第403話 勇聖祭での話し合い
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エリュシュ神教国の神都デウディアスで開催中の勇聖祭は七日間に渡って続けられる。
不定期に催される祭な上に前回の開催から四十年が経っているとあって、大陸中の国々から多くの人が集まっていた。
初日の開幕式から最終日の閉幕式までの期間は、エリュシュ神教国の神官達による様々な催し物が行われており、祭の期間中なので普段よりも簡単かつ少ないお布施で祝福などを受けることが出来ていた。
各神派の高位神官による直々の説法に始まり、その神派の信徒でなくても神派ごとに得意としている分野の技術の一端を伝授してもらえたりなど内容は様々だ。
誰でも気軽に体験できるとあって、どの神派の神殿にも長蛇の列が出来ており、非常に賑わっていた。
賑わっているのは神塔星教関連施設だけではなく、神都デウディアスに店を構える商業関連の建物も同様だった。
ドラウプニル商会デウディアス支店ではお祭り特価で安くなっているのもあって店内の商品が飛ぶように売れていた。
店内の混雑具合もかなりのものだが、それ以上に繁盛しているのが臨時で支店に併設した建物内で行われている〈ガチャ〉だった。
強欲神像の通称で呼んでいる〈貴貨罪貨の強欲の願宝器〉の子機を勇聖祭期間中限定で置いてみたのだが、期待を上回るレベルで財貨を稼いでくれていた。
「ガチャの方は安くしていないのに凄い売り上げだな」
「普段は神都の支店には置いていませんので当然のことかと」
「そうかもしれないが、まさか初日のガチャの売上のみで、本店の一ヶ月あたりの平均売上高を超えるとは思わなかったよ」
先日の〈生廃の魔王〉の再封印作業の助力によって、勇聖祭の期間中の減税を報酬として得ている。
それは強欲神像によるガチャも同様だ。
おかげでかなりの儲けが懐に入ってくることになるだろう。
最終的にどれほどの利益を叩き出すか良い意味で予想出来ない。
「そういえば、時折ご主人様の支店がある方角から歓声が上がっていましたね」
「祭りに合わせて通常時よりも当たりの確率を上げているからな。たぶんそれの歓声だろう」
左右に座るシャルロットとエリンと会話をしながら持ち込んだ商会の書類を決裁していく。
それも終わり、領地の書類の決裁にも手を伸ばしたあたりで会議室の席が全て埋まったので、手元にある書類を【無限宝庫】へと収納して片付けた。
全員が集まったのを確認したアルカ教皇が、議長として会議の始まりを告げる。
「それでは本日も話し合いを始めましょう。議題は昨日に引き続き、誰が〈生廃の魔王〉と戦うかです」
大神殿にある会議室の一つに集められたのは、議長のアルカ教皇と彼女の護衛の〈天弓王〉ジークベルトを除けば、全員が今代の〈勇者〉と〈聖者〉だ。
勇聖祭の初日は開幕式とその後の都内パレードがあって時間がなかったので会議は行われていない。
会議は祭り三日目の今日で二日目になる。
会議一日目の昨日は各々の自己紹介と簡単な交流に殆どの時間を費やしたので、実質的な会議は今日からになる。
室内にいる勇者達の中にはジークベルトと同じ超越者であり、最近レギラス王国の国王となったばかりの〈機怪王〉にして、〈不朽の勇者〉であるカイ・キリュウ・ディアモルトの姿もある。
勇聖祭に参加するとあって、同じ超越者であり敵国ザルツヴァー戦王国を率いる王である〈暴雷王〉ロギン・ウォー・ヴァラッドとの戦争は一時的に休戦している。
途中幾度かの停戦期間を挟みながらも未だに両国の戦争は続いており、開戦してから既に約七年が経過していた。
エリュシュ神教国の名の下に得た休戦期間にやって来たカイの目的は、当然ながら魔王討伐だ。
「どうぞ、キリュウ陛下」
カイはレギラス王国のディアモルト王家に婿入りして国王になったとはいえ、ネームバリュー的には超越者の時からの姓であるキリュウの方が価値がある。
そのため、カイは対外的にはディアモルトではなくキリュウの方に敬称を付けて名を呼ばれている。
そんなカイが真っ先に手を挙げたのでアルカ教皇が発言を許可する。
「ありがとうございます、聖下。昨日の会議の場でも申し上げた通り、件の魔王の討伐については、〈機怪王〉であり〈不朽の勇者〉である僕に任せていただきたく存じます」
見た目と声だけならば黒髪の幼い少年の姿に相応しいものだが、彼の全身から自然と発せられる覇気に可愛らしさは一切なく、室内の半数の者達が圧倒されていた。
カイの覇気を受けても平然としているのは、俺とジークベルト、あとはアルカ教皇ぐらいだ。
本気ではないとはいえ、超越者の覇気を前にしてもアルカ教皇は微笑を浮かべたままだ。
相変わらず泰然自若としているアルカ教皇に妙な感心を抱きつつ、室内を満たす圧を散らすように手を軽く振りながら挙手した。
「キリュウ陛下はこう仰っていますが、エクスヴェル公のご意見も伺いましょうか」
「はい。少しよろしいでしょうか、キリュウ陛下」
「何でしょうか、エクスヴェル公」
「キリュウ陛下は皆様がご存知であるように既に超越者の域に達しておられます。そこに至るまでの苦難と努力には畏敬の念を感じずにはいられません」
「……ありがとうございます」
「そんなキリュウ陛下が魔王討伐を目指すというのは、同じ勇者であり魔王討伐の先達者である私としても個人的には応援したかったのが正直な気持ちです」
「その言葉は私の手による魔王討伐に賛同できないように聞こえますね」
カイの童顔の眉間に僅かに皺が寄るのに気付きつつも、臆することなく言葉を続ける。
「キリュウ陛下。平時であれば私も応援したのですよ。ですが、此度の勇聖祭に際して現役の勇者達が集められた趣旨を考えれば、陛下による〈生廃の魔王〉の討伐はご遠慮願わなければなりません」
「……勇者達の成長、ですね?」
「はい。正確には勇者や勇者候補達の更なる成長のためにも、魔王討伐には私達以外の勇者に挑んでいただいた方がいい。それが此度の勇聖祭の本当の目的ですからね」
普段は様々な国に分かれている勇者達を一つの場所に集めて話し合うのに、勇聖祭ほど都合の良い名分はない。
勇聖祭に招致された勇者達は、その本当の目的を事前に招待状で知らされているので初出の情報というわけではない。
その趣旨の中にある勇者達の成長に、何体もの魔王を討伐している俺や既に超越者であるカイは含まれていないのは、内容的にも明らかだ。
それはカイ自身も分かっているだろうが、それでもカイが魔王討伐を行おうとしているのは、ザルツヴァー戦王国との戦争に決着を着けるためだと思われる。
〈生廃の魔王〉との〈星戦〉に勝利すれば強力なアイテムが手に入るのは確実であり、その力は長く続く戦争を終戦に導く一手になる可能性が高い。
両国の戦の目的である神造迷宮を確保するために、新米国王としてカイも必死なのだろう。
まぁ、そんな事情は俺には関係ないし、両国の戦争では間接的に稼がせてもらっている。
だからと言って戦争継続を推奨するつもりは一切ないが、他の勇者達の成長の機会を奪うこととは別問題なので正論を述べて反論しておく。
「魔王討伐を何回も成している私は勿論のこと、超越者であらせられるキリュウ陛下にとって、魔王討伐という成長の機会の優先度は決して高くありません。その機会は人類の守護と繁栄という長期的かつ平和的な観点から見ても、私達以外の勇者の方々に譲った方が価値があります」
「……なるほど。エクスヴェル公の言に一理あることは僕も認めざるを得ませんね。ですが、件の〈生廃の魔王〉との戦いで勇者達が敗れ、命を落としてしまったら元もこうもありません。そんな危険を冒すぐらいなら超越者である僕が魔王に挑んだ方が良いんじゃないかな?」
「元より魔王討伐は命懸けですよ。何度も魔王と戦い勝利してきた経験がある私は、そのことを身を以て知っています。そんな私の言葉が信じられませんか?」
「それは……」
魔王討伐経験が何回もある俺と、魔王と戦ったことのない超越者のカイ。
魔王討伐においてどちらの言葉に説得力があるかは言うまでもないことだ。
そのことはカイ自身も分かっているようで二の句を告げないでいた。
このまま話を終わらせてもいいが、それだけでは禍根を残し過ぎるので、カイに代案を提示する。
「あと、スライムの魔王である〈生廃の魔王〉の力を解析したから分かるのですが、かの魔王の力はキリュウ陛下とは相性が悪いのです。勝つこと自体はできるかもしれませんが、相性が悪いだけに多大なリスクを負うことになる可能性が高いでしょう」
「その程度は承知の上だよ」
「そうでしょうとも。ですが、どうせ命を懸けるならば相性の良い魔王の方が良いとは思われませんか?」
「どういうことだい?」
「簡単なことです。〈生廃の魔王〉とは別の魔王の討伐をキリュウ陛下に担当していただけばいいのです。居場所を確実に把握している魔王が一体だけいるではありませんか」
そう言い放ってからアルカ教皇の方を向く。
意図を察したアルカ教皇が少し苦笑混じりに答えを発する。
「封印状態にある〈怒轟の魔王〉ですね?」
「はい。同じ魔王でも封印されている〈怒轟の魔王〉ならばキリュウ陛下とは相性がよろしいかと思われます」
〈怒轟の魔王〉とは百年以上前に封印された魔王であり、種族は〈黄金獅子凶獣〉という物理攻撃に特化した魔獣の王だ。
防御力に優れ、時間操作能力を持つカイにはピッタリの相手だろう。
カイの持ち味が活かされない〈生廃の魔王〉に挑むよりは被害は少ないはずだ。
「キリュウ陛下が〈怒轟の魔王〉を倒されれば、その封印に割いていたソースを他のことに回せます。エリュシュ神教国としても利のあることかと思いますが如何でしょうか、聖下」
「そうですね。確かに我が国としても利の大きいことです。せっかくキリュウ陛下が魔王討伐に意欲的になってくださっているのですから、それに応えないわけにはいけませんね。キリュウ陛下」
「は、はい」
「魔王討伐の経験が豊富なエクスヴェル公がキリュウ陛下を〈怒轟の魔王〉の討伐に推薦なさっています。エクスヴェル公の言は尤もだと私も思っております。あとはキリュウ陛下のご意思次第ですが、どうなされますか?」
「……そこまで言われたらご期待に応えないわけにはいきませんね。魔王討伐に際しての後押しはいただけるのですよね?」
「勿論です。いつまでと期間の確約はできませんが、少なくとも〈生廃の魔王〉の討伐準備に掛かるのと同じだけの時間は、陛下の国が他国から攻められないことをお約束致しましょう」
これで二体の魔王の討伐予定が決まった。
〈生廃の魔王〉の討伐実行者はまだ決まっていないが、これでカイが会議の邪魔をしてくることは無くなったので、勇聖祭の期間中には決まることだろう。




