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黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜  作者: 黒城白爵
第十五章

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第417話 アヴァロンのダンジョン



 ◆◇◆◇◆◇



「──あら? リオン様ではありませんか。お久しぶりでございます」


「ゼノヴィア達か。久しぶりと言っても年末年始に会ったばかりなんだがな。キャメロットの帰りか?」



 テオドールとヴィルヘルミナを連れてアヴァロン市街で食べ歩きしていると、褐色肌のエキゾチックな美女から声を掛けられた。

 ゴベール大砂漠の周辺三国とエクスヴェル公爵領との戦争〈ゴベール戦役〉にて敗北し、今はアークディア帝国の属国──実質的にはエクスヴェル公爵領の属領のような扱い──となったサウラーン王国の姫であるゼノヴィアだ。

 サウラーン王国の宝石と呼ばれるほどに美しい容姿をした二十代前後に見える妙齢の女性で、種族は竜人族の近縁種である宝鱗人(ジュイル)族だ。

 白い宝石に似た輝きを放つ鱗が身体の各所に生えており、顔の目の下にもタトゥーのように一筋状の宝鱗が生えている。


 ゼノヴィアの他には彼女の護衛を務める二人の女性兵士と、中央大陸最後のアビスエルフ族であるメルセデスもいた。

 メルセデスは基本的にアヴァロンにいる間の俺付きのメイドとして働いているが、俺がアヴァロンにいない時やエリンが俺に付いている時などは、アヴァロンに滞在しているゼノヴィアの手伝いを任せていた。



「はい。今回はメルセデスがいましたので第三階層まで進むことが出来ました。おかげで大変有意義な時間を過ごせました」


「……そうか。頑張ったな」



 ゼノヴィアではなく、彼女の背後にいる護衛役の女性騎士二人に視線を向けながら労いの言葉をかける。

 ゼノヴィア達三人よりレベルも戦闘経験も上のメルセデスは余裕があるが、サウラーン王国の女性騎士二人は疲労困憊の様子だ。

 狗人族である女性騎士達は、種族的に格上の宝鱗人族のゼノヴィアよりも身体性能が劣る。

 アヴァロンに建てた俺のダンジョンである黄金迷宮〈キャメロット〉に挑み始めた当初ならまだしも、今ではゼノヴィアと女性騎士達のレベル差はかなり縮まってきているので、種族の性能差が顕著に現れているようだ。


 ゼノヴィアはゴベール戦役後から幾度となく俺に謁見を求めていたのだが、その理由は敗戦国の王女である彼女がキャメロットに潜ることの許可を得るためだった。

 祖国のサウラーン王国では蝶よ花よと大事に育てられていたゼノヴィアだが、彼女自身は屋内で大人しくしているよりも外で身体を動かすのが好きで、前々からダンジョンに挑みたかったらしい。

 キャメロットが死なずのダンジョンというのと、父親の国王スランディス三世から俺を籠絡するよう言われてたのもあって、アヴァロンにやって来ていた。

 そういった滞在目的を謁見時に隠すことなく明かしてきたので、幾つかの条件を出してからキャメロットの利用を許可した。


 あれから数年が経つが、未だにキャメロットに挑み続けているゼノヴィアに感心しつつも、それに付き合わされる護衛役の騎士達に心の中で合掌する。

 ちゃんと交代要員がいることがせめてもの救いだが、この程度では彼女達を慰める言葉にはならないだろうな。



「ところでリオン様。そちらの子供達は?」


「親戚の子供、ということにしておこうか。まぁ、レティの甥と姪だよ」


「レティーツィア様の……っ、し、失礼しました!」



 テオドールとヴィルヘルミナの正体に気付いたゼノヴィアがその場で跪こうとするのを、手で制して止める。



「非公式の来訪だ。周りの目があるから、挨拶も簡単にな」


「ですが……」


「最初に言ったように、親戚の子供ということにして食べ歩きをしてるんだ。正式な挨拶はまたの機会にとっておけ。テオ、ミーナ。彼女の名前はゼノヴィア。サウラーン王国の王女で、彼女の後ろの二人は彼女が国から連れてきた護衛の騎士達です。そこにいるのは俺付きのメイドの一人のメルセデスで、彼女にはゼノヴィアの動向の把握と俺との橋渡しを任せています」


「そうなんだ。えっと、テオ、と名乗っておこう。よろしく」


「ミーナよ。よろしくね!」


「お言葉有り難く。こちらこそ宜しくお願いします」



 代表してゼノヴィアのみが口を開き、あとの三人も彼女の礼に続いて頭を下げた。


 ダンジョン帰りのゼノヴィア達とはそのまま別れて、俺達は引き続き食べ歩きを続けた。



「ねぇねぇ、リオン。キャメロットって何?」


「俺が作ったダンジョンですよ、ミーナ。帝都にあるフォールクヴァングのアヴァロン版ですね」


「フォールクヴァングの? それならキャメロットでも死なないってこと?」


「現在までに死者が出たという報告は受けていませんね」


「私もやりたい!」



 食べていた肉煮込み料理に使われている赤い香辛料を口元に付けたまま、ヴィルヘルミナが端的に自分の意見を発してきた。



「口まわりが真っ赤ですよ」


「ん」



 懐から取り出した手拭いでヴィルヘルミナの口を拭いてやり、妹と同じように真っ赤だったテオドールの口も拭いてやる。



「さて、次の店に行きましょうか」


「リオン」


「リオン公」


「次の店ではゴベール大砂漠に生息しているワーム系の魔物の一種である〈光合魔砂蟲フォトシンセシスサンドワーム〉を使った料理が食べられますよ。油で揚げられた表面はカリッとしていて、その下は鶏肉のようにしっとりとした食感が味わえます。上にかけるソースの種類によって味が……何です?」



 両脇からグイッと外套を引っ張られ、ワーム料理の解説を中断する。

 このままスルーしようかと思ったんだが、残念ながら流されてはくれないらしい。

 左右に顔を向けると、テオドールとヴィルヘルミナが俺を見上げていた。



「リオン、私もダンジョンに行きたい!」


「リオン公、僕もダンジョンに挑戦してみたい」



 ヴィルヘルミナはまだしもテオドールもダンジョンに行きたがるのは少し意外だったな。

 まぁ、双子だから嗜好が似ていても不思議ではない……かもしれない。



「帝都のフォールクヴァングと同様に、此処のキャメロットにも年齢制限があるんですよ」


「フォールクヴァングでは保護者同伴なら未成年でも利用できると聞いたわ」


「未成年は親族の同意書も必要らしいですが、そこは叔母上がいますから問題ないはずです。リオン公だけでなく叔母上達もいるので他の者達と挑むよりも安全だと思います」


「……だ、そうだけど、二人の叔母としての意見は?」



 ゴベール大砂漠近辺に咲くサボテンに似た植物であるサボンの実から作られたジュースを飲みながら、俺達のやり取りを眺めていたレティーツィアに話を振る。



「そうね……まぁ、良い機会なんじゃない? 二人とも日頃から勉強も訓練も頑張っているし。少し前には、騎士達が捕まえてきた魔物を使って実戦も経験済みだから、ダンジョン内で全く動けないということはないでしょう。初の実戦がダンジョン内だったら反対していたけどね」


「ありがとう、叔母様!」


「ありがとうございます、叔母上」


「どう致しまして。でも、今日は駄目よ。死なずとはいえ、初のダンジョンに変わりはないんだから、ちゃんと準備を整えてから挑みなさい」


「「はい!」」


「ということだから、お願いできる?」


「了解。オークション日が近付くにつれてキャメロットの方にも人が増えるだろうから、挑むのは明日にするか」



 明日の予定を変更するならば、明日回る予定だった場所も別の日に変更した方が良いだろう。

 予定していたスケジュールを脳内に思い浮かべつつ、絶品ワーム料理を食べるために次の店へと向かった。




 

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