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第382話 眷属達の動向



 ◆◇◆◇◆◇



「──待て」



 これまでに獲得した魔導機具(マジックギア)のリバースエンジニアリングについて考えながら通路を歩いていると、周囲に引き連れていた深淵の(ともがら)夜鬼(ナイトゴーント)〉が、接近してきた第三者に対して各自が持つ武器を振るおうとしていた。

 のっぺらぼうな顔以外は、前世における西洋の悪魔のイメージに近い見た目をしたナイトゴーント達の動きを制した直後、近くの闇の中から二つの人影が姿を現した。



(あるじ)様の御手を煩わせてしまい、誠に申し訳ありません」


「遅参しましたことも含めて、お詫び申し上げます」


「気にするな。それにしても、よく俺が此処にいることが分かったな?」



 目の前で片膝を突いて跪く男女は、男が殺人(フォノス)、女が虐殺(アンドロクタシア)という名前を持つ。

 この二人は、リテラ大陸の表舞台における俺の偽りの肩書きである冒険者ニグラスの相棒の戦闘(ヒュスミネ)と同じく、ユニークスキルによって生み出された人型の眷属だ。

 レベル九十で生み出されたヒュスミネとは違い、経験値を消費して生み出していないためレベルは八十しかないが、その対人戦に特化した能力から人型が相手ならば、多少のレベル差があっても勝利することができるだろう。



「主様と我ら眷属の間には霊的な結び付きがございます」


「その繋がりを辿っていけば、このような異空間に御身がおられても我々は知覚することが可能です」


「なるほど。次元の壁を越えても知覚できるとは思わなかったが、冒険者をしている分身体の方とは間違えなかったんだな?」


「あちらには同族が傍におりますので」


「こちらの御身と判別することは容易でした」



 どうやら主人である俺だけでなく、同族の人型眷属の位置も知覚することができるらしい。

 神域の力で作ったからか、人型の眷属だからかは分からないが、色々と規格外であることを再認識した。



「主様により賜った命令を──」


「少し待て」



 フォノスの言葉を遮ると、周りで待機しているナイトゴーント達を通路の先へと向かわせる。

 翼を広げて滑空するナイトゴーント達は、曲がり角の向こう側から駆けてきた兵士達と接敵し、戦闘に入った。

 武器や肉体だけでなく、種族的に使用できる闇属性魔法やスキルを用いて守衛の兵士達を蹂躙していく。

 ナイトゴーントだけでも増援に対処できるのを確認してから眷属二人に向き直る。



「それで?」


「ハッ。御命令にあった品を真帝国の各地より回収して参りました。お納めください」



 フォノスが動くのに合わせて、アンドロクタシアも同じように何かを差し出すように両手を差し伸ばしてきた。

 直後、二人の手のひらの上に闇が発生し、その闇が晴れると、そこには多数の眼球が載せられていた。

 これらの眼球の山は、宮廷真偽官が持つ〈妖精真眼〉をはじめとした、グランアス真帝国が人族以外の他種族から奪った魔眼の数々だ。

 人族至上主義国家のグランアス真帝国の者達は、自分達以外の他種族のことを人モドキを意味する亜人という蔑称で呼んでいる。

 その亜人達の一部が持つ特殊な魔眼は、グランアス真帝国の官吏や軍人達へと移植されており、この国が繁栄する礎となっていた。


 フォノスとアンドロクタシアには、そういった移植された魔眼の回収を命じていたのだが、思ったよりも時間が掛かっていた。

 アンドロクタシアが言っていた遅参とは、このことを指している。



「確かに受け取った。襲撃時は顔を晒していないな?」


「ハッ。闇で顔を覆い隠し、目撃者は出来る限り始末致しました」


「死からの復活が出来ぬように魂も回収しております。こちらもご確認くださいませ」



 魔眼の山を収納した後もそのままだった手のひらから、大量の魂が解放される。

 それらの魂をユニークスキル【冥府と死魂の巨神(ヘル)】の【死喰魂滅(ニヴルヘル)】で処理し、その際に魂が持つエネルギーと共に魂に付着していた記憶の断片も回収した。



「また、こちらが襲撃時に得た戦利品でございます。アイテムの方は大した物はありませんでしたが、スキルに関しては幾つかの魔権系ユニークスキルを回収することが出来ましたので、お納めください」



 そう告げるフォノスとアンドロクタシアの足元の影からギアなどのアイテムが排出されると、二人の手から魂とは似て非なる強大なエネルギーが出てきたのが分かった。

 そのエネルギーに触れた瞬間、吸い込まれるようにしてエネルギーが俺の中に入っていった。

 それと同時に、新たなスキル獲得を知らせる通知が脳裏に浮かび上がってきた。



[ユニークスキル【薬効と占星の魔権(モラクス)】を獲得しました]

[ユニークスキル【勇敢と機知の魔権(イポス)】を獲得しました]

[ユニークスキル【自然と天文の魔権(ストラス)】を獲得しました]

[ユニークスキル【建築と思考の魔権(マルファス)】を獲得しました]

[ユニークスキル【未来と策略の魔権(バラム)】を獲得しました]



 ユニークスキル【神魔権蒐星操典(レメゲトン)】の固有特性(ユニークアビリティ)〈魔権蒐集〉があれば、直接肉眼で視認するだけで相手が所持する魔権系ユニークスキルをコピーすることが可能だ。

 だが今回の場合は、全ての人型眷属達に与えたユニークスキル【強欲神皇(マモン)】の限定的な強奪能力によって魔権系ユニークスキルを獲得している。

 そのため、視認によるコピーではない、強奪能力で獲得した魔権系ユニークスキルが【魔権顕現之書(ゲーティア)】へ保管されるのは久しぶりだった。


 獲得したユニークスキルの詳細と魂の記憶から、眷属達が此処に来るまで如何に大変だったかが分かった。

 特殊系スキル【煌血の大君主】の【支配ノ血】で支配した、俺の血を寄生させた帝城勤めの騎士を経由して見聞きした御前会議でも、十大帝剣──いや、数が減って八大帝剣か──の一人である〈魔元帥〉が指揮を執ると言っていた。

 十中八九その所為で追撃が激しかったのだろう。



「魔眼の回収に成功しても、脱出するのは容易ではなかったみたいだな」


「ハッ。魔眼は国の貴重な財産のようで、執拗に追撃が行われました。振り切るよりも大元を始末した方が良いと考え、追撃部隊だけでなくその指揮官も始末して参りました」



 調査団の総責任者である〈魔元帥〉は帝城にいるようだから、始末した指揮官というのはあくまでも現場の部隊指揮官のようだ。



「そうか。ご苦労だった。警備の厚い帝城を除けば、各地の移植魔眼は回収できたようだし、後は任せて拠点に戻って休んでいろ」


「ありがとうございます。ですが、御身が働かれているのに我らだけ休むわけには参りません」


「私もアンドロクタシアと同意見でございます。主様の劣化能力しか持たない身ではありますが、微力を尽くさせていただきます。どうぞ、何なりとお申し付けください」



 眷属二人からの嘆願にどうしたものかと思いつつ、二人に任せられそうなことがないかを考える。

 現在行なっている異空間内に隠されている真帝国の軍事施設の襲撃は俺一人で十分だ。

 ユニークスキル【深闇と豊饒の外界神(シュブニグラス)】の【地星ノ神戯(ガイア)】が有する派生スキル【魔性星誕】で生み出したナイトゴーント達もいるので人手も足りている。

 戦闘力という意味でも、【深淵ノ神戯(ノーデンス)】の【深淵ノ大帝(イア・ノーデンス)】で人型の闇と化している俺に勝てる戦力は、この軍事施設には存在しないため助けは必要なかった。

 真帝国内で任せられることは特に思いつかないが、国外であれば全くないわけではない。



「そうだな……なら、二人にはファダー同盟の支援に向かってもらおうか」


「ファダー同盟の支援ですか?」


「ああ。グランアス真帝国はキリシア聖法国とファダー同盟の両勢力と争っている。二つの戦線の内、聖法国側は膠着状態が続いているが、同盟側の戦況は劣勢らしい。勿論、ファダー同盟側が劣勢という意味だ。このまま同盟側の戦力が減少されると計画に支障が出る可能性があるから、お前達が傭兵として適当に手助けしてやってくれ」


「「承知致しました」」


「二人だけだとやれることは限られるだろうから、暇をしている眷属達も連れて行くといい。あと、ファダー同盟の勢力圏で活動する際は、今の人族の姿よりも他種族の姿の方がいいだろう。どの種族になるかは悲嘆(アルゴス)と相談して決めるように」


「「かしこまりました」」



 アルゴスは南方大陸の魔神星教の布教活動で忙しくしているが、奴にはリテラ大陸の情報は共有してある。

 指揮官タイプの人型眷属だし、傭兵時の種族の選定ぐらいは任せても大丈夫だろう。

 二人が固有領域〈強欲の神座〉を経由して南方大陸へと向かうのを見送ってから、施設の攻略を再開した。



 

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