第413話 呪血矢
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俺の指示を受けて勇者達が攻撃を再開すると、〈生廃の魔王〉は再びユニークスキルで勇者達の偽物を生み出してきた。
先ほどよりも数はかなり減っているが、それでも全部で百体ぐらいはいるので、勇者達の数的不利な状況に変わりはない。
「性懲りも無く同じ手とは……まぁ、彼らには有効ではあるけど。大元から潰しておくか」
【無限宝庫】から星剣〈賢爛たる星の虹剣〉を取り出すと、【七星変化】で長剣から弓へと形態を変化させる。
権能【血神権域】の固有権限〈血神の全権〉で生み出した血の矢を星弓となったアルカティムに番えて弦を引き絞り、遠くにいる魔王へと向ける。
権能製の血矢が帯びている力は〈呪い〉。
〈権能〉より劣るモノは抗うことができない呪血の矢には、【荒野と栄華の堕天神】の【失墜ノ烙印】の力が込められている。
【失墜ノ烙印】が失墜させる魔王の力は、当然ながら偽物勇者を生み出す力であるユニークスキル【生命と侵食の理外王】の【生命奇誕】だ。
この矢で魔王を射抜けば、少なくともこの戦場では勇者達の偽物は生み出せなくなる。
権能製の呪血矢だけでも【失墜ノ烙印】を刻むには十分だが、どうせなら後の宝鍵のための貢献値をここで稼いでおくとしよう。
ユニークスキル【戦争と射手の統魔権】。
魔権系ユニークスキルの一つであるこのスキルの内包スキル【弓騎武導】で弓術の技量と矢弾の威力を上昇させ、同じ内包スキルである【死滅兇弾】で死へと至らせる持続ダメージ効果を矢弾に付与する。
ユニークスキル【狩猟と看破の魔権】。
その内包スキル【狩猟王の瞳】で狙うべき場所を見抜き、【失墜の射手】で矢弾の威力を強化し、意味は無いだろうが不治の効果も追加しておく。
ユニークスキルはこんなところでいいとして、次は通常スキルを発動させていく。
強化系スキル【神穿つ魔弾の理】で凡ゆる投射攻撃の大幅強化と必中効果を付与。
以前、すぐ近くで弓を構える俺を見ているアイラから【天空至上の雷霆神】の【偽・全知全能】で取得した補助系スキル【月天公の弓神術】を発動させ、超越者一歩手前の彼女の弓術の技量を可能な限り再現する。
補助系スキル【神蝕む超越種の星痕】で呪血矢による一撃を癒えぬ痕跡として、〈生廃の魔王〉という存在自体に刻む。
最後に、万が一にもこの一撃で魔王を殺してしまわないようにするため、特殊系スキル【生殺与奪権】も用いて威力を調整することで手加減をしておく。
「魔王が生み出す偽物はこちらで対処するから、魔王本体への攻撃に注力してくれ」
事前に今からやることを勇者達に通達してから呪血矢を撃ち放つ。
大気の壁を突破した呪血矢は紅き閃光となって瞬時に戦場の上空へと到達する。
自らを狙った一撃に本能で気付いたのか、飛来してきた呪血矢を撃墜すべく魔王が溶解液のレーザーを放ってきた。
だが、紅き流星となって飛来した呪血矢は、レーザーを躱わすように魔王の頭上にて破裂し、百以上の数に増えた呪血矢は魔王と偽物勇者達へと降り注ぐ。
魔王だけでなく偽物勇者達も対空攻撃を行うが、それらの攻撃を真っ向から撃ち砕いて全ての対象を射抜いていった。
「TEK◼️、RI? TE、TECK◼️、LIEーーッ!?」
呪血矢に射抜かれた〈生廃の魔王〉の粘性の水色の巨体全体に紅い血管模様が瞬く間に刻まれ、魔王が悲鳴のような叫び声を上げる。
魔王のユニークスキルにある【生命奇誕】を無効化したことで、偽物勇者をはじめとした異形の手駒の生産行為を封じることに成功した。
既に生まれていた偽物勇者達も、自分達の根幹であった【生命奇誕】が直接封じられたことで存在が否定され、元の粘体へと強制的に還元していった。
偽物勇者達が粘体の大地へと還り、その場所を代わりに本物の勇者達が駆け抜けていく。
勇者達は頭頂部から足先まで全身に聖気を纏っており、足場の粘体からの間接的な攻撃である【生命侵食】が勇者達の身を侵すことはない。
だが、その粘体の形状を変化することで直接齎される攻撃に対しては、ただ聖気を纏うだけでは防げない。
「ふむ。【変幻擬態】だけなら大丈夫みたいだな」
自らの身体を様々な形状に変化させられるスライムらしい変幻自在な攻撃だが、勇者達はその物理攻撃の嵐を各々の手段で潜り抜けていく。
権能製の呪血矢に侵されて弱っているとはいえ、見渡す限りの粘体の大地という物量に裏付けされた猛攻に対処するには〈勇者〉以外には厳しいだろう。
まぁ、特殊な能力も何もないただの大質量と大量の手数に対応できないようでは、〈勇者〉の名折れだしな。
この程度の障害は自力で突破してもらわないと困る。
「あとは見ているだけで大丈夫でしょうね」
「……ねぇ」
「どうしました?」
「さっきの弓術。私のに似てた」
「お気付きでしたか。以前アイラ殿と戦った際に見た技を参考にさせていただきました。ご不快でしたか?」
「別に気にしてない。ただ、弓も使えるとは思わなかった」
「器用なだけですよ。剣が一番得意なのには変わりませんが、ここから剣で狙ったらそのまま倒してしまいそうなので弓にしました」
「……剣を使わなくても、さっきのエクスヴェル公の一撃が決め手になった」
そう言い放つアイラが見つめる先では、〈生廃の魔王〉が勇者達も含めた無数の人々の集合体のような巨大な人型の姿になっていた。
【生命奇誕】で生み出した手駒に擬態させられなくなったため自分自身で擬態することを選んだようだ。
だが、人型に擬態した影響で、不定形のスライムの急所である生命核が人体で言うところの心臓部に移動していた。
無数の人間への同時擬態という負担の強いことをしたのもあって、コアがある心臓部からは強い気配が漏れ出ており、誰の目から見ても急所なのは明らかだった。
だからこそ、勇者達は急所に向かって躊躇いなく切り札を切ることができる。
「【審判ノ聖槍】」
「【薙ぎ払う虹の光刃】ッ!」
「【灼煌たる竜炎の聖礫】ッ!!」
「【神光聖撃】」
「【雷神ノ星撃】ッ!」
勇者達のユニークスキルや聖剣などが持つ最大火力の一撃が一斉に放たれ、存在感を放っている〈生廃の魔王〉の心臓部を穿っていく。
擬態集合体の魔王の巨体は、一撃二撃程度なら跳ね除けられるぐらいの防御力はあったが、その場にいる殆どの勇者がほぼ同時に放ってきた攻撃に耐えられるほどではない。
足場の粘体の大地も回収して失った肉体の補強をしていたが、それでも数秒ほど耐えられる時間が伸びただけだった。
程なくして、勇者達による全力の一撃が終わると、そこにはコアがあった心臓部に大穴を空けた魔王の巨体が佇んでいるのが見えた。
それと同時に、脳内に〈星戦〉の終わりを告げる中性的な声が鳴り響いた。




