表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
367/414

第353話 侵星の魔王



 中央大陸には代表的な大森林が四つ存在する。

 一つ目は、アークディア帝国の北方に広がる〈リュベータ大森林〉。

 二つ目は、ユグドラシア王国──正式名称を〈古森樹霊王国ユグドラシア〉という中央大陸最古の王国の本土が内部に存在する〈星界樹の森〉。

 三つ目は、ロンダルヴィア帝国の南方に広がる名も無き熱帯雨林を侵蝕するカタチで存在する、〈太母の魔王〉の支配領域である固有侵蝕領域〈魔王迷宮:魔蟲蠱界寄生命宮〉。

 そして最後の四つ目が、アークディア帝国から見て北東の方角に存在し、〈侵星の魔王〉の支配領域である固有侵蝕領域〈魔王迷宮:堕森繁茂天界〉に殆ど呑み込まれている〈クリファー大森林〉。


 このクリファー大森林にある無数の木々の中でも一際高く聳え立っている超巨大な樹木の正体は魔物であり、この大森林の支配者である〈侵星の魔王〉だ。

 そんな〈侵星の魔王〉の太い幹が半ば近くまで深く斬り裂かれているだけでなく、全身が紅く燃えていた。



「KHyAーーッ!」


「奇っ怪な鳴き声だことで。相変わらず魔樹系魔物は何処から声を発してるか分からんな」



 眼下で悶え苦しむ〈侵星の魔王〉を見下ろしつつ、顕現させていた【黄昏ノ焱神剣(レーヴァテイン)】を解除する。

 【黄昏ノ焱神剣】を発動するために大剣形態にしていた〈黄金星天の英勇神器(マルドゥーク)〉を元の矛形態へと戻して肩に担ぐ。



「ありきたりではあるが、やっぱり火が弱点だったか。有用性は証明されたし、やっぱりトドメは炎でいこうか」



 神矛マルドゥークに莫大な量の魔力を注いでいく。

 燃え盛る〈侵星の魔王〉の枝から果実が()るように大量の天使種の魔物が生成される。

 〈星戦〉を開始してから何度も生み出してきているが、炎上している最中でも変わらず生成することができるらしい。



「まぁ、無駄なんだが」



 充分な量の魔力が注ぎ込まれたことによって黄金色の光を発するマルドゥークを天に掲げて発動するのは、この神器最大の能力だ。



「炎天開闢── 【星天に坐す魔神の秘戯(エヌマ・エリシュ)】」



 『凡ゆる属性の神の御業を創造し行使できる』能力によって、天を裂きながら超巨大な炎の槍が顕現する。

 上空に広がる雲だけでなく、天地を満たす大気すらも焼滅させながら炎の巨槍が落下していく。

 落ちてくる炎の巨槍に対して、生成された大量の天使系魔物が様々な攻撃を放ち続ける。

 魔樹系魔物である〈侵星の魔王〉の全身に巨大な魔花が咲き誇り、その魔花の中央から膨大な量の魔力を圧縮した魔力光線が次々と放たれていく。

 無数の対空攻撃を受けて炎の巨槍の勢いが徐々に弱まってきたが、今の熱量ならまだまだ許容範囲内だ。

 だが、このまま座視したままでいる理由もないので、ユニークスキル【世界と精霊の星主(オーヴェロン)】の内包スキル【支配ノ黄金(ラインゴルト)】を発動させた。

 黄金色に染まった双眸を天使達へと向けると、対空攻撃をしていた天使達の動きがピタリと止まり、その矛先を創造主であるはずの魔王へと向け直してから攻撃を再開した。

 支配した天使達に魔王の身体に生えた魔花を攻撃させれば一石二鳥だ。



「三、二、一、着弾」



 天から落ちた炎の巨槍が魔王に着弾し、解放された大炎が魔王と天使達、そして周囲の木々を瞬時に呑み込んでいった。

 上空にいる俺も炎に呑まれたが、【炎熱吸収】のスキルに加えて全身に装備している各種神器による耐性、そして能力の源である神矛マルドゥークが帰属している所有者であるため、これしきの余波ではダメージを負うことはない。



[スキル【宿理木ノ幻種(ミスティルテイン)】を獲得しました]

[スキル【生命解放】を獲得しました]

[スキル【星を喰らう者】を獲得しました]

[スキル【星を満たす者】を獲得しました]

[スキル【侵星の欠片】を獲得しました]

[ユニークスキル【堕落と繁栄の堕天王(グリゴリ)】を獲得しました]



 使って来なかったから予想はできたが、やはり〈権能〉は持っていないか。

 まぁ、現状でも持て余しているから別に構わない……いや、本音を言えばちょっとだけ残念だな。



[一定条件が達成されました]

[ユニークスキル【強欲神皇(マモン)】の【拝金蒐戯(マモニズム)】が発動します]

[対価を支払うことで新たなスキルを獲得可能です]

[【砂柩と嵐禍の戦王(セト)】【堕落と繁栄の堕天王】【砂漠葬送】【枯渇征手】【砂侵風化】【嵐星覇槍(テンペスト)】【風塵属性強化】【力の渇望】【古代王の叡智】【砂漠同化】【暴風神魔(ルドラ)】【九死に一生】【建国侵繁】【砂海の王】【星を喰らう者】【星を満たす者】と大量の魔力を対価として支払い、ユニークスキル【荒野と栄華の堕天神(アザゼル)】を得ることができます]

[新たなスキルを獲得しますか?]


[同意が確認されました]

[対価を支払い新たなスキルを獲得します]

[ユニークスキル【荒野と栄華の堕天神】を獲得しました]



 神域権能(ディヴァイン)級ユニークスキルの取得は約二年ぶりだ。

 【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】によるスキル獲得の通知も含めて、最早魔王クラスの敵を倒さない限りは見ることのない情報通知(アナウンス)だな。



[〈強欲/創造の勇者〉と〈侵星の魔王〉による〈星戦〉が終了しました]

[勝者は〈強欲/創造の勇者〉です]

[勝利した〈強欲/創造の勇者〉には〈星域干渉権限〉が与えられます]

[勝利した〈強欲/創造の勇者〉には追加でアイテム〈魔王の宝鍵(ほうけん):侵星〉が与えられます]

[アイテム〈魔王の宝鍵:侵星〉を使って勝利報酬を選択してください]

[アイテム〈魔王の宝鍵:侵星〉は〈強欲/創造の勇者〉に帰属します]

[アイテム〈魔王の宝鍵:侵星〉は指定回数の勝利報酬を選択後に消滅します]



 木の根が天体に絡み付いているかのような意匠の宝鍵を【無限宝庫】に収納すると、焦土と化したクリファー大森林にマルドゥークを翳して【黄金神陽】を使用する。

 『世界に在る物を滅ぼし、滅びた物を復活させる神秘的な太陽の光を顕現する』能力を使ってほぼ滅んでいる大森林を復元しようと試みるが、同じ神器に属する能力だからか出力が足らないようだ。



「〈豊饒たれ〉」



 ユニークスキル【深闇と豊饒の外界神(シュブニグラス)】の内包スキル【豊饒権限(イシュニガラブ)】の派生スキル【豊饒活星】も重複発動させると、漸く大森林に〈生命〉が戻っていき、見る見る間に新たな木々が生い茂っていった。

 神域(ディヴァイン)級上位の神器最大の能力によって滅んだだけあって、復元させるのも簡単ではない。

 もし【豊饒権限】でも力が足りなければ、手に入れたばかりの【荒野と栄華の堕天神】の【繁栄権限(グリゴリ)】を試すつもりだったんだがな。

 まぁ、そっちは別の機会に試すとしよう。



「それにしても、アザゼルの名が被ったな……」



 数年前にお遊びで作った人型魔導兵器である特種飛翔型機甲錬騎〈Azazel〉のことなのだが、製作物の名付けは大体適当に付けているので、こういうことも起こり得るだろう。

 思い出したついでに久しぶりにAzazelの改良でもしてみようかな?

 そんなことを考えながら地上に降り立つと、木炭と化している〈侵星の魔王〉の死体に触れ、ユニークスキル【造物主(デミウルゴス)】の【復元自在】を行使する。

 生き返ったりはしないが、瞬く間に元の生命力溢れる木材へと復元された。

 こういうアイテム単位での復活ならば【復元自在】の出番だ。


 これで〈侵星の魔王〉の素材を使用することができる。

 サイズがサイズなので使える木材の量は多く、使い切るにはかなりの時間と労力が必要になるだろう。



「何に使うか。家に使うのも微妙だし、新たな船でも建造すべきか……」



 暫く死蔵することになりそうだと考えながら【無限宝庫】に収納したタイミングで、懐に入れていた試作型携帯用通信端末〈グリンカムビ〉が振動し出した。

 画面を見て相手が誰かを確認してから応答ボタンを押す。



「はーい、こちらリオン」


『もしもし、レティーツィアだけど。今、大丈夫?』


「問題ないぞ。何かあったか?」


『実は、ミーナがリオンに会いたいって騒いでるのよ』


「……一昨日も行ったんだがな。テオドール殿下は?」


『テオは以前リオンがプレゼントしたパズルで大人しく遊んでるわ。騒いでるのはミーナだけよ』



 随分と前から分かっていたことだが、双子の兄妹でもテオドール殿下とヴィルヘルミナ殿下は性別だけでなく性格まで真逆だな。



「今年で五歳になる子供だと考えれば、別にいいんじゃないか?」


『皇女として考えるとミーナの落ち着きの無さは悩ましい問題よ』


「そんなものか。まぁ、用件は分かった。今からそっちに行くよ」


『ええ、待ってるわ』



 どことなく疲れた声音のレティーツィアとの通話を切ってグリンカムビを懐に仕舞う。

 まぁ、長女であることを考えれば周りは頭を抱えるかもな。

 我ながら他人事な感想を抱きながら、アークディア帝国へ帰還するために転移を発動させるのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ