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第367話 聖気と悪魔



 ◆◇◆◇◆◇



 悪魔宿主(デモゴルゴン)と化したSランク冒険者である〈言壊剣鬼〉ジェザール・バルバミア。

 そして、ジェザール同様にデモゴルゴン化しているクロメネア王アゴル・ト・クロメネア。

 この二体のデモゴルゴンが操る力は全く異なる。

 ジェザールは〈強欲〉の罪源を持つ真秘悪魔を、クロメネア王は〈傲慢〉の罪源を持つ真秘悪魔をそれぞれ宿しており、それらの力を行使することができるらしい。

 集めた情報からもハッキリとした分類は出来ていないが、真秘悪魔、または受肉した真秘悪魔である人魔(デモノイド)達の力は、八属性の罪源に分けられるそうだ。

 現時点で判明している各種罪源の力は以下の通り。

 〈傲慢〉の罪源は支配系能力。

 〈強欲〉の罪源は強奪系能力。

 〈暴食〉の罪源は吸収系能力。

 〈怠惰〉の罪源は弱化系能力。

 〈色欲〉の罪源は精神系能力。

 〈憤怒〉の罪源は強化系能力。

 〈嫉妬〉の罪源は呪縛系能力。

 〈番外〉の罪源は他七つの中から数種の力の複合系。


 一見すると〈番外〉の罪源の悪魔が一番強そうだが、一概にそうとは言えないらしい。

 現状では詳しいことは判明していないので、あくまでも()()()でしかないが。

 まぁ、目の前にいるのは〈強欲〉と〈傲慢〉のみなので他は気にする必要はないだろう。



「ハァッ!!」



 クロメネア王が悪魔の力で顕現させた能力製悪魔。

 その群れが俺へと殺到するのを隠れ蓑にして、ジェザールが短距離転移にて空間を飛び越えて斬り掛かってきた。

 振り下された短剣も一瞬で大剣へと変化しており、これらは彼のユニークスキル【混沌なる破戒竜(ジャバウォック)】の内包スキル【現亂(げんろん)統成】による現象だ。

 かなり限定的な現実改変能力らしく、直接相手をどうこうできる力はないと聞いている。

 だが、現在進行形で何らかの力が俺に干渉してきている。

 ユニークスキルの力ではないならば、おそらくコレがジェザールの悪魔の力なのだろう。


 〈強欲〉の罪源の悪魔ならば強奪系能力になるはずだから、俺へ行われている干渉もその類いの能力だと思われる。

 真秘悪魔の罪源の〈強欲〉と、それによる強奪系能力。

 幽世という別世界に存在する真秘悪魔の〈強欲〉の力が、ユニークスキル【強欲神皇(マモン)】や冠位称号〈強欲の勇者〉を持つ俺にどこまで干渉できるか気になっていたが、どうやら杞憂だったみたいだ。



「何ッ!?」


「膂力は中々。悪魔を宿した影響かな?」



 振り下ろされた大剣が俺の肩を叩いた際の衝撃から今のジェザールの膂力がどれほどかを推し量る。

 ジェザールの元短剣の大剣の等級は叙事(エピック)級。

 ユニークスキルの力で変化したのは形状だけでなく、その力自体も強化されている。

 一つ上の伝説(レジェンド)級ぐらいなら傷付けられそうだが、俺が纏っている上着のサーコートは神器たる神域(ディヴァイン)級の〈星坐す虚空の神衣(ステラトゥス)〉だ。

 その下の上衣は伝説級最上位〈人理栄光の精霊王衣(グローヴェラン)〉、その更に下に着込んでいるインナーシャツの〈妬み望む魔竜の王鎧(レヴィアーダ)〉もまた伝説級最上位になる。

 共に〈魔王〉由来の防具であり、〈人理栄光の精霊王衣〉に関しては称号〈精霊王〉持ちが使った場合に限り一時的に神域級へとランクアップする性質がある。

 よって、今代の〈精霊王〉である俺が使っているため、今は不壊特性を持つ神器と化している。


 〈妬み望む魔竜の王鎧〉もその有する能力で神器に匹敵する耐久性を獲得できるが、今はその能力を使っていないため伝説級最上位のままだ。

 これら格上の防具を複数個装着しているのもあって、本来のジェザールの力では衝撃すらも伝わらなかっただろう。

 そういう意味で、衝撃が伝わるだけ中々の膂力、というわけだな。



「うおぉ!!」



 ジェザールが大剣の刃を縦向きから横へと強引に変えて、俺の首を刎ねようとしてきた。

 器用だなと思いつつ、防具越しに受けたよりも多少強い衝撃を首筋に感じる。

 接触している肌越しに【強欲神皇】の【強奪権限(グリーディア)】を発動させ、ジェザールが振るっていた大剣を強奪する。

 一瞬で俺の手元に召喚されたジェザールの大剣を横薙ぎに振るう。

 目の前の空中で呆けているジェザールと共に、目と鼻の先まで迫っていた雑魚悪魔達を薙ぎ払った。



「グハッ!?」


「ふむ。デモゴルゴンとなったSランク冒険者が相手には、この程度の武器では効きが悪いな……」



 ジェザールの手から離れたことで形状変化効果が切れて、大剣が元の短剣へと戻った。

 クロメネア王が生み出した雑魚悪魔を一掃するぐらいなら問題ないみたいだが、ジェザールに関しては吹き飛ばすのが精一杯だった。

 まぁ、俺の力で強化すれば真っ二つにできるだろうけど。



「強化、強化ねぇ……【豊饒権限(イシュニガラブ)】」



 ユニークスキル【深闇と豊饒の外界神(シュブニグラス)】の内包スキル【豊饒権限】の派生スキルの一つ【豊饒ノ神贄】を発動させると、短剣を持つ手が黒い触手の集合体へと変化した。

 元右手の触手に短剣を取り込ませると、片足も触手へと変えて地面に散らばる雑魚悪魔達の死体も同じ様に取り込んだ。

 数瞬後には触手は元の人間の手足へと戻り、その右手には神々しいオーラを放つ白い短剣が握られていた。

 【豊饒権限】の派生スキルの一つ【豊饒ノ神贄】は、『捧げた──捕喰した──贄に応じた贈り物を獲得する』という効果を持つ。

 ジェザールの短剣と雑魚悪魔達の死体を捧げることで、新たな短剣を贈り物として獲得したわけだ。



「【正義と審判の天罰神(アストライア)】の【天秤の星法】でも同じことはできるが、やはりこっちの方が速いし最適だな」



 【天秤の星法】は等価交換だが、【豊饒ノ神贄】は〈豊饒〉とあるように元の値よりも増幅される。

 だから何か形あるモノを生み出す場合は【豊饒ノ神贄】の方が利点は大きい。

 逆に形無きモノなどの場合は【天秤の星法】の方を使うのが良いだろう。

 まぁ、このあたりは時と場合によりけり(ケースバイケース)だな。


 叙事級から伝説級となって新生した短剣をジェザールに向けて投擲する。

 短剣は空中で分裂すると、無数の光の刃となってジェザールに降り注いだ。

 迫る光の刃にジェザールが手を向けた途端、真っ直ぐ飛来していた光の刃の軌道が横に逸れ、一刃たりとも彼に直撃することがなかった。



「伝説級の武器には悪魔の力が通じるか」



 〈魔王〉との〈星戦〉報酬である伝説級アイテムにも通じるか気になるが、そこまで検証するのは正直面倒だな。

 光の粒子が集まり、手元に再形成された短剣を弄びつつ、仮想視界だけでなく肉眼による視界もエリンの方へと向ける。


 高速で動き回るエリンを仕留めるべく攻撃魔法が次々と放たれているが、エリンはそれらの全てを回避、または斬り裂いていた。

 〈無銘の聖剣〉が放つ聖気の力はデモゴルゴンにも有用で、聖なる刃は宿主となっている人間を斬り裂くだけで体内の真秘悪魔を滅している。

 デモゴルゴン内にいる真秘悪魔は休眠状態に近く、本来の耐久力と比較すると非常に脆弱化しており、宿主の人間越しに喰らう聖気でも致命的となっていた。

 休眠状態中は聖気に対して非常に弱くなるのもまた、デモゴルゴンという存在が抱える大きな欠点の一つだ。

 とはいえ、帝聖勇騎士が使う〈聖金霊装核(キトリニタス)〉の聖気レベルで消滅するほど弱くなるわけではないのだが。


 〈勇者〉として覚醒前のエリンの聖気でも通じるかは不安だったが、あの様子だと無用な心配だったらしい。

 ジェザールが使っているような直接相手の心身に干渉する類いの悪魔の力に関しても、エリンは抵抗(レジスト)できているようだ。

 手足の防具として貸した〈賢爛たる星の虹剣(アルカティム)〉のおかげもあるんだろうが……戦闘開始前よりも生成される聖気の質が上がっているな。



「……休眠状態の真秘悪魔を倒しているからか?」



 〈憤怒〉の悪魔の力で身体強化した戦士によってエリンが攻撃を受ける。

 戦士が振り下ろした大斧を〈無銘の聖剣〉で受け止めたエリンの足元が大きく陥没した。

 歯を食い縛って耐えるエリンの真横から槍使いの一撃が迫る。

 槍の穂先に宿るのは〈怠惰〉の悪魔の弱化能力。

 エリンは全身に聖気を纏っているが、あの弱化能力ならば今のエリンの聖気ぐらいなら貫通できそうだな。

 手を出しそうになるのを堪える代わりに、再び攻撃を仕掛けようとしているジェザール達が邪魔だったので、ユニークスキル【荒野と栄華の堕天神(アザゼル)】の【暴嵐ノ神戯(テュポーン)】を行使し、発生させた暴風でジェザール達を結界の端まで吹き飛ばす。

 ジェザール達が結界に激しくぶつかるのには目もくれずエリン側の戦闘の様子を注視する。



「……」



 エリンの身体に槍が深々と突き刺さる。

 流石に無理だったか……?

 致命傷を負ったエリンから力が抜けていき、〈無銘の聖剣〉が大斧に押されていく。

 押し込まれた大斧の刃がエリンの頭部に迫る。

 これ以上は無理だと判断して手に持つ短剣を放つことにした。



「ッ! これは……」



 デモゴルゴン化した戦士の心臓部に短剣を送り込む瞬間、時が止まったような感覚に陥った。

 実際に時は止まっていないが、そう錯覚してしまうほどに世界が一変した。

 生命の危機に瀕してエリンの身から解放される重厚感のある魔力。

 その放たれた魔力の全てが聖気へと変換され、周囲を圧倒する。

 超至近距離で解放された濃厚な聖気を浴び、大斧戦士と槍使いのデモゴルゴンに宿っていた真秘悪魔が消滅した。

 解放された聖気は次第に落ち着いていったため、聖気の発生源であるエリンの状態を確認する。

 〈勇者〉への覚醒による影響か、槍撃で負った致命傷含めて今回の戦闘で負った全ての怪我が治っていた。


 ふむ……あの濃密な聖気は俺のような【大勇者(アーク・ブレイヴァー)】が生成できる〈純聖気〉に匹敵する。

 エリンのステータスに追加されたのは【勇者(ブレイヴァー)】と称号〈勇者〉だから、あの聖気は覚醒した時のみの限定的なものなのだろう。

 エリンの身体のレベルならば、あれぐらいの聖気があれば完治されるまで自己治癒力が活性化されるのはあり得るな。

 これまでに集めた他の〈勇者〉の覚醒時の情報と合わせて考えると、先ほどの聖気は死に瀕することによる覚醒時のみの限定の現象とみて間違いないようだ。

 

 

「これが自らの〈勇者〉を見つけた時の〈聖者〉の感覚か……ん?」



 エリンが〈聖者〉としての俺の〈勇者〉だった確信が得られたタイミングで、吹き飛ばしたジェザールの方で魔力に変化が起きた。

 真秘悪魔が解放された感じではないからユニークスキルによる変化だろう。

 向こうにはまだデモゴルゴン化したAランク冒険者達が残っているが、〈勇者〉として覚醒したエリンの敵ではない。

 あとは消化試合だろうから、そろそろ俺もこちらの戦いに集中するとしよう。




 

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