第416話 宝鍵と観光
◆◇◆◇◆◇
「──ふむ。やはり、これ以上は報酬権限に干渉するのは難しいか」
全方位を多数の術式陣に取り囲まれた状態で空中に浮かぶ二つの鍵に手を翳すと、全ての術式陣が解けて俺の手の中へと鍵が移動してきた。
杯から溢れ出す粘体といった装飾をした、大小様々な水色の宝石が散りばめられた金色の鍵。
獅子の横顔と獅子の爪痕のようなデザインに、黄色の宝石で彩られた銀色の鍵。
それぞれ〈生廃の魔王〉と〈怒轟の魔王〉との〈星戦〉にて獲得した〈魔王の宝鍵〉だ。
現在持てる力で宝鍵を解析し、宝鍵が有する権限に干渉して勝利報酬を増やそうと試みた。
数ヶ月に渡って挑戦してみたが、一ヶ月前から何も変化が起こらなくなったので干渉はここまでにした。
「まぁ、報酬権限を少しは増やせたし、全く無意味ではなかったから試した甲斐はあったな。〈解錠〉」
二つの宝鍵を発動させて勝利報酬を選ぶ専用空間へ移動する。
各宝鍵のデザインと似た内装の宝物庫にて〈星戦〉の勝利報酬を選ぶ。
一ヶ月前に入った時と変わらないラインナップなので、予め決めていたアイテムを選択してから元の空間へと戻ってきた。
役目を果たした宝鍵の消滅と入れ替わりに巨大な宝箱が出現した
〈星戦〉の発動の有無に関わらず、魔王を倒すことで手に入る基本報酬の宝箱〈魔王の宝櫃〉の中身を確認する。
それぞれの宝箱から幾つかのアイテムを取り出すと、それらの取り分けたアイテムを別に用意した小さな宝箱へと納めた。
「これらのアイテムはサプライズでオークションに出すとして、次はこっちか」
大小の宝箱を【無限宝庫】に収納すると、代わりに宝鍵で選択した勝利報酬を取り出して今一度確認していく。
〈魔王の宝鍵:生廃〉で選んだのは三つ。
一つ目は〈生命礼賛の贖罪杯〉という神域級下位の聖杯型神器。
帰属者が倒した対象の生命力の一部を徴収し、その生命力を様々なことに使用できる能力を持つ神器だ。
二つ目は〈理外なる万能生命細胞〉という伝説級最上位の素材アイテムで、手のひらに乗るサイズの透き通った水色のプヨプヨとした柔らかそうな見た目をしている。
移植することで死した肉体を復活させられるなど、こちらも使用用途が色々あるアイテムだ。
そして最後の一つが〈未完成の銀鍵〉という、アイテム分類が『神器/魔導具』となっている謎のアイテムだった。
等級も『神域/伝説級最上位』という異質さで、他の勝利報酬と違って何故かノーコストで報酬に選ぶことができた。
【時空渡航】【時間神の裁き】【窮極の門】【全にして一】という四つの能力があるが、発音出来ない三つの能力は使用できず、最後の能力も極一部しか使用できない。
能力を解放するには桁違いに膨大な量の魔力を〈未完成の銀鍵〉に注ぐ必要があるようなので、魔力の経路を繋げて常に魔力を吸わせ続けることにした。
こうしておけば、そのうち使えるようになるだろう。
〈生廃〉が色々と変わり種が多い一方で、〈魔王の宝鍵:怒轟〉で選んだアイテムは一つのみ。
〈怒轟の魔王〉と〈機怪王〉にして〈不朽の勇者〉であるカイの〈星戦〉に密かに参戦して獲得した宝鍵なので、その報酬権限は〈生廃〉の宝鍵よりも小さい。
それでもカイが手に入れた宝鍵と比べると権限が小さいだけで、この数ヶ月の干渉によって神器を選べるまでに報酬権限を拡大させることができた。
選んだ神器は〈黄金獅子の不滅外套〉というコート型神器で、等級は神域級下位。
既に同じコート型神器の〈星坐す虚空の神衣〉があるが、外套としては〈黄金獅子の不滅外套〉の方が優秀なので今後はコチラを羽織ることにした。
〈星坐す虚空の神衣〉は形態を外套から下衣へと変えて、これまで穿いていた伝説級上位の魔導具〈悪毒逆天の魔龍王衣〉から装備を更新しておいた。
これでまた一つ全身の各部位を占める装備が神器へと変わった。
確認を終えたアイテムを再び収納してから、羽織っている〈黄金獅子の不滅外套〉に視線を落とす。
「このままだと派手だし、ネメアスレオンの形も変えておくか」
獅子の鬣のようなファーがある金色のコートという無駄に派手な見た目だと普段使いがし難いので、第二能力【獣王の星骸】でこれまでの〈星坐す虚空の神衣〉と同じデザインの大貴族感のある煌びやかな金飾のある黒いコートへ変化させた。
「収集した宝鍵のデータは纏めておいてくれ。他の諸々のことも任せたぞ」
「かしこまりました。後のことはお任せください、マスター」
使い魔にして研究助手であるエジュダハに後のことを任せてから、異界にある固有領域〈強欲の神座〉の秘密研究所〈偉大なる秘法〉から地上へと帰還した。
「リオーン!!」
目に見える景色が切り替わった瞬間、小柄な人影が飛びついてきた。
その人影を優しく受け止めてから、ゆっくりと地面に下ろした。
「はしたないですよ、ミーナ」
「私的な場所だから大丈夫よ!」
ミーナことヴィルヘルミナ皇女の物言いに苦笑しつつ、視線を彼女の背後へ向ける。
「ただいま戻りました、テオ」
「うん。おかえり、リオン公」
ヴィルヘルミナの態度に俺と同じく苦笑いしていたテオことテオドール皇子に帰還の挨拶をする。
数ヶ月前に七歳になった二人は双子であり、共にアークディア帝国の皇位継承権を持つ冠魔族だ。
皇帝ヴィルヘルムと皇后アメリアの間に生まれた直系であり、次のアークディア帝国皇帝の最有力候補でもある。
そんな帝国においてヴィルヘルムに次いで重要人物である二人がいるのは、ゴベール地方にあるエクスヴェル公爵領の第二都市アヴァロンの城内だ。
此処で開催される初のオークションを観たいという要望を叶えるために、新年早々二人をアヴァロンに招待した。
宝鍵への干渉が一段落するタイミングだったので一時離れたが、それまでは二人に城の中を案内していた。
オークションにはヴィルヘルムも皇妃達と共に参加する予定だが、オークションが開催されるまでまだ一週間あるのでアヴァロンには来ていない。
生まれてから殆ど帝都エルデアスを出ていない二人がアヴァロンも観光したいと言うので、二人だけは前日入りしている。
俺が傍にいるので皇城から付いてきた使用人や護衛は最小限しかおらず、城内の案内中だったのもあって室内には俺達三人以外だとレティーツィアとユリアーネ、メイド服を着たエリンしかいなかった。
「用事は終わったの?」
「ああ。待たせてすまない」
「ミーナがリオンはまだかと騒いでいたぐらいだから大丈夫よ」
「叔母様!? 何でバラすんですか!」
「ミーナが大人しくしてないからよ」
告げ口したレティーツィアを咎めるヴィルヘルミナだが、レティーツィアは涼しい顔だ。
そんな妹と叔母を無視してテオドールが読んでいた本を片手に近寄ってきた。
「リオン公の用事が済んだなら出発ですか?」
「はい。お待たせしたようですから、余程高い品でなければ私が買って差し上げますよ」
「本当ですか?」
「ええ。ちょうど良い機会ですから、テオが興味を持っていた食べ歩きもしてみますか?」
「やります! やってみたいです!」
「アヴァロンは他国と面した交易都市ですから、飲食系の出店も色々ありますので期待していてください」
年相応に目を輝かせるテオドールの頭を撫でてから、レティーツィアに食ってかかっているヴィルヘルミナにも声を掛けた。
街中で食べ歩きをするなら、同行する人員は最小限にするべきだろう。
ここにいるメンバーは確定として、二人に付いてきた者達は更に厳選してもらうとするか。




