第11話 ダンジョンにはマップがある
「わかった。だから離れてくれないか?」
俺の足にがっしりしがみつくフレデリカに言った。
「だって、トラップがあるですよ?」
ぎゅぎゅぎゅと、より一層強く俺の足にしがみついた。
「大丈夫だよ、フレデリカちゃん」
やさしくヒルダが言った。フレデリカの目線に合わせ、しゃがみこむ。
「第3ダンジョンはね、もう何度も攻略されているの。破壊可能なトラップはほとんど破壊されているし、破壊不能なトラップについてはその多くがマッピングされているのよ。だからそんなに怖がらなくても大丈夫」
「ほ、ホントですか? マップ、本当にあるですか?」
フレデリカがおどおどした声で俺に聞いた。
「ああ。第3ダンジョンは数度にわたってマッピングクエストが実施されているからな。最もマップが充実したダンジョンの一つだ」
「マップ持って来たですか?」
「もちろん」
羊皮紙に書かれたマップを取り出しフレデリカに見せた。暗くてよく見えないのだろう。松明と顔を近づけ興味深げに覗き込む。
「線がいっぱい……変な記号もいっぱい……。うーん……よくわからないです」
「情報量を詰め込むために特殊な書き方をしているからな。慣れればなんてこと無い。冒険者になるなら、マップの読み方も習得しないと駄目だ」
「うー……。お勉強は嫌いなのです」
「ならダンジョン攻略は諦めろ」
「えー」
泣きそうな顔のフレデリカを振りほどき、俺は歩き出した。
「ほら、もう行くぞ。時間が無いんだ」
たった3人のパーティーとはいえ俺は前衛。先頭を切ってダンジョンを突き進む必要がある。いつまでも幼女サキュバスと遊ぶわけにはいかない。
俺を先頭に、パーティーは――といっても3人だけだが――奥へ奥へと突き進む。
「ところで、お前のクエストはどうしたんだ、ヒルダ?」
「私のクエスト?」
ヒルダが首をかしげる。
「俺から奪ったS級クエストだよ。たしかエマーソンダンジョンの再調査だったはず」
「ああ、あれね。壁に戻しておいた」
「は? どうしてだ?」
「だって、こっちの方が面白そうなんだもん。それに私のスターゲイザー、後衛戦士絶賛欠員中だしね。誰かさんが入ってくれないせいで」
わざとらしい溜息。
「くどいな。まだ俺に入れと言いたいのか? 今日何度目だ?」
「だったら入ってよ、スターゲイザーに。ちょっとだけでいいの。ほんの少しの間だけ。KKと一緒にクエストしたいのよ、私。入ってくれるまで何度でもいうからね?」
「今やってるじゃないか」
「えー! 全然足りなーい!」
「俺はソロ。誰のパーティーにも入らない」
ぴた。フレデリカが立ち止まる。
「フレデリカのパーティーには入っていますよ?」
「それは別の話だ!」
「そうなのですか?」
ぽかんとした表情で俺を見つめるフレデリカ。
「ところでフレデリカ。お前はナンバーダンジョンのことどれくらい知ってるんだ?」
俺は話題を変えた。
「全然知らないです」
マジかよ。本当にそれでよく冒険者になりたいとか言ったもんだ。
しょっぱなから会話継続に困難を来した俺に代わってヒルダがフレデリカに話しかける。
「ナンバーダンジョンはね、古代の闇魔道士が作った人工ダンジョンなの。全部で8つ。全て初代マルムスティル王が封印していたんだけど、この前の人魔大戦で魔王軍が復活させちゃったのよ」
「初代まるむし亭?」
フレデリカの頭上に巨大なクエスチョンが浮き上がる。
「うーん……。ま、いいか。とにかくね、封印が解けたことによって神話時代のモンスターも復活。よみがえったモンスターはとっても飢えていて、食料を求めダンジョンの外に出てくるようになったのね。だから人魔大戦後、王宮が傭兵や退役軍人そして魔道士に討伐を依頼。それがクエストと冒険者ギルドの始まりってわけ」
「ほほう!」
興味深げにフレデリカが頷く。こいつ、冒険者とかギルドって単語が出ると露骨に目が輝くな。わかりやすい。
「というわけでギルド創設以来10年以上人間はナンバーダンジョンを討伐、調査してきたの。マップ完備、破壊可能トラップ破壊済み、上層階についてはモンスターも討伐され尽くしている。だからこんな上層階はぜんぜん安全なんだよ」
「なるほどなのです! そーゆーことなら、リーダーのフレデリカが先頭でも全然大丈夫なのです!」
フレデリカが全く躊躇することなく走り出し、俺の前に出た。
「はい、フレデリカが一番前です!」
「おい、気をつけろ。このあたり、ダンジョンゴキブリの匂いがする。襲われるぞ」
「……え?」