第409話 血神 後編
※明けましておめでとうございます。
今年も本作をよろしくお願い致します。
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「奪い盗れ──【強奪権限】」
「ガハッ!?」
俺が死んだことで隙ができた血神の背後に出現すると、間髪入れず最後の超過稼働能力【強欲なる盗奪手】を発動させ、その手で血神が纏っている鎧ごと血神を貫いた。
先ほどまで俺の身体だった肉片は、血の湖に間違いなく水没した。
その血肉は抜け殻とはいえ、間違いなく俺の身体であるため神と言えど死を確信し、油断してしまうのも無理もない。
そうして生まれた隙を突いて貫いた手が、認識した対象を強制的に強奪する能力によって血神の力を強制的に剥ぎ盗っていく。
「グッ、離れろ痴れ者がッ!!」
血神の背面から無数の血の針が飛び出してきたのを【瞬身ノ神戯】の派生スキル【瞬神ノ歩法】で躱す。
瞬間移動の如き歩法で後退すると、血神が警戒している隙に盗み出した力を馴染ませ、自分の物にしていく。
これまでに【強奪権限】で奪ってきた力とは違うようで、スキルとして取り込むのに時間が掛かるみたいだ。
「馬鹿な……キサマは妾が間違いなく殺したはず」
「死んだとも。間違いなくな」
そして、予定通りにな。
ユニークスキル【魔賢戦神】の内包スキルには二十四時間に一度だけノーコストで復活できるスキルが存在する。
内包スキル【不滅の勇者の祝福】の時は【不滅英勇】という名の派生スキルだった復活の力には、神器〈魔源災戦の賢神杖〉を取り込んだことによって新たな力が追加されていた。
【不滅の勇者の祝福】から【神世不滅ノ勇者】になった際に追加された力は、自動復活時、一定時間ステータスの全能力値とスキル性能が超強化されるというモノだった。
名称も【不滅英勇】から【勇者再臨】へと変化し、まさに一発逆転を狙える起死回生のスキルになっていた。
「今の一撃で奪えたのは四割ほどか。まずまずの成果だな」
【勇者再臨】の追加効果で強化された【強欲なる盗奪手】の強奪性能は非常に高く、弱体化しているとはいえ神性存在を相手に一撃で半分近くの力を奪い盗ってみせた。
血神が地上から血鬼神器の力を掻き集めているのを見た時、その力を一気に奪う計画を立てたが、【強奪権限】の力のみでは出力が足りないのは、そこまでの戦闘で明らかだった。
どこかで【勇者再臨】の力を確かめたかったのもあって、強化された血神の攻撃に対してなす術なく敗れた様を演じて死ぬことにした。
【勇者再臨】の復活時は、条件付きで復活場所を選べるため、血神の後方に復活すると共に【隠身ノ神戯】の派生スキル【隠神ノ兜】で姿を完全に隠してから奇襲を仕掛けたのだ。
自らの死も利用した奇襲で奪った膨大な量の血神の力の取り込みが漸く終わり、スキルとして形になる。
[対象を強奪します]
[スキル【血神の断片】を獲得しました]
[一定条件が達成されました]
[ユニークスキル【強欲神皇】の【拝金蒐戯】が発動します]
[対価を支払うことで新たなスキルを獲得可能です]
[【血神の因子】【血改転化】【神呪血壊】【血神の断片】と大量の魔力を対価として支払い、特殊系スキル【血ノ神権】を得ることができます]
[新たなスキルを獲得しますか?]
[同意が確認されました]
[対価を支払い新たなスキルを獲得します]
[特殊系スキル【血ノ神権】を獲得しました]
一気に奪った血神の力は、死ぬ直前までに獲得した血神の力と合わさり、新たなスキルへと変化した。
【血ノ神権】が有する力はユニークスキル級を超えている。
その力の性質からスキルではなく〈権能〉に分類されるはずだが、実際には特殊系スキルになっていた。
おそらくは既に同一の権能を有する血神が存在しているのが理由の一つなのだろう。
奪ったのは血神の力なのだから、その権能も血神を意味する力になるのは間違いない。
だが、他に血神がいる上に、元は一つだった力が二つに分かれているだけの現状では、何らかのエラーのようなことが起きている可能性があった。
つまり、目の前の血神を倒した時にこそ、【血ノ神権】が完全なる血神の権能へと変化するということだ。
「〈神鎚の紅閃〉ッ!」
「〈分け隔つ神の城壁〉」
血神から放たれてきた血の閃光を半透明の紅色の障壁で防ぐ。
【血ノ神権】により使用可能になった血神の力は、血鬼神器の能力の上位互換が多いようだ。
正確には、血鬼神器は血神の力の一端を使いやすくしていただけなので、上位互換という表現は正しくはない。
とはいえ、一つの能力として確立された力が扱いやすいのは間違いないため、血神も神器の名を当て嵌めて力を振るっているのだろう。
「〈次元隔つ神の爪〉ッ!」
「混沌変換──〈空間神力〉」
ついさっき俺を殺した空間属性の一撃に対して、権能【混沌神域】〈神秘の混沌〉を使用して生み出した空間属性の神力を鎧のように身に纏う。
〈権能〉の力に対抗するには同じ〈権能〉の力を使うのが最も効率的だ。
固有属性〈神秘の混沌〉は理解している凡ゆる力へと変化できる〈混沌〉を生み出す〈権能〉であるため、条件さえ揃えば様々な力に対処することができる。
空間属性の神力自体は、血神が放った〈次元隔つ神の爪〉を【主神ノ賢能】で解析して理解したことで変換可能になっていた。
次元を割る斬撃を同じ属性の鎧によって相殺すると、更なる手札を切る。
「秩序改竄──〈強奪されし世界〉」
権能【秩序神域】の固有領域〈強欲神の秩序〉で封神異界という小世界に新たな秩序を追加した。
この新たな秩序〈強奪されし世界〉によって封神異界における〈強奪〉の力が大きく強化されたことで、発動中の【災界顕現】の力が大幅に増大する。
「グッ、妾の力が……ッ」
視覚化できるほどの大量の力が奪われていき、血神が苦しそうに胸を抑えている。
立て続けに使った〈権能〉で消耗した体力と魔力が回復し、奪った分の血神の権能は【血ノ神権】へと自動的に統合される。
【血ノ神権】が一秒ごとに強大になっていく一方で、血神の権能は弱体化していく。
そのことは血神も理解したようで、表情から先ほどまであった余裕が消えていた。
「よくも妾の力をッ!!」
「来い、エクス」
その手に血の神槍を生み出し、血神が接近戦を仕掛けてきた。
遠距離戦では分が悪いと判断したようだが、俺は近距離戦の方が得意なので、それは悪手だ。
ネックレス形態にしていた神器〈星統べる王の聖剣〉を元の長剣形態に戻してから手元に召喚すると、エクスカリバーで血の神槍による連続突きを全て防いでいった。
相手が真性の神ならば、エクスカリバーのこの力が有効だろう。
「大罪を以て救済を為せ──【神魔滅する星焉の剣】」
純粋な魔性・神性殺しに特化したエクスカリバーの第六能力【神魔滅する星焉の剣】が発動したことで、金と黒の剣身が黄昏色の燐光を纏う。
神殺しを始めとした、全ての意思ある存在に滅びを齎すための力が具象化した能力であり、前の異世界でも対神戦において大いに活躍した。
エクスカリバーの剣身から放たれる黄昏色の星の光に照らされ、血神の全身が灼けていく。
称号〈神殺し〉の効果も加算されており、直撃せずとも神にダメージを与えていた。
力の多くが奪われたからか、灼けた部分は再生しておらずダメージを負ったままだ。
血神の自然治癒力が高く、これまでは即座に元通りの姿に回復されてしまい【神蝕む超越種の星痕】の不治効果があまり役に立たなかったが、漸く効力を発揮できるようになったらしい。
エクスカリバーの神殺しの光の直撃受けた血神の槍が破壊され、槍を構成していた血神の力が俺に取り込まれる。
かなりの力を注いで作ったらしく、血神の槍を構成していた分で血神の権能の比重が俺の方に完全に傾いた。
「ハァ、ハァ、何なのだキサマはッ!?」
「何なのだ、っと言われたら、ちょっと普通よりも欲深いだけの勇者としか答えようがないな」
血神からの問いに答えてから上を見上げる。
俺の死で一時中断していたが、神域権能級ユニークスキル【無限源喰の世界龍】の【源喰権限】による捕喰は続いており、血の湖を喰い尽くした後は封神異界〈血獄の封神殿〉の内部にある他の全てを呑み込ませていた。
空に輝いていた真紅の満月も源喰のオーラに喰われて大きく欠けており、その分の力も俺へと吸収されている。
血神の力を奪い尽くす方が先だろうが、この封神異界自体もすぐに喰い終わりそうだな。
「巫山戯たことをッ!」
そう叫ぶ目の前の血神の身体が霧化し、霧の中から無数の血槍を乱射してきた。
俺に向かってきた血槍の全てを砕き、力を奪っていると、血槍の弾幕に隠れて最も強い力を放つ血塊が、外へと通じる扉へと向かって飛翔するのが見えた。
誘いに乗って逃げる血塊を追いかけると、血槍の乱射で宙を舞っていた背後の瓦礫の影の中から血神が現れた。
背後から現れた血神は気配を完全に消していたが、スキルで真後ろまで視認できる俺には意味がなかった。
エクスカリバーを逃げる血塊へと投擲すると、前を向いたまま投擲したのとは逆の手で背後から飛び掛かってきていた血神の首を鷲掴みにした。
「ガッ、グッ、何故気付いたッ?」
「俺は魂が視えるからな。あの塊が抜け殻なのは一目で分かった。同じ理由で背後から狙っているのも分かったというわけだ」
「戯言を、ウッ」
最早俺の手から抜け出す力もないようで、鋭利な血の爪を生やした両手で俺の腕を引っ掻くことしか出来ていない。
今も発動中の【貪欲なる解奪手】で黒く染まった腕は微塵も傷付かず、逆に振るわれる血の爪を分解し吸収していた。
その手で掴まれている血神の首は分解されていないが、そこから血神の力を奪い続けている。
「さて、女を待たせているんでな。そろそろ終わってくれ」
「終わって、くれだと? 嘗めるなよ人間がッ!!」
血神の首が一気に伸び、至近距離だったのもあって躱わす前に俺の首に噛み付いてきた。
血神の牙は凡ゆる耐性や防御を貫通して俺の首に牙を突き立てていた。
吸血鬼を庇護する旧神らしい攻撃方法だな。
掴んでいた首を捻じ切り、その伸びた首を眼前に持ってきて同じように噛み付き吸血を行う。
ここまでに奪った力で大幅に強化された【血ノ神権】の力も駆使して、血神の残りの力と魂を一気に吸い尽くした。
「……わざと死んだ時の攻撃を除けば、最後の一撃は中々に良かったと思うぞ」
目の前で消滅していく血神の頭部を見送ると、口端から流れる血神の血を舐め取った。
最後に残っていた血神の力の吸収が終わり、脳裏に情報通知が浮かび上がる。
[旧神〈血神〉が討滅されました]
[強奪した〈血神〉の力が統合・再構成されます]
[特殊系スキル【血ノ神権】が権能【血神権域】〈血神の全権〉へと再構成されました]
[権能【血神権域】は神域の主に帰属します]
[旧神〈血神〉の討伐に成功しました]
[偉業〈旧神を討ちし者〉を達成しました]
[称号〈旧神討滅者〉を取得しました]
[〈◼️◼️◼️◼️〉より神器〈血神宝物殿の鍵〉が与えられます]
[神器〈血神宝物殿の鍵〉の帰属化に成功しました]
[特殊条件〈血神討滅〉〈血神権能保有〉などが達成されました]
[ジョブスキル【血神】を取得しました]
[特殊条件〈血神権能保有〉〈血神後継〉などが達成されました]
[ジョブスキル【神祖】を取得しました]
突然目の前に出現した真紅色の鍵を戸惑いながら受け取ると、自分のステータスを確認する。
そこには変わらずレベル九十九と表示されていた。
「……神を倒してもレベルが上がらなかったのは予想外だな。弱体化していた所為か?」
全く経験値が取得出来なかったわけではなく、感覚的には血神から魔王二体半ぐらいの経験値を獲得している。
血神の強さ的に最低でも魔王四体分の経験値が得られる計算だったんだかな……。
封神異界内の戦いだから何らかの制限があったのかもしれない。
現時点では、レベル百になるには大体あと魔王一体と少しの経験値が必要だが、このぐらいなら他で補える範囲だ。
同じ超人族であるアナスタシアも最近レベルが上がるのが遅くなってきてるし、高レベルになるほどレベルアップに必要な経験値が増えるのが超人族の特徴なのは間違いないだろう。
「それにしたってレベルが上がらなさすぎだけどな。ヴィクトリア達はもっと少ない経験値でレベル百に到達したっていうのに……」
他の超越者達との違いと言えば、神域の力の保有数だろうか?
多数の神域権能級ユニークスキルを所持している所為で必要経験値が増えるか、取得経験値が減っているというのは状況的にも有り得る話だ。
「ある意味では〈強欲〉の対価というわけか。西方大陸と南方大陸でも経験値稼ぎは続行中だし、中央大陸でも経験値稼ぎを頑張ればもっと早くレベルアップできるな」
空を見上げると、そこには欠けた紅い月は無く、夜空には普通の満月が輝いていた。
先ほど封神異界は隅々まで喰い尽くされ、俺はレヴェル湖の畔で佇んでいた。
「血神の所為でスキュアクスの上層部は壊滅状態だし、戦争もすぐに終わるはず。〈生廃の魔王〉戦の手伝いが終わったら、巨塔にでも潜るか?」
これまで多忙すぎて殆ど冒険者活動が出来なかったし、タイミング的にもちょうどいい。
クランの人数も増えているし、大々的に遠征でもすればアルヴァアインの領民達も盛り上がりそうだ。




