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ゾンビマン  作者: 上城ダンケ
モブ•ルールズ
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第12話 ぬらぬらと黒光りするデカいアレ

 ぴた。フレデリカの行進が止まった。


「モンスター、いるの!? KKの嘘つき!」

「モンスターじゃない。害虫だ。普通のよりちょっと大きいが」

「ど、どれくらい大きいですか?」

「普通のゴキブリはこれくらいだろ?」


 親指と人差し指でゴキブリのサイズを示す。フレデリカは「ふんふん」と頷く。


「ダンジョンゴキブリはこれくらい。だいたい2メートル前後だ」


 両手を左右いっぱいに広げ、ダンジョンゴキブリのサイズ感を表現した。


「ひええええ! 虫じゃないです! モンスターです!」

「大げさだな。デカいとはいえゴキブリだぜ?」

「フレデリカ、ゴキブリ大嫌いです! KKは好きなのです?」

「まさか。俺も嫌いだ」


 と、その時。

 チ。チチチ。

 何かが動く音がした。


「お、お出ましのようだぞ」


 両手で腰の鞘からロングソードを抜き、構える。


「みたいね」


 ヒルダも両手でロングソードを抜いた。俺と同じく二刀流。2人ともヒルダの父、グレグ師範に剣術を習った身。同じ構えになるのは必然である。


「ど、どこにいるです!?」

「後ろに下がっていろ。噛まれるぞ」


 おびえるフレデリカにそう指示する。フレデリカは「ひぃぃ」と悲鳴を上げオレとヒルダの間に挟まった。


「1匹じゃないわね」とヒルダ。

「ああ。3匹、いや5匹はいる」

「とりあえず私にまかせてくれる?」

「あんまり派手に殺すなよ。ゴキブリの体液臭いんだ」

「大丈夫よ」


 普段は前衛のヒルダ。ポジションが身に染みついているらしく前に出たがるのだ。


「じゃ行きますか!」


 ヒルダがダッシュ。地面を蹴り、宙を舞う。


「まず2匹!」


 左右の壁にいるゴキブリへヒルダの両手の剣が伸びた。グサ。剣がゴキブリの頭部に突き刺さる。そしてそのまままるでバターを切るかの如く、一瞬でゴキブリを切断していく。

 見事に分割されたゴキブリが地面に落ち、あっという間に体液が流れ出す。


「あと……2匹……いや3匹」


 ヒルダは体液の海を用心深く避け、体勢を低くした。

 カサカサ。ダンジョンの奥から3匹が一斉に飛び立つ。羽音を響かせ、俺たちに迫る。


「ひいい! こっち来るですぅ!」


 いつのまにか俺のはるか後方に下がっているフレデリカが叫んだ。しかし、何かに気がついたらしく、ポンと手を打つとニコニコ笑顔で俺の隣まで戻ってきた。そして、


「フレデリカ大丈夫でした。だってブレスレットあるもん! フレデリカには物理攻撃不可能なのです!」


 と微笑んだ。


「大丈夫じゃないぜ」

「え? どうしてです?」

「ゴキブリみたいな虫には敵意も殺意もない。あったとしても僅かだ。そんな微かな敵意や殺意に【幽玄の滴】は反応しないのさ」


 フレデリカの顔が見る見る青ざめた。


「KKの嘘つき! このブレスレット、全然意味ないです! ガラクタです!」

「意味ないことはない。ゴブリンとかには反応するぞ」

「ゴキブリにも反応してなのですぅ!」


 涙目で訴えるフレデリカにヒルダが振り返って微笑んだ。


「大丈夫だよフレデリカちゃん。そっちへは行かせないから。私ね、前衛なの。前衛は可能な限り敵を食い止めるのが務めなんだよ」


 ヒルダにゴキブリが接近。


「はっ!」


 ヒルダが立ち上がる。両手をまるで羽のように広げ迫り来るゴキブリに立ち向かう。

 ヒルダとすれ違う瞬間、双剣がゴキブリの羽に向かって突き出された。剣が大胆かつ繊細に空間を切り裂く。


「一匹目!」


 あっという間にゴキブリが羽と6本の足を切断された。揚力を失ったゴキブリが墜落、死体の場所に突っ込んだ。


「ひゃああああ!」


 羽と足を失いつつもギチギチ蠢くゴキブリにフレデリカが悲鳴を上げた。


「二匹目!」


 連続してヒルダは飛翔するゴキブリの羽と脚を切断した。


「そしてラスト!」


 一、二匹目とは違い低空飛行で接近してきた三匹目。ヒルダはそれをジャンプしてかわし、バックハンドで背中に向かって剣を突き出す。視界に入っていないはずの背後の敵を的確に把握、羽と脚を切断した。ズザーッと体液の海にゴキブリが滑り込む。


「ひいいいい! まだ動いているですぅ!」


 仲間の体液まみれになりながら蠢くゴキブリにフレデリカが恐怖する。

 

「貸せ」


 硬直して動けないフレデリカの手から松明を奪い取り、体液の海へ放り投げた。

 音を立てて炎が燃え上がる。さすがゴキブリの別名がアブラムシなだけはある。いい燃えっぷりだ。臭いが。


「ふ、ふぇー! 臭いです! 煙こっち来るなですぅ!」


 涙目でフレデリカが言った。


「大丈夫。お姉さんに任せなさいっ! さ、出番だよウィンド・オブ・チェンジ!」


 ヒルダが魔装剣ウィンド・オブ・チェンジに向かって呪文を唱えた。剣が青白く光り、空気の流れを支配する。


「この汚らしい煙を出口まで誘導してね」


 剣に操られ、竜巻状にまとめ上げられた黒煙がダンジョンの出口に向かって流れていく。


「ヒルダすごーい! 魔法使えるですか!?」

「んー、ちょっと違うけどね」


 ヒルダは魔法剣士である。魔法剣士とは装備する魔装剣の属性魔法を操ることができる剣士だ。魔法剣士は魔法使いである必要は無い。魔装剣に選ばれればそれでいい。だがそれが困難なのだ。

 魔装剣に選ばれるためにはまずもって卓越した剣術の使い手である必要がある。それも古代剣術を改良したネオクラシカル剣術でなければならない。ネオクラシカル剣術は人間業とは思えない速さの剣さばきと複雑な構えを特徴としており、その動き自体が一種の魔方陣とされる。

 ネオクラシカル剣術を極めて初めて、魔装剣が発動する。魔装剣に心があるとされる所以だ。

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