表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
378/413

第364話 真秘悪魔



 ◆◇◆◇◆◇



 権能【強欲神域】によって異界に構築された固有領域〈強欲の神座〉。

 その領域内にある秘密研究所〈偉大なる秘法(アルスマグナ)〉の一画にて、アークディア帝国とクロメネア王国の戦を観戦していた。

 戦場視察を行なっている皇帝ヴィルヘルムの傍にいる分身体の方でも観戦しているが、本体である此方の方の目的はただの観戦ではない。



「見たまえ、悪魔Dよ。君の同族達が戦場で人間達に敗れようとしている様を。これを観てどう思う?」


「……」



 空間に空いた穴から伸びる漆黒の鎖(タルタロス)に吊るされるようにして一体の〈真秘悪魔〉が拘束されている。

 〈真秘悪魔〉とは所謂本物の悪魔と言われている存在の正式な名称だ。

 この名称については、先日捕らえた五体の真秘悪魔達を尋問したことで得られた情報の一つになる。

 現世とは異なる真秘悪魔のように元が精神体である存在が住む世界に正式な名称はないが、俺達人間がいる世界と区別するために〈幽世〉と呼んでいることなど、様々なことを教えてもらった。

 今やっているのもそんな尋問の一環だ。



「グッ」


「無視するのはいただけないな。俺はキミとオハナシがしたいんだ。今後のことを考えると何かしら話した方が良いと思うぞ。あ、ちゃんと人語で話せよ」



 捕まえた五体の真秘悪魔達は識別しやすくするためにアルファベット順に仮の名前を付けてある。

 そんな悪魔Dの身体を〈無垢なる命喰の霊剣(アルヴドラ)〉の剣尖で小突き、反応を促す。

 アルヴドラは成長する魔剣ではあるが、ここ数年ほど使う機会が殆どなく、等級も伝説(レジェンド)級中位のままであるため、真秘悪魔達の尋問に使用している。

 倒した対象、または剣身より吸収した血と魔力を糧に新たな能力を発現するという基本能力【吸極進化】や、元は悪魔種への特効を持つ【悪魔吸喰(デモンズ・イーター)】であり、今は重厚な鎧や頑強な肉体に対する特効効果へと変化している【鎧終一喰】の能力があるアルヴドラは、真秘悪魔達の尋問には最適な武器だと言えるだろう。

 軽く突き刺したまま、白色の剣尖が悪魔Dの魔力を吸収させていると、黙りだった悪魔Dが漸く口を開いた。



「……〈勇者〉トハ思エヌ鬼畜ノ所業ダナ」


「えっ? 〈勇者〉の証明が欲しいだって? 仕方ないな」



 アルヴドラを持つのとは逆の手に〈聖剣〉の上位版である〈星剣〉の〈賢爛たる星の虹剣(アルカティム)〉を出現させる。

 アルヴドラよりも等級が高く、神器に限りなく近い等級である伝説級最上位の星剣を手に取ると、基本能力の【賢星聖刃】を発動させて剣身から聖気の刃を顕現させた。



「どうだ? ちゃんと〈勇者〉の力が使えるだろ?」


「ワ、分カッタ! 分カッタカラ近付ケルノヲ止メロォ!?」


「ん? もしかして、今俺に命令したか?」


「シ、シテマセン。止メテクダサイ、オ願イシマス」


「仕方ないな」



 聖剣、または星剣は、〈勇者〉が使うことによって聖気の質と量が高められる性質がある。

 そのため、星剣アルカティムが放つ聖気の純度は非常に高く、魔性の存在である悪魔Dにとっては猛毒に等しい。

 アルカティムを近付けたら生意気な口をきいてきたため、解き放つ聖気の量を増やしたら利口になってくれた。

 悪魔Dの懇願を受け入れてアルカティムを離してやると、悪魔Dの異形の顔に安堵の表情が浮かんだ。


 聖気を放つアルカティムを近付けただけで悪魔Dの全身は少なくないダメージを受けている。

 これは神聖な力に属する聖気が真秘悪魔に対して特効を持つというのが理由ではあるが、一番の理由は目の前にいる真秘悪魔の身体が魔力によって作られた物だからだ。

 聖気には悪魔や魔物といった魔性の存在に対する特効以外にも、魔力そのものを破却する効果がある。

 いや、魔力を害する力があるからこそ、魔力に依存した存在である魔性には効果抜群になっているのだというべきか。

 そういった特性を持つが故に、現世に生まれた人間や魔物とは違い、生来の物質的な肉体を持たず、自らの魔力を用いて肉体を作った真秘悪魔には特によく効いていた。

 イメージ的には身体の内外の隅々まで高温で焼かれるようなモノだろうか。

 例えるのが難しいが、悪魔Dが素直になるだけの理由はちゃんとあるわけだ。



「サ、流石ハ勇者様! ソノ聖ナル光ノ前デハ、如何ナル同胞デアッテモ抗エルコトナク滅ビテシマウコトデショウ」



 全身を拘束していなかったら揉み手をしそうな勢いで此方を煽てる悪魔Dに微笑み返すと、聖気を発するのを止めたアルカティムを【七星変化】で長剣形態から手甲足甲形態へと変化させてから装着した。

 聖なる手甲に覆われた手を開いて見せると、人差し指の指先に圧縮させた高純度の聖気を宿らせる。

 先ほど剣身から発した聖気を上回る神聖な波動を受けて、真秘悪魔である悪魔Dが震えていた。

 そんな悪魔Dに見せつけるようにして、隣の中指の先に〈魔気〉を顕現させた。


 魔気とは、聖なる存在や命あるモノを害する力であり、簡単に一言で説明するならば聖気の逆バージョンになる。

 この魔気は神域権能(ディヴァイン)級のユニークスキル【深闇と豊饒の外界神(シュブニグラス)】の内包スキル【深淵ノ神戯(ノーデンス)】の力によって生み出したモノだ。

 実体がないのに強烈な存在感を放つ魔気を隣の聖気に接触させると、聖気は抗うこともできずに黒く侵されていき、やがて人差し指の先にも黒い魔気が宿っていた。

 その魔気の宿った二つの指先で、驚愕の表情を浮かべている悪魔Dの身体に触れると、聖気の波動によってダメージを受けていた悪魔の全身が瞬く間に癒えていった。



「……人魔(デモノイド)、ナノカ?」


「いいや、人間だとも。ただ色々な力を持っているだけの〈勇者〉だよ、俺は」


「……ソノヨウダナ」



 異形の顔であっても困惑していることが簡単に読み取れる悪魔Dの姿から目を離し、室内の空中に展開されている窓のような枠組みの板(ウィンドウ)へと目を向ける。

 そこには現在の戦場の様子が映し出されており、全身縞模様の雷悪魔が四つの巨腕の全てに宿した雷を一点に集中させていた。

 一腕だけでも数百人の兵を焼き殺せるほどの力が宿っており、それを四つも収束させてから放つともなれば、その威力は凄まじいものとなることだろう。



「あの悪魔について知ってるか?」


「……アイツハ幽世ノ中デモ有力ナ権能ヲ有スル七十七体ノ悪魔ノ一体ダ」


「名前は?」


「名前ハ知ラヌ。ソモソモ、我ラガ他者ニ自ラノ真名ヲ明カスコトハナイ。人間トハ異ナリ、物質的ナ肉体ヲ持タヌ我ラ悪魔ノ魂ヲ守ル防壁ハ、精神体シカナイノダ。真名ナド教エテシマエバ、同格以上ハ勿論、格下デアッテモ技量次第デハ従属サセラレテシマウ可能性ガアルノダヨ」


「ふぅん。やはり同じ悪魔にも名前は明かさないか」



 他の真秘悪魔を尋問した際に得たのと同じ情報であることから、他の真秘悪魔の真名を知る悪魔はいないとみて間違いないだろう。

 真名さえしれば支配しやすくなるから楽して知りたかったのだが、そう上手い話はないか。

 なお、真秘悪魔が現世とは異なる幽世の存在だからか、【情報賢能(ミーミル)】の力を以てしても真名までは明らかに出来なかった。

 それ以外の情報なら大体分かるのだが、ままならないモノだな。


 ウィンドウに映る雷悪魔が収束させた雷光を解き放つ。

 その矛先は上空にいる皇帝御座艦フリングホルニであり、目的はアークディア帝国の皇帝であるヴィルヘルムの抹殺だろう。

 ヴィルヘルムが真秘悪魔の強大な力が向く先を誘導する囮役を担う意味はちゃんとあったみたいだな。

 数千人規模の被害を齎す雷撃がフリングホルニへと直撃する瞬間、その手前で雷撃が弾け飛んだ。

 


「奴ノ雷撃ガ防ガレタダト?」



 この結果に悪魔Dが驚愕しているように、雷撃を放った雷悪魔も同じ表情を浮かべていた。

 雷撃が防がれたことにより生じた白煙が晴れると、そこには中央に金色の宝珠が嵌め込まれた大盾を構えたカイゼル髭が印象的な壮年の男性騎士がいた。

 彼は、俺とヴィルヘルムを除けば三人しかいない〈聖金霊装核(キトリニタス)〉の使用者たる〈聖金霊装騎士〉の一人であり、名前はミヒャエル・イジス・バンダーという。

 彼の肩書きは〈帝聖勇騎士第一席〉で、帝聖勇騎士の纏め役である。

 キトリニタスの担い手を決める最初のテストの際に、アークディア帝国の上層部が候補者として集めた者達の一人で、その中で唯一俺がキトリニタスの担い手にと認めた人物だ。


 空中に立つミヒャエルが手を上に翳すと、その手に一振りの槍が具現化する。

 槍からは強烈な雷が迸っており、その雷は雷悪魔が放った雷撃と酷似していた。

 ミヒャエルのキトリニタスに構築された能力によって、受け止めた雷は吸収された後に聖なる武具たるキトリニタスの聖気が自動的に追加されている。

 そのため、あの雷槍は真秘悪魔に対して強力な効果を発揮する。

 ミヒャエルが雷悪魔に向かって雷槍を投擲すると、雷槍は意思を持つように地上へと飛翔し、雷悪魔が回避するよりも速くその巨体を貫いて見せた。


 聖気が追加された強大な雷槍の一撃によって雷悪魔が倒れ伏し、トドメを刺すべく地上の帝国軍の攻撃が殺到する。

 そんな地上の様子を見て一度頷くと、ミヒャエルは自らの背後に複数の雷槍を具現化させた。

 大盾型のキトリニタスにて吸収した雷撃はまだまだ大量に残っているのと、真秘悪魔への有効性を確認したことから一気に殲滅するつもりのようだ。

 その予想を証明するようにミヒャエルの意思に従って、雷槍が地上に顕現している真秘悪魔達へと降り注いでいっていた。



「彼が纏っているあの装備は俺が作ったんだ。真秘悪魔に対しても有効なようで何よりだよ」


「……ソノヨウダナ」


「見ての通り、地上に顕現した真秘悪魔はじきに片付くだろう。真秘悪魔について知りたいことが色々あるから情報源は幾らあってもいい。だから、あの悪魔達からも話を聞かせてもらいたいんだが、わざわざ戦場から連れ去るのは困難だ。つまり、今のキミ達は貴重な情報源というわけだな」


「何故ソレヲ明カス?」



 俺の言葉を聞いた悪魔Dが警戒心を強める。

 察しのいい悪魔Dを安心させるために、【無限宝庫】から一振りの剣を取り出した。

 その剣を一目見た瞬間、悪魔Dの顔が強張ったのが分かった。



「貴重な情報源ではあるが、キミ達にもどうしても明かせないこともあるだろう。その時はこうして別のカタチで協力してもらうことにするよ。だから、好きな方を選んでくれたまえ。無理強いはしない。キミの選択を尊重しようじゃないか」



 そう告げると、悪魔Dと共に捕らえた五体の真秘悪魔の一体である悪魔Aを素材にして製作した〈悪魔剣〉から強大な魔気を発した。

 我ながら酷薄だと思う笑みを浮かべて見せると、悪魔Dに選択を迫るのだった。


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ