝庫だ。彼らがトラップを破壊せずにクエストするとは思えない。

 彼らが通過したにもかかわらずトラップが残っていた。それの意味することは何か。何者かが「チルドレンオブザグレイブ」が通過した後にトラップを仕掛けたということである。


 マップに従い道を選ぶ。両手に剣を持ちアンテナのごとく気配を探る。

 特に以前トラップがあったところは慎重に歩く。そういう場所はトラップに向いているからこそトラップがあったのだ。俺もヒルダも神経を研ぎ澄まし、ゆっくりとダンジョンを進んだ。


「見てフレデリカちゃん。ここ」

「どこです?」

「ここだよ、ここ。ここを剣で押すと……」


 通り辛い箇所の、思わず手を突きたくなるような場所の突起物、それをヒルダが剣で押した。

 カチリと音がして頭上から串のような形をした杭が落ちてきた。


「うわーこれも血痕があるじゃない。さっきの隠し矢より古いね」

「チルドレンオブザグレイブのものか?」

「さあ。さすがにそこまではわからない。でも違うと思う。私やKKが発見できるトラップを彼らが見逃すとは思えないから」


 確かにそうだ。

 俺は今までに無い不安を感じつつ、奥へと進んだ。

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