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黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜  作者: 黒城白爵
第十五章

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第401話 宣戦布告の使者



 ◆◇◆◇◆◇



「──以上が、今代アークディア帝国皇帝ヴィルヘルム・リル・ルーメン・アークディアの名において命じられた貴国への要求である。この賠償に応じない場合、帝国は貴国との戦争状態に突入致します」



 月が地上を照らす時間帯。

 スキュアクス血国の王城の謁見の間にアークディア帝国からの布告官である使者の声が響き渡る。

 正面から相対するはスキュアクス血国の国王エドゥアルト・ブルト・スキュアクス。

 左右にはスキュアクスが現在所有する血鬼神器の全ての所有者が立ち並んでおり、彼らが使者に対して発する圧によって謁見の間は重い空気に包まれていた。

 神器所有者からの殺気や威圧を受けても平然としている使者へと、国王エドゥアルトは問い掛ける。



「貴国の皇太后を我が国が拉致監禁したという話だが、証拠はあるのか?」


「証拠ならば当事者であるベアトリクス皇太后陛下とその救出を行なった者による証言がございます。元より加害者である貴国が素直に罪を認めるとは思っておりませんので、その点の認否に何の意味を持たないことをご理解くださいますよう願います」


「ほう……」



 使者の挑発するような物言いに謁見の間に集まったスキュアクス血国の者達が気色ばむ。

 自分以外の室内にいる全ての者達からの殺気を受けても表情を変えない使者は、更に言葉を続ける。



「我が国の皇太后陛下を害するという貴国の行いは、アークディア帝国への宣戦布告と捉えることができます。そのため、本来ならばこのような最後通牒をする必要はないのですが、貴国は一応は皇太后陛下の祖国にあたります。ですので、先ほどの要求を素直に承諾していただければスキュアクスの名は残して差し上げましょう」


「……大国とはいえ、我が国をこれ以上貶めるならば相応の報いを受けることになるぞ?」


「貶めるも何も、それは此方の台詞なのですがね。つまり、要求は認められないで構いませんね?」


「フンッ! 現在いる全ての王族の処刑と自治権の放棄を認める者がいると思うか?」



 髭面の凄みのある顔を更に厳しくしながらエドゥアルトが使者を睨み付ける。

 その視線を真っ向から受け止めた使者は、肩を竦めながら首を横に振る。



「いないでしょうね。ですが、自分の責任は自分で取るのが筋というもの。皇太后陛下の拉致監禁は貴国の王族主導で行なったことなのですから、貴方方王族が代償を支払うのは当然だと思われますが?」


「ただの布告官風情が随分と語るではないか。どうやら命は惜しくはないようだな」



 エドゥアルトが手を上げると、周りにいる者達が一斉に武器を向ける。

 血鬼神器の所有者達は全員が神器を実体化させて、その矛先を使者へと向けていた。



「最後にもう一度窺いますが、降伏の意思は無いのですね?」


「身に覚えのないのだから当然だろう。どのみち開戦するのだ。貴様の首を帝国に送ることで他国へ遺憾の意を示すとしよう」



 エドゥアルトが手を下ろすと、代表して槍型の血鬼神器の使い手の一人が使者へと攻撃を仕掛ける。

 迫り来る神槍の矛先に対して、使者は微笑を浮かべてから口を開いた。



「【黒威ノ神翼手(ニグレド)】」



 使者の指に嵌められていた指環が一瞬で金縁の黒いローブへと姿を変え、その背後からカラスのような黒い翼が顕現する。

 瞬く間に姿を現した黒翼は、鋭く突き出された槍型神器〈重なり穿つ螺旋槍(フレン)〉の矛先を受け止めた。

 黒翼へと突き立てられた神槍は、僅かに黒翼を削っただけで突き破ることは出来ず受け止められていた。



「これは、まさか神器ッ!?」



 神槍の使い手をはじめとした謁見の間にいる殆どの者達が驚愕する中、アークディア帝国から来た使者はその姿を変貌させる。



「き、貴様は、リオン・エクスヴェルッ!?」


「スキュアクス国王陛下が私の顔をご存知だとは、恐悦至極でございます。改めまして、此度の貴国へ対する宣戦布告の布告官を務めさせていただきました、アークディア帝国公爵リオン・ギーア・ノワール・エクスヴェルでございます。以後、お見知り置きを」



 エドゥアルトへと軽く頭を下げるリオンの傍では、リオン専用の〈聖金霊装核(キトリニタス)〉であるキトリニタス=トライアの黒翼によって神槍の使い手が神槍ごと拘束されている。

 トライアの【神器共鳴(シン・レゾナンス)】によってトライアの等級は、伝説(レジェンド)級最上位から一時的に神域(ディヴァイン)級下位へと上昇している。

 同格の神器ではあるが、血鬼神器は元の正規の神器を分化したある種の劣化品であり、トライアは限定的に神器化した紛い物と言えなくもない。

 神器の格という面において双方に然程差はないため、あとは使い手の技量次第でこのように一方的な拘束が可能だった。


 頭を上げたリオンが槍型血鬼神器へと手を伸ばすのを見たエドゥアルトは、自らの槍型血鬼神器を顕現させて能力を発動させた。

 リオンの手と神槍の間に見えない壁が出現し、彼が血鬼神器に触れるのを防ごうとする。

 何かを理解しての行動ではなく直感に従っての能力の行使だったが、リオンはエドゥアルトのその素早い判断と行動に軽く驚いていた。



「ほう。理解した上での行動ではないみたいだが、勘がいいな。まぁ、無意味だが」



 【強欲神皇(マモン)】の【発掘自在】によって不可視の壁が簡単に破壊され、その手が血鬼神器へと触れる。

 リオンの手から生じた力の波動に槍型血鬼神器の表面が一度波打つと、その固定化された槍の形状を崩壊させ、紅色の液体状へと姿を変えた。



「……ッ!?」



 神槍の使い手だった吸血鬼が声にならない悲鳴をあげながら胸を掻き毟る。

 まるで溺れるような、或いは強烈な飢餓に襲われているかのような形相となって苦しんだ吸血鬼は、血液状態の血鬼神器に引き摺り出されるように体内の血液の殆どを失った後、呆気なく絶命した。

 血鬼神器を含めた血液がリオンの手を通して彼の体内へと吸い込まれていく。

 目の前で起こった異常な光景に、リオンを除いたスキュアクス血国の者達が絶句する。

 だが、その驚きはまだ終わっていなかった。



「……なるほど。そうなるのか。あくまでも一部のみで基本は別物ということだな」



 何かに納得したリオンが手を前方に翳すと、その手から噴き出した血液が槍を顕現させた。

 それらは、たった今リオンの体内へと姿を消したばかりの血鬼神器である神槍フレンだった。



「き、貴様、我ら吸血鬼の神器を……ッ!」


「見ての通りですよ。コレは今から私の物です。何せ神器に認められましたので」



 品定めするようにリオンの視線が他の血鬼神器の使い手達へと向けられ、彼らは無意識に後退りした。

 空間を断つ能力を持つ槍型血鬼神器〈聳え隔つ次元槍(ヘヴリング)〉。

 影を操り眷属を生む能力を持つ槍型血鬼神器〈沈め堕つ影槍(ドゥーヴァ)〉。

 魔法系能力と重力能力を持つ鎧型血鬼神器〈叩き討つ魔杖の鎧(ウズ)〉。

 捕縛能力と念動能力を持つ鎧型血鬼神器〈捕り囲む血鎖の鎧(ビュルギャ)〉。

 近接攻撃と呪いの能力を持つ鎧型血鬼神器〈狩り弄ぶ呪狼の鎧(バーラ)〉。

 今の光景を見て、自分達が持つこれらの血鬼神器は奪われないと思う者は誰一人としていなかった。



「ふむ。他の方々の神器にも興味はありますがコレだけで満足するとしましょう」



 必要なデータは得られましたしね、と呟くと、神槍フレンを体内へと戻した。

 トライアの黒翼で掴んでいた死体を投げ捨てて黒翼を解除すると、再びエドゥアルトへと向き直った。



「さて、我が国からの最後通牒に対する貴国の回答は受け取りましたので、これにて失礼致します。次に皆様にお会いする時が今から楽しみです」



 謁見の間にいる者達へと胸に手を当てながら頭を下げると同時に、リオンの足元に転移魔法陣が展開される。

 それを見ても、エドゥアルト達は動くことは出来ない。

 自分達吸血鬼にのみ許された血鬼神器が、上位種とはいえ人族に連なる人間に奪われた衝撃は一体如何程のものなのか。

 その衝撃の大きさを示すかの如く、リオンがその場から姿を消してもなお、暫くの間誰一人として動くことが出来なかった。




 

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