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第396話 血と称号



 ◆◇◆◇◆◇



 神剣ブローズグハッダごと弾き飛ばしたカイウスを追って一歩踏み出す。

 前進しながら神刀エディステラで横薙ぎに斬り払うと、カイウスはすんでのところでブローズグハッダで斬撃を受け止めていた。

 だが、地に足が着いていない空中で攻撃を防いだことで、踏ん張りがきかなかったカイウスは更に後方へと吹き飛ばされた。

 空中で一回転して今度こそ地面に着地できたカイウスの目と鼻の先に移動すると共にエディステラにて突きを放つ。


 スキルに頼らず、規格外の身体能力と足捌きのみを駆使して行う短距離転移に匹敵する瞬間移動の如き歩法である〈縮地〉。

 これはSSランク冒険者(超越者)である〈天喰王〉リンファ・ロン・フーファンと親交を深めている時に習得した東方に伝わる戦闘技能だ。

 転移系のスキルとは違い魔力を使用しない技術なため、魔力感知によって動きを事前に察知されないという利点がある。

 まぁ、神域(ディヴァイン)位階(ランク)の転移能力などはスキル発動の際の魔力を感知されたりしない、或いは感知されるよりも先に転移が完了する。

 その上、〈縮地〉の習得難度は非常に高く、移動可能な距離は長距離転移には及ばないなど、〈縮地〉の方が優れているとは一概には言えないのだが。


 ユニークスキル【天空至上の雷霆神(ゼウス)】の内包スキル【瞬身ノ神戯(ヘルメス)】、その派生スキルの一つ【瞬神ノ歩法】では縮地に似た力を行使できるが、この程度の相手にわざわざスキルを使う必要はない。

 遊びは終わりだ的なことをカイウスに言ったが、だからと言って本気を出すほどの警戒心を抱くことはできなかった。

 最近の戦いの際も戦士としての身体の使い方をしておらず、気分的に運動不足気味だったので、基本的には素の身体能力と剣術のみで相手をすることにした。



「ぐっ!?」


「ふむ。中々の再生力だ」



 閃光のように放った突きで抉ったカイウスの右肩が一秒ほどで元通りになる。

 俺みたいに刹那のうちに再生するレベルではないが、非常に高い再生速度なのは間違いない。

 追撃を仕掛けようとすると、通路の地面を赤く染めていた騎士達の血が蠢き、剣山となって襲い掛かってきた。

 後退することで足元からの奇襲を回避していると、カイウスのブローズグハッダが周辺に散らばっている血を吸収しだした。

 神剣が血を吸収するに従ってカイウスの気配が増大していく。

 どうやら身体能力だけでなく全能力が強化されているようだ。

 吸血鬼(ヴァンパイア)族の種族特性が強化された感じだろうか?

 強力な効果ではあるが、それだけだと神器の能力としては少しシンプル過ぎる気がするので、もしかすると他にも効果があるのかもしれない。



「能力値の増大が永続ならかなり使える能力だな」



 他者の血を取り込み各種能力値を強化する【血喰剣禍(ヤールンサクサ)】。

 血を武器に変化させて操る【血染戦器】。

 ここまでの戦闘で分かった神器〈血濡れの鬼剣(ブローズグハッダ)〉の能力はこんなところか。

 他者が持つ神器の能力の詳細を一目で看破するのは不可能なので、あくまでも分析による推測だが、たぶん大体あってるだろう。

 残る【鬼神血闘(テオマッハ)】と【煌血ノ鬼城(カエルロイウ)】については未だ不明だが、このどちらかが俺の神域の隠密能力を看破した能力だと思われる。

 まぁ、前者は任意発動型の戦闘系能力っぽいから、おそらく後者なんだろうけど。



「準備は終わったか?」


「……賊の分際で王族たる私を見下すとは。身の程を知れ」



 そう言い放つと、カイウスの全身から紅い闘気(オーラ)が立ち昇る。

 【血喰剣禍】で高められた身体能力が更に強化されたのを見るに、これが【鬼神血闘】か。

 先ほどまでの動きを大きく上回る速さで斬り掛かってきたカイウスからの一撃を受け止めるが、次は俺の方が吹き飛ばされてしまった。

 地面に踏み止まる以上の力を以て強引に吹き飛ばされたが、空中を蹴って体勢を立て直すと即座に反撃に移る。

 大気を蹴って加速すると、その勢いを斬撃に乗せてカイウスへと斬り掛かった。


 十秒に満たない間に辺りに鳴り響く神剣と神刀による剣戟の音は数百にも及んだ。

 身体能力の面では完全にカイウスに上回られているが、武器の面においては俺の方が上回っている。

 同じ神域級でも中位と下位と差がある上に互いに不壊特性を持つ神器なので、剣と刀で真っ向から打ち合っても問題はない。

 そのため、更に手札を切らない限りは、後は戦闘技術の差が勝負を決めると言えた。



「ッ! おのれ……ッ!!」



 意図的に生み出した隙に誘われてきたカイウスの斬撃を躱わすと、そのまま彼の背後へすり抜けるようにして袈裟懸けに斬り裂く。

 胴体の半分を斬り裂いても瞬く間に傷は塞がるため、この程度の攻撃では致命傷にならない。

 だが、同じことを幾度となく繰り返していく度にダメージは蓄積されていき、カイウスの精神も擦り減っていった。

 背後へと振り返ってきた彼は、最早無表情を保つ余裕は無く、このまま続けていけば剣技のみで勝利することができるだろう。



「はぁ、はぁ、喰らえッ!!」



 ブローズグハッダを地面に突き刺すと、そこから大量の血液が濁流のように噴き出してきた。

 俺を押し流すようにして迫ってきた血液の波を斬り払って霧散させていると、カイウスがベアトリクスが捕らえられている牢屋まで戻っていた。

 人質にでも取るのかと思っていると、カイウスはベアトリクスの近くに設置されている巨大な機材を破壊し、そこに納められていた血液をブローズグハッダに吸収させようとしていた。



「で、殿下!?」


「何をなさってるのですか!!」


「せっかく抽出した神血が」


「黙れ」


「ギャッ!?」



 カイウスを止めようとした研究員が、腕の一振りで真っ二つにされる。

 どうやらベアトリクスから抽出した血鬼神器が宿る血をブローズグハッダに取り込ませるつもりのようだ。

 周りの研究員の反応からも、ブローズグハッダの能力で一体化させる方法は推奨されていないのだろう。

 ブローズグハッダによる神器が宿る血の吸収も、普通の血よりも吸収速度が遅く、機材に保管された血を吸収し終えるまで数秒はかかる。

 俺を前にしてそんな時間のかかることを行うぐらいには余裕がないらしい。



「はぁ……これ以上は期待出来なさそうだな」


「グハッ!? き、貴様……ッ!!」



 カイウスの背後に瞬間移動すると同時にブローズグハッダを握る右手を斬り落とし、続けて背後から心臓にエディステラを突き立てた。

 ここまで使っていなかった治癒不可の星痕を刻む補助系スキル【神蝕む超越種の星痕】を発動させているので、カイウスの身体はこれまでのように再生されない。

 予想した通り、神器を宿した血が身体に流れていても【神蝕む超越種の星痕】は有効のようだ。



「そろそろ地上の城から増援が下りて来る。まだ剣を交わす気概があるなら時間を作ってやったんだが、そうじゃないみたいだからな。だから、時間切れだ」



 カイウスに見つかり、地下施設を警備する騎士達を呼ばれてから約一分が経過している。

 体感時間ではもっと経っているが、現実時間ではその程度しか経過していない。

 地上まで襲撃を受けたことが伝わり、そこから増援が派遣されてくるまで建物の構造的にも少なくとも三分ぐらいは必要だろう。

 思ったよりも幕引きが早かったが、まぁそれなりには満足できたかな。



「我が国を敵に回して、無事に済むと、思う、なッ」


「そうだな。だが、大国であるアークディア帝国の皇太后に手を出したんだ。俺はまだしも、この国も無事では済まないだろう」


「神器を、集めた、我らに勝てるわけが、ない」


「さて、どうだろうな。ま、時間がないからそろそろ逝け」


「ガッ!?」



 カイウスの心臓を貫いたまま神刀エディステラの第二能力【世界ヲ解ク刃】を発動させ、刀身から漆黒色の剣気を放出する。

 オーラの一種である剣気に触れていたカイウスの心臓部周辺が瞬く間にエネルギーへと分解され、第四能力【界力吸収】でそのエネルギーを吸収していく。

 胸部に巨大な穴が空いたカイウスの身体が崩れ落ちると、自由になったエディステラを背後に向けて振り抜き、生き残りの研究員達も処理する。



「さて、あとは皇太后陛下を連れて脱出を、ん?」



 足元でカタカタと音がしたので下を見ると、神剣ブローズグハッダが独りでに震えていた。

 視線を向けてすぐにブローズグハッダが血液へと形態を変化させると、カイウスの死体から流れ出てきた血液と合流して一つになった。

 興味深い現象を観察していると、血液形態のブローズグハッダが少しずつ俺の方へと近づいてきた。

 大半の九血神器の大元である四血神器は、帰属者が死んだら生まれたばかりの吸血鬼の赤子に宿ると聞いている。

 九血神器でもその点は同じだと思っていたが、違ったのだろうか?



「あるいは、【強欲神皇(マモン)】や〈強欲の勇者〉の称号の効果か……」



 視線を機材の近くに移すと、そこには大量の研究資料が積まれていた。

 俺が今知りたい情報が書かれているかもしれないので、後で中身を確認してみるとしよう。



「来い」



 地面を這うブローズグハッダに手を翳すと、引き寄せられるようにしてブローズグハッダが手の中に収まり長剣形態と化した。

 その状態で魔力を流し込むと、ブローズグハッダは再び血液形態へと変化し、手のひらを貫くようにして体内へと流入していった。

 厳密には俺は本物の吸血鬼じゃないんだが、普通に神器が帰属してしまったな。



[神器〈血濡れの鬼剣(ブローズグハッダ)〉が帰属者へと最適化されます]

[スキル【煌血の大君主】が神器〈血濡れの鬼剣〉へ取り込まれます]

[等級が神域(ディヴァイン)級下位から神域級中位へとランクアップしました]

[名称が神器〈血濡れの鬼剣〉から神器 〈精霊なる魔女の器(モルガン)〉へと名称改変(リネーム)されました]



 神器にスキルが取り込まれてランクアップするとは……こんな現象もあるんだな。

 まぁ、〈強欲の勇者〉と〈創造の勇者〉の冠位称号がある俺だけかもしれないけど。

 称号と言えば、神器の名前的にも〈精霊王〉と〈黄金の魔女〉の称号も関係していそうだ。

 同時に、レティーツィアのユニークスキル【戦鴉と夜魔の大女王(モリガン)】を彷彿とさせる名前でもある。

 詳細は後で確認するとして、ベアトリクスの救出を行うとしよう。



「皇太后陛下。ベアトリクス陛下」


「……」



 白い貫頭衣を着て椅子に座ったまま拘束されているベアトリクスに声を掛けるが反応はない。

 生きてはいるが、衰弱している上に意識が混濁しているようだ。

 先ほどまでの戦闘の際も意識を向けていたが、その時も一切反応していなかった。

 薬物の類いではなく、近くの機材と繋がっている首輪が原因だろう。



「ふむ……外しても大丈夫そうだな」



 首輪を外しても問題ないと判断すると、ベアトリクスから首輪を外した。

 ベアトリクスの首に刺さっていた首輪の棘から血が噴き出してきたので、機材に残っている分も含めて彼女の血を操って彼女の体内へと戻していった。

 首輪を外すと同時に意識を失ったベアトリクスを横抱き──お姫様抱っことも言う──で持ち上げる。

 想像以上に軽かったことに驚きつつ、周りの機材と資料を【無限宝庫】へ収納した。



「ギリギリだったな」



 地上へ繋がる通路の方から近付いてくる足音を聞きながら、【地星ノ神戯(ガイア)】の【大地自在】でこの辺り一帯の天井を崩壊させる。

 悲鳴が上がる通路側に背を向けると、転移を発動させてスキュアクス血国を後にした。





 

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