第10話 ダンジョン到着
フレデリカに与えたブレスレット【幽玄の滴】の効果は身につけてから24時間である。できれば物理攻撃無効の効果がある間にクエストを終わらせたい。
ということで俺とフレデリカは第3ダンジョンの入り口にいた。
「これがダンジョン? 普通の洞穴みたいですね?」
フレデリカがダンジョンの感想を述べた。
「普通の洞穴とは違うぞ。なんといってもナンバーダンジョンだ。古代の闇魔道士が作った修行用ダンジョンなんだぞ? トラップだらけだ。おまけに放置されたモンスターが勝手に繁殖している」
「そうよ、フレデリカちゃん。ナンバーダンジョンはとっても危険なんだよ?」
ひょい、とヒルダが横から顔を差し込んできた。結局ヒルダも付いて来たのだ。「だってナンバーダンジョンはとっても危険だよ? フレデリカちゃんが心配でね」と言って。
「付いてくるくらいなら、ヒルダが、あるいは、スターゲイザーが俺の代わりにフレデリカのパーティーに入れば良かったんじゃないのか?」
「その時は気がつかなかったの」
ヒルダが惚けた表情で言った。
「フレデリカを守るくらい俺ひとりで問題ない。ヒルダは帰っていい」
「本当にそうかなあ? いくらKKでも無印素人冒険者守りつつ、パーティー救出クエストは困難だと思うけどな?」
「……」
ヒルダの主張は妥当である。パーティー救出クエストは難しい。救出対象が怪我で動けないことも多々ある。
吟遊詩人の語る英雄譚には地上に戻る転移魔法が出てくる。
だが、所詮作り話。そんな魔法は存在しない。現実は魔法かポーションで応急手当を行い、介抱しながら帰還するしかないのだ。その意味では救出メンバーは多いほどよい。
「スターゲイザーをほったらかしで大丈夫か? 他のメンバーから訴えられるぞ?」
「大丈夫。どうせ戦士がひとり欠けてたでしょ? KKは入ってくれないし。そんなんじゃS級クエストは危なっかしいじゃん? だからしばらく活動休止することにしたの」
「俺のせいにするな」
「事実でしょ?」
事実じゃねーよと言いたかったが、やめた。時間が無い。フレデリカに渡したブレスレット【幽玄の滴】の効果が切れる前にクエストを終わらせねばならない。
いつまでもダンジョン入り口で油を売るわけには行かない。
「いくぞ」
俺たちはダンジョンへ踏み込んだ。先頭はフレデリカだ。「フレデリカ、リーダーだから先頭なのです」とのことだそうだ。俺は猛反対したが押し切られた。フレデリカに続いて俺、ヒルダが順にダンジョンに入る。
「ま、真っ暗です! 何も見えないです!」
いきなりフレデリカが叫ぶ。そして立ち止まる。
「ダンジョンだからな」
ダンジョンの中は薄暗い。所々壁に生えたヒカリ苔が発光しているが、全く光量が足りない。通常は松明やカンテラを持ちこむ。ゾンビマンの俺は太陽光に弱い代わりに暗視ができる。だから灯りの類いは必要ない。
ヒルダは鍛錬を積むことで暗視能力・聴覚を鍛えてある。さらに周囲の気配を読むことができる。よって俺同様灯りは不要だ。
「大丈夫よ、フレデリカちゃん。しばらくしたら目が慣れてくるから」
「ほ、ホントですか!?」
「ええ」
「どれくらい待てばいいです?」
「もう少しかな?」
じっと動かないフレデリカ。
「全然慣れてこないです!」
「うーん……普通はそろそろ見えてくるんだけど……」
さすがにヒルダも困っている。
今さらながら俺は思う。暗視すらできない素人とクエストなんて、なんでそんな馬鹿なことを引き受けてしまったのだろうと。
悔やんでもしょうがない。こうなることは予想できていた。俺はズタ袋から用意していた松明を出し、火を付けた。弱い光が俺たちの周囲を狭く照らす。
「ほら。これで大丈夫だろ?」
「なんでこんなに松明が細いですか? 暗いです! もっと明るくしてくださいです!」
「ダンジョン用の松明ってのはこういうものなんだ。少しでも長持ちするように、そしてモンスターに見つかりにくくするために火は小さめなんだよ」
「へぇ。そうでしたか」
フレデリカが感心する。
「ということで、フレデリカ。お前はリーダーで先頭なんだ。その松明でちゃんとトラップを発見し、解除してくれよ」
「トラップなんか何もしなくて大丈夫です。フレデリカはこのブレスレットがあるです!」
「それ、トラップは防げないからな」
「え? そうのなのです? どんな攻撃も避けてくれるって言ったですよ、KK?」
「ああ。どんな物理攻撃も当たらない。そいつは相手の殺意や敵意に反応して攻撃を予見、回避するからな。逆にトラップのような無人攻撃には全く反応しない」
「えええええ!? そうなんですか?」
「ああ。言わなかったか?」
「聞いてないです!」
「そうか。じゃ、今聞いたと言うことでよく覚えておけ」
「あわわわ!」
慌ててフレデリカが俺の背後に回った。
「順序交替です! リーダー命令なのです! KKが先頭に立ってトラップを解除して!」