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第381話 深闇の足音



 ◆◇◆◇◆◇



 リテラ大陸最大の国土を誇る大国グランアス真帝国。

 その首都アースノヴァの中枢部である帝城に激震が走っていた。

 グランアス真帝国の大戦力たる十大帝剣が一人〈不死鳥〉が、ある日突然命を落としたからだ。

 遺体が見つからないため生存の可能性を鑑みて消息不明とすべきところだが、帝城の深部に安置されている迷宮秘宝(アーティファクト)〈命灯の燭台〉によって、その可能性は排除された。


 十大帝剣の生命反応とリンクした灯火が十から九へと減ったことに気付いた後、消えた燭台の火にリンクしている十大帝剣がアグニル・フレム・ライファールであることが確認された。

 即座に調査団が結成され、アグニルの行動予定から犯人の捜査が開始されたが、死亡確認から二週間が経った今でも犯人は捕まっていなかった。


 その上、先日首都近郊で魔導機具(マジックギア)研究所襲撃事件まで発生し、その犯人探しまで同時に行うことになった。

 不幸中の幸いにも──と言うには不幸すぎる事件だが──二つの事件の犯人は同一人物である可能性が浮上していた。

 研究所の警備の任に就いていた兵士の発言から、研究所襲撃犯がアグニルの専用ギアを所持していることが判明したからだ。



「パラダイルからの報告は?」


「ハッ。昨夜まで行われていた現地調査では手掛かりは見つかっていないようです。本日は早朝より、パラダイル様の専用儀式場にある万里祭壇を用いて能力を強化した上で調査が行われています。現時点での報告は以上になります」


「うむ……二週間が経過しても未だ犯人は見つからずか」



 御前会議の場にグランアス真帝国の今代皇帝アレクサンドロス・バール・ベナ・グランヴァルの重々しい言葉が溢れる。

 普段から機嫌の良し悪しの分かり難い表情であるアレクサンドロスだが、今だけは誰の目から見ても皇帝の機嫌が悪いことが明らかだった。

 これでアレクサンドロスが臣下に当たるタイプの支配者だったならば、既に死人が出ていただろうが、幸いにも彼は歴代の中でも自制心の強い方の皇帝だった。

 だからといって全く怒らないわけではなく、無能な部下には厳しいことで知られるアレクサンドロスから放たれる無言の圧は凄まじく、会議に出席している文官達は生きた心地がしなかった。


 そんな最悪な空気の中でも普段通りの態度なのは、身分では下でもレベル的には格上である十大帝剣のみだ。

 此度の御前会議に十大帝剣は半数も出席していない。

 一人は死亡し、一人はその調査、五人は戦争の前線に出ているため、会議に出ているのは残りの三人だけだった。

 その一人〈魔元帥〉ラゼル・ダウム・バーゼラが場の空気を変えるため、少し異なる話題を投下した。



「フム。犯人探しも重要じゃが、それと同じくらい後任を決めるのも大事じゃと思うぞ。確か、新たな大帝剣の候補者がいたはずじゃったな?」



 目線で話を向けられた文官の一人が慌てて手元の資料の山を捲り、ラゼルの求めている内容が書かれている資料を探す。



「は、はい。バーゼラ様が仰られる通り、以前より情報部から新たな大帝剣候補が挙げられておりました。数は二人。一人はカラン・ダール。死霊使いの冒険者でして、先日も自らの討伐団を率いてダンジョンの攻略を成功させ、迷宮核(ダンジョンコア)を持ち帰っております」


「ホッホッホッ。それは有望じゃの。死霊使いならば、戦場でもさぞかし活躍してくれることじゃろうのぅ」


「……そのカラン・ダールの活動拠点はランドスだったな。そいつはライファール殺害の容疑者には挙がっておらぬのか?」


「い、いえ。当時、カラン・ダールはランドスに凱旋後、すぐにこのアースノヴァに迷宮核を輸送すべく発っております。ライファール様がランドスのダンジョンに向かった時は、アースノヴァ行きの飛行艦に乗艦していたことが確認されていますので、容疑者には挙がっておりません」


「……フン、そうか。分かった。話を続けろ」


「かしこまりました」



 幼子の頃からアレクサンドロスのことを知り、教育係を務めたこともあるラゼルは、彼の話の横槍に対する呆れ顔を隠さなかった。

 そのことに気付いているアレクサンドロスも、相手がラゼルとあって特に何も言わないが、眉間に寄った皺が少し深まった。

 そんなアレクサンドロスの様子に戦々恐々としつつも、ラゼルから話の振られた不幸な文官は大帝剣の候補者の報告を続ける。



「では、報告を続けます。二人いる大帝剣の候補者の一人は今も申しましたカラン・ダールです。そして、もう一人ですが──」



 文官がその名前を告げようとした直前、会議室の扉が強く叩かれる。

 即座に扉の脇にいる騎士達が腰の鞘に手を当てるが、扉の外にも警護の騎士達はいる。

 そのことからも、扉を叩いているのは伝令の兵士だ。

 しかも、御前会議が行われている会議室の扉をこのようにして叩くということは、何かしらの緊急の案件が発生したことは明白。

 部屋の前に立つ騎士の一人が扉を僅かに開けて確認を取った後、ようやく会議室の扉が開かれ伝令が駆け込んできた。



「か、会議中失礼します! め、メルセリム・ラナ・パラダイル様の儀式場が何者かの襲撃を受けました!」


「なっ!」


「何だと!?」


「〈千里鮮明〉は生きておるのかッ!?」



 室内にいる者達が次々と驚愕の反応をする間に息を整えた伝令が、最後の質問に対して返答する。



「残念ながらパラダイル様は死亡されたとのことです。祭壇の中央で剣に貫かれた状態でお亡くなりになっているのを発見されました。また、移植されていた二つの魔眼と専用ギアも失われていると……」


「何ということだ……十人いた大帝剣がこの短い間に八人になるなんて」


「〈不死鳥〉に続いて〈千里鮮明〉までやられたというのか」


「おい! 警備の奴らは一体何をやっていたのだ!!」


「うぐッ」



 会議室にいた貴族の一人が伝令の胸倉を掴んで問いただすのを、まだ冷静さを保っている他の貴族達が慌てて引き離す。

 皇帝へ重要な報告をしにきた伝令に対する暴行は、下手をすれば死罪になるからだ。



「ゲホッ。ぎ、儀式場の警備に就いていた兵達も全て死亡しておりました。交代の警備の者が異常事態に気付いたのですが、それまで戦闘音などの異常は全く聞こえていないそうです」


「……陛下。騎士達をお借りしてもよろしいですかな? パラダイル嬢がやられた以上は、儂が儀式場の調査を行なったほうがよいかと思われます」


「そうだな。ラゼルに任せる。調査に必要な兵は好きに連れてゆけ」


「感謝致します。では、早速調査に──」


「失礼します! 情報部より緊急報告です!」



 ラゼルの言葉を遮るようにして二人目の伝令が駆け込んできた。

 アレクサンドロスとラゼルを含めた、その場にいる全ての者が嫌な予感を覚えた。



「現時点で帝城へ登城している者を除き、亜人達の魔眼を移植した者達が各地で殺されていると報告がありました!」


「……魔眼はどうじゃ。残っておるのか?」


「全て、抉り出されているとのことです」


「ふむ……この状況だけ見るならば、多数の亜人種の集まりであるファダー同盟の仕業の可能性もありますが、連日の襲撃事件を考えると断言するのは難しいですな。あとは、キリシア聖法国による偽装工作の線もあるかと」


「……ラゼルよ」


「はい、陛下」


「今より貴様を此度の一連の事件の調査の総責任者に任じる。調査に必要ならば各種資源や人員だけでなく、他の大帝剣を使っても構わん。我が真帝国の財産を奪った輩を必ず捕らえよ。これは皇命である」


「かしこまりました。この老骨の全力を以て必ずや下手人を探し出してみせましょうぞ」



 立て続けに起こった真帝国を揺るがす異常事態を解決すべく、話し合いが再開される。

 その室内にて、扉の守護に就いている騎士の一人の眼が、騎士兜(ナイトヘルム)のスリットの奥で人知れず黄金色に輝いていた。




 

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