第1話 サキュバスにブチ込みてぇええええ!
「だからよォ、俺様の太くて固てぇヤツ、お嬢ちゃんに挿れてやるって言ってるだろ?」
冒険者ギルドの食堂にダミ声が響き渡る。俺の背後からだ。俺は振り返る。背後のテーブルには下卑た笑いを顔に貼り付けたデブがいた。
「ち、違います! フレデリカが入るんです! フレデリカ、娼婦じゃありません! 冒険者になるです! だから、パーティーに入れて、なのです!」
もう一つの声の主は少女のようだ。デブの脂肪に隠れて姿形は見えない。
「なんだ、やっぱり挿れて欲しんじゃねーかよォ!」
デブが立ち上がった。身長2メートル。体重は200キロといったところか。デブが立ち上がったおかげで少女の姿が見えた。身長150センチあるかないか。もしかすると140センチかもしれぬ。華奢な体つきから判断するにかなり若い。
「こ、こっち来ないでなのです!」
「ひっひっひ。ちっこい娘だのう。さぞかし……」
デブがゆっくり少女に歩み寄り、スカートを乱暴にめくりあげた。
「きゃーっ!」
悲鳴。少女の足が太ももの付け根まで露わになった。そしてはみ出る黒い尻尾。間違いない。あれはサキュバスだ。
サキュバスの少女が顔を真っ赤にしてスカートの端を押さえる、だが無駄だった。デブの力にはかなわない。デブはへそまでめくりあげ、幼いサキュバスの下半身をねっとりとし凝視していた。
「ヒュー! なかなか綺麗な脚じゃねーか! むちっとしてるくせに筋肉は締まっててよォ! こりゃ、アソコも期待できるってもんだぜ! なあ、お前たち?」
テーブルを囲む仲間に向かってデブが言った。あたりにデブの仲間たちの卑猥な笑い声が響いた。
「俺はSランクパーティー“バーニングハート”のリーダーにしてマルムスティル王国随一の格闘家、ハアト様だ。でかいのは拳と肝っ玉だけじゃねえ、アソコもSランクなんだぜぇぇぇ! オラ! オラ!」
デブがギンギンに屹立した股間を少女に誇示する。布地はパッツンパッツン、今にも破れそうだ。なんとも醜い。
「いやああああ! すっごいおっきいです! 太いですぅ! 怖いですぅ! き、気持ち悪いですぅ!」
「へっへっへ、やっぱりデカいのが好きなんじゃないか! ったく、このちびっこ淫乱サキュバスめ! さあ、こっちこい! ブチ込んでやる! 気持ちよくしてやるぜ? おまえらサキュバスは尻尾が性感帯なんだよな?」
デブが少女の尻尾をつかんだ。少女の悲鳴が響く。
「痛いです! やめてください!」
「痛い? 気持ちいいの間違いだろ? 遠慮することねー。好きなんだろ? こうやって先っちょをいじられるのがよォ!」
デブが脂ぎった指で尻尾の先端をいじくり回す。
「いやああ! 気持ち悪いです! そーゆーの、好きじゃないです! 痛いです! 尻尾から手を離して、なのです!」
「うるせー!」
デブが怒鳴る。サキュバスの少女の身体がビクッと震えた。
「おめーらサキュバスはアソコに突っ込まれるためだけに生まれてきた化け物なんだよ! 化け物に拒否する権利なんざねーんだ! さっさと股開け! このサキュバスめ!」
「や、やめてなのです! フレデリカ、そんなこと、したくないです!」
「なにぃ? サキュバスのくせに生意気だぞ! 痛い目に遭わなければわからないようだなッ!」
「やめてください! お願いなのです! 尻尾、痛いです!」
「そうか、痛いのが好きなんだな?」
デブが尻尾を乱暴にねじり上げるた。「ぎゃうっ!」と少女が悲鳴をあげる。
他人のトラブルには首を突っ込まないのが俺のポリシーなんだが、さすがにこれは黙っていられない。我慢の限界だ。
「おい、そこのデブ。やめろ。飯がまずくなる」
俺はステーキを頬張るのをやめ、デブに向かって言った。
「ああ? なんだてめェ? 今なんつった?」
デブが俺を睨み付けた。
「飯がまずくなる、と言ったんだ」
「その前だ!」
「その前?」
「おうよ!」
「ああ、その前ね。やめろ、だ」
「違う、もっと前だ!
「もっと前? ああ、もっと前か。そこのデブ、だ」
デブの眉がピクリと動き、こめかみの血管が浮き出た。
「……デブだと?」
ドスのきいた声。
「てめェ、俺のことをデブと言ったのか?」
「そうだ。デブ、と言ったんだ。聞こえなかったのか、デブ?」
「てめェ……死にたいようだな?」
ギルド酒場の空気が凍りつく。俺の周囲から波が引くように人々が退散する。
「きゃ!」
デブが少女の尻尾から手を離す。
「Sランクの俺様に舐めた口聞きやがって! 教育がなってねーよーだな!」
指をボキボキ鳴らしながらデブが俺のもとへ歩み寄ってきた。
「てめェなんざ俺の拳一発でダウンなんだぜ? 東洋仕込みの俺の格闘技舐めんなよ? ったく、ダンジョンでもないってのに全身真っ黒い甲冑なんぞ着込みおって」
デブが怪訝な顔で俺を凝視。俺もバイザーの中からデブの醜い瞳を見つめた。
デブと目が合った。なんとも醜い濁った瞳だ。デブだけに眼球にも脂肪がこびりついているのかもしれぬ。
「偉そうにステーキなんか食ってんじゃねーぜ!」
デブの手が俺のステーキをつかみ、床にたたきつけた。
「かっこつけんな馬鹿。さっさと帰んな。俺はこれからこのロリロリサキュバスちゃんにブチ込むんだ。邪魔すんなよ!」
デブが再びサキュバスの少女に向かう。
俺はゆっくり立ち上がった。
「おい、待て」
デブは止まらない。
「待てといったのが聞こえなかったのか?」
「んあ? 聞こえねーなぁあああ!」
デブがブウンと超弩級のスピードで俺にパンチ。顔面1センチ手前で止まった。
「次は顔が吹っ飛ぶぜ?」
「ステーキを弁償しろ」
「は? なんだそれ?」
「言葉が分からないのか? お前が床に投げ捨てたステーキのことだ。まだ半分以上残っていた。弁償しろ」
デブの醜悪な笑顔が俺の視界いっぱいに広がる。
「ステーキより自分の命を大事にしたらどうだ?
「お前こそ、自分の命を大事にしたらどうだ?」
俺の言葉にデブの眉間がピクリと痙攣した。