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第378話 十大帝剣



 ◆◇◆◇◆◇



「──ふむ。コイツがこのダンジョンのラスボスか」


「RHAaaaーーッ!!」



 声を聞いた者の精神にダメージを与える甲高い雄叫びを上げているのは、〈奈落の霊鉱〉の迷宮主(ダンジョンボス)狂死幽鬼竜王レイスデッド・ドラゴンロード〉だ。

 幽鬼(レイス)系であるため、その身体の多くは半透明で非実体の青白い霊体だが、竜系でもあるので三分の一ほどは実体である竜の骨で構成されており、ある程度の物理攻撃を行うことができる。

 一つ前の地下二十五階の階層主(フロアボス)であった〈冥獄の騎死王(ネザー・ナイトロード)ヴァルダラ〉の相手はヒュスミネに譲ったため、目の前のコレの相手は俺がする。

 今更この程度の魔物を倒すことなど朝飯前なので、せっかくだから倒し方を選ぼうと思う。



「コイツも霊体系だから霊魂石をドロップするんだよな?」



 霊魂石は霊体系アンデッドを光属性攻撃で倒した際に稀に生成される。

 そのため、霊魂石を手に入れるには光属性魔法や属性系攻撃スキル、あとはそれらの光属性攻撃と同じ力を発揮する魔導具(マジックアイテム)を使う必要がある。

 では、星の魔力たる星気によって発現する仙技で倒した場合はどうなるのだろうか?

 純度で言えば自然界の力を借りる仙技の方が上なはずなので、何かしら変化があるかもしれない。

 レイスデッド・ドラゴンロードの討伐方法が決まると、さっそく光系仙技を行使することにした。



「〈光子着種〉」



 レイスデッド・ドラゴンロードが放つ精神攻撃を無視して、体内から抽出した光の星気を手の平の上に凝縮させ、一粒の光の種を生み出した。

 その光の種を人差し指の先に乗せたままレイスデッド・ドラゴンロードを指差す。

 すると、光の種はひとりでに射出され、レイスデッド・ドラゴンロードの身体へと着弾した。



「RHEGYAAaaaッ!?」



 濃厚な光属性の一撃は指先サイズであっても痛いのか、レイスデッド・ドラゴンロードが悲鳴をあげている。

 そんな悲痛な声の主に向けて手を翳すと、そこにあるモノを握り潰すようにしながら追加の星気を解き放った。



「〈光花繚乱〉」



 日の光を受けた種子が芽を出すかの如く、レイスデッド・ドラゴンロードの身に穿たれた光の種が発芽する。

 外部の光の星気に呼応した光の種は、土壌となっていたレイスデッド・ドラゴンロードの身体を内側から引き裂きながら開花した。

 瞬く間に種から花の状態まで進行した光の花は、ボス部屋全体を白く染めるほどの光が解放され、レイスデッド・ドラゴンロードの霊体を浄化していった。

 今度は先ほどのような悲鳴をあげる暇もなかったようだ。

 後に残った巨大な光の花の真下に転がる竜の骨の山を見ると、その中に少し大きめの球体が転がっているのが見えた。



「霊魂石……いや、〈霊魂珠〉か。名前的には霊魂石の上位版みたいだな。ダンジョンボスだからなのか、光の仙技で倒したからなのか」



 どちらの理由にせよ、シルバー級の冒険者で入手できる情報の中には間違いなく無かったアイテムだ。

 冒険者協会で確かめたいところだが、未発見のアイテムだったら藪蛇になりそうなので、追々調べればいいだろう。

 


「物凄く眩しかったです」


「ヒュスミネの光耐性でも目がやられたのか?」


「はい。完全に見えなくなったわけではないのですが、少し辛いです」


「ふむ。俺の耐性系スキルと変わらないはずだが……それ以外の要素の差か?」



 たぶん神の加護とか〈精霊王〉とかユニークスキルの差だろうな。

 そう考えてみると、耐性面においても人型眷属とは結構な差がありそうだ。



「ま、こればかりは仕方ないか」



 気を取り直して、レイスデッド・ドラゴンロード討伐により出現したボス宝箱を開く。

 これまでのボス宝箱と同様に、俺が開く時は宝箱に罠は仕掛けられていなかった。

 ボス宝箱の中の金銀財宝から幾つかのアイテムを手に取る。



伝説(レジェンド)級の迷宮秘宝(アーティファクト)〈幽鬼竜王の招魂指環〉に、叙事(エピック)級の〈竜骨の霊殻鎧ニズーグ〉と〈死霊鬼典ネクロオルグ〉か」



 たった今倒したレイスデッド・ドラゴンロードの下位互換の魔物を生み出せる〈幽鬼竜王の招魂指環〉は、普通ならば魅力的なアイテムなのだろう。

 だが、俺にはユニークスキル【冥府と死魂の巨神(ヘル)】の内包スキル【死徒創生(ナグルファル)】がある。

 このスキルを使えば下位互換どころかレイスデッド・ドラゴンロード自体も生み出すことが可能だ。

 一日に定められた使用回数内ならばノーコストで顕現させられる点だけは良いとは思うけど、それ以外では特筆する点はないな。



「ニズーグとネクロオルグは本当に微妙だな。遊ぶのには良いか?」


「鎧と本ですか?」


「物理攻撃を通過させる【幽体化】能力を持つ鎧と、死霊術の行使を補助する本だ。俺達には必要無いアイテムだな」


「その指環はどのような能力があるのでしょうか?」


「コレか? これは……」



 アーティファクトの指環の説明をヒュスミネにしてやろうと思ったら、ボス部屋の入り口に突然気配が生じたのに気付いた。

 ヒュスミネも同じタイミングで気付いており、ボス部屋の外へと鋭い視線を向けている。



「こちらから手を出すなよ」


「かしこまりました」



 戦利品をどうするか考えていると、謎の気配の主は一切臆することなくボス部屋へと入ってきた。

 謎の侵入者の見た目は人族の青年だった。

 グランアス真帝国では珍しくない金髪に、燃えるような色合いの赤目をした青年で、左目の下に刻まれた龍か蛇を模った刺青(タトゥー)が印象的だ。

 身に付けている装備品のいずれも高位の魔導具で、装備だけみても青年の社会的地位が窺える。



[発動条件が満たされました]

[ユニークスキル【神魔権蒐星操典(レメゲトン)】の固有特性(ユニークアビリティ)〈魔権蒐集〉が発動します]

[対象の魔権を転写(コピー)します]

[ユニークスキル【再生と聖炎の統魔権(フェネクス)】を獲得しました]

[対象の魔権はユニークスキル【神魔権蒐星操典】の【魔権顕現之書(ゲーティア)】へと保管されます]



 なんとなく見たことがあると思えば、どうやら魔権系ユニークスキルの持ち主だったらしい。

 そういえば眷属ゴーレム(ラタトスク)の視界越しに一度だけ姿を見た気がする。

 まさかこんなところで遭遇するとは思わなかったが、余計な手間が省けたと考えれば悪くない展開だ。

 そんな魔権系ユニークスキル所持者の青年は、室内にいる俺達を見て驚きの表情を浮かべると、俺の時よりも数秒ほど長くヒュスミネの方を見つめた後に口を開いてきた。



「……霊魂石を回収しに来てみれば、何故白銀(シルバー)級の冒険者がこんなところにいるのだ?」


「別に構わないでしょう。何か問題がありますか?」


「大アリだ。このダンジョンの深層部は帝室に認められた者しか入ることは許されていない。帝室の許可を得たシルバー級の話は聞いた覚えがない。つまり、貴様達は不法侵入者というわけだ」



 このダンジョンが霊魂石の産出地ならば、質の良い霊魂石が獲得できる領域を真帝国が管理していたとしてもおかしくはない。

 まぁ、理解はできたとしても、それに従い大人しく罰せられるかは別の問題なのだが。



「そうですか。そのような説明は協会で聞いていないのですが、本当のことなのでしょうか?」


「俺の言葉を疑うか?」


「そもそもアナタが誰なのか知らないので話の真偽を疑うのは当然だと思いますが?」


「フン。なるほど。無知な田舎者だったか。まさかグランアス真帝国が誇る〈十大帝剣〉の顔を知らない奴がいるとはな」



 十大帝剣とはグランアス真帝国に属する十名の実力者のことだ。

 冒険者もいれば軍人や貴族などもおり、その全員がグランアス真帝国の皇帝に忠誠を誓っているらしい。

 グランアス真帝国による大陸制覇を支える柱であり、対魔物だけでなく他国との戦争においても大いに活躍しているそうだ。



「ああ、十大帝剣でしたか。確か、最低でも紅金(オリハルコン)級の実力者を持つとか」


「田舎者でもそのぐらいは知っていたか。十大帝剣が一人〈不死鳥〉のアグニル・フレム・ライファールが命じる。ここのボスを倒して得た全ての戦利品を此方に差し出せ。そして、俺と共に帝都に来い。そうすれば国法に違反した貴様達を罰することはない」


「帝都に……帝剣へのスカウトですか?」


「その通りだ。このダンジョンのボスを倒せるだけの実力はあるんだろう? その実力がどれほどのモノかを確かめた後に、実際に帝剣にスカウトするかどうかを判断される。さぁ、どうする?」



 此方に判断を委ねる形だが、その態度からも断られるとは微塵も思ってないのは明らかだ。



「『時界断空隔壁(タイム・ウォール)』。これで答えの代わりになりましたか?」



 ボス部屋と外部の行き来を物理的にも空間的にも遮断する魔法結界を張り、アグニルへの返答とする。

 その意味を理解したアグニルの表情が変わるのを見据えつつ、隣で戦闘態勢を取るヒュスミネへと声を掛ける。



「五分だけなら戦っていいぞ。それまでに倒せなかったら俺が倒す」


「かしこまりました! お任せください!」



 俺からの許可を得たヒュスミネが意気揚々と前に出るのを見送ると、すぐ近くに転がっている竜の骨を椅子代わりにして座る。

 【無限宝庫】から商会で開発中のカップ麺を取り出してお湯を注ぐ。

 待ち時間と食べる時間を合わせれば大体五分ぐらいになるだろう。

 では、高みの見物をさせてもらうとしようか。




 

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