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第351話 万象滅する星災の剣



 ◆◇◆◇◆◇



 竜頭人身の眷属〈統世竜使(キングー)〉へと成ったことにより、大魔王〈創世の魔王〉の力の一端を与えられた竜神教の使徒ウルドラが様々な攻撃を行使してきた。

 その多くが現存する魔王モドキ達や〈混成神器(トゥプシマティ)〉が使う既知の能力だったが、中には未確認の能力もあったため非常に参考になった。

 未確認の能力に関する情報の収集は難しいため、それだけでもウルドラと戦う価値はあったと言えるだろう。



「ハァ、ハァ、ハァ……」


「もう終わりか?」



 光剣を軽く振るいながら眼前のウルドラへと問い掛ける。

 風の能力に乗せて毒やら病やらを使ってきたりしたが、そのどれもが俺の分身体を侵すには力不足だった。

 地上にいるシーディア王国の民達に俺の力を見せ付けたり、他の混成神器と魔王モドキの能力の情報収集といった目的のために戦闘を引き延ばさなければ、とうにウルドラを討伐できていただろう。

 だが、これ以上ウルドラに引き出しはないみたいだから、そろそろ終わらせるかな。



「……まだだ。まだ終わりではないッ!!」



 ここまで大人しかった神槍アプスーから魔力が発せられると、周囲一帯の空間に何らかの干渉が為された。

 空間干渉の正体について分析していると、空間を越えてウルドラに似た竜頭人身の敵が大量に現れて攻撃を仕掛けてきた。



「ウシュムガルの力か?」



 目の前の空間を埋め尽くさんばかりに出現した敵の姿を見て、〈不動神器(ウシュムガル)〉を核とした〈怠惰の魔王(ウシュムガル)〉が生み出した竜頭の人型魔物〈竜頭人魔〉を思い出した。

 まぁ、あの能力はウシュムガルを介して大魔王が使ってきた能力だから、正確には大魔王の能力と言うべきかもしれないが。

 そんな竜頭人魔達を光剣で瞬殺して視界を確保すると、ウルドラの姿が消えていた。

 常時発動させている【強欲なる識覚領域】によってウルドラが転移に近い能力である空間移動を使ったのは分かっている。

 少なくとも【強欲なる識覚領域】の認識範囲外に移動したようだ。



「上か。ん、アレは……水か?」



 雲と同じほどの高さの上空にウルドラの姿があった。

 そのウルドラの傍には莫大な量の水が浮かんでおり、あれほどの質量の水が地上へ落ちたらシーディア王国だけでなく、南方大陸の一部が水没する可能性がある。

 あれだけの量の水がこの短い時間で用意できるとは思えない。

 俺が一度ウルドラを【嵐星覇槍(テンペスト)】で吹き飛ばした際、ウルドラは上空から奇襲を仕掛けてきていた。

 もしかすると、その時から水を蓄積していたのかもしれないな。

 ここまで一度も空間移動を使っていなかったのは、全て今この時のためなのだろう。



「あの水量は、最早ちょっとした海だな。ん、なるほど。さっきの空間干渉は転移封じか」



 この程度の転移阻害ならば強引に突破できる。

 そのため、術者であるウルドラの近くに転移して倒すのは簡単だが、あの海を排除するには上空全体がよく見える此処の方が良い。

 中々良い攻撃だが、相手が悪かったな。

 大海ごと纏めて倒させてもらおう。



神鳴(しんめい)顕現──【界滅ノ神霆(ケラウノス)】」



 世界を穿つ雷霆が空に生まれた大海を穿つ。

 神域権能(ディヴァイン)級ユニークスキルである【天空至上の雷霆神(ゼウス)】の象徴たる雷ならば、あの程度の質量の水は十分滅ぼすことができるはずだ。

 だが……。



「……なるほど。ただの水ではないか」



 放たれた神の雷霆(ケラウノス)は上空に蓄積されていた大海の殆どを蒸発させたが、数秒でその蒸発させた水が再び集まり、気体から液体となって大海を再形成させていた。

 【情報賢能(ミーミル)】の解析能力で大海の性質を確認し、一連の現象から直感したことを確信へと変える。



「〈生命〉の概念を内包した水か。ケラウノスでは少し相性が悪いみたいだな」



 基本的には、〈概念〉という根源にして上位の存在である力を宿した事象を生み出せるのは〈権能〉以外だと、一部の神器や神域に至ったユニークスキルのみだ。

 【天空至上の雷霆神】はその一部であり、ケラウノスには〈対界〉という世界に対する特効概念がある。

 そのため、世界を水没させるかの如き質量の大海へ向けて放ったのだが、上空にある大海の本質にして内包する概念が〈生命〉だったために本領を発揮できなかったみたいだ。

 あの高い再形成力も〈生命〉の概念によるモノだろう。

 生命というモノは存外しぶとい概念(イメージ)があるからな。


 地上へ向けて落下を開始した生命の、いや混命の大海を見上げながら、それを滅ぼせるこの場での最適解を取る。



「来い、エクス」



 前の異世界からの付き合いである〈星統べる王の聖剣(エクスカリバー)〉を召喚する。

 これほどの規模の攻撃が相手だと、エクスカリバーでなければ討ち漏らす可能性がある。

 それに、どうせならあんな力を眷属に渡した大魔王にも一発喰らわせようと思った。

 本体の元から手元に引き寄せたエクスカリバーの黒き柄を握り締めると、前の異世界でも滅多に使わなかった第五能力を発動させた。



「万象悉く滅び畏れよ──【万象滅する星災の剣(モルデュール)】」



 黒と金の剣身のエクスカリバーが黒一色へと染まり、世界を昏く照らしつける。

 黒き星剣の周囲の大気が滅び、真空となった領域へと絶え間なく吹き込む風は、やがて暴風となって荒れ狂う。

 〈破壊〉の概念特化たる黒き極光を放つ星の剣は、魔法や武具、事象など凡ゆるモノを滅ぼす。

 それは〈生命〉の概念を内包する混命の大海も例外ではない。

 唯一の例外は主人にして担い手である俺だけだ。

 上空から落ちてくる混命の大海を見上げ、一息にエクスカリバーを振り上げた。

 その瞬間には上空へと到達した黒き極光は、混命の大海だけでなく、大魔王の眷属と化したウルドラの肉体を魂ごと一瞬で纏めて消滅させていた。


 〈妖星神眼〉で視ることができる別次元の世界では、眷属としての繋がりを辿って到達した〈滅び〉が〈創世の魔王〉へと甚大なダメージを与えるのが観えた。

 刹那の間に精神世界にて起きた攻撃を観測しつつ、黒き極光が混命の大海を消滅させていくのを見据える。

 生命のエントロピーを増大させる混命の水を一滴たりとも残さず消し去っていく。

 やがて、大陸の大半を水没させるほどの水量の混命の水は完全に消滅した。

 そのことを確認してから、黒きエクスカリバーを元の状態へと戻すのだった。



[スキル【生命ノ真核】を獲得しました]

[スキル【信仰の象徴】を獲得しました]

[スキル【人類侵伴】を獲得しました]

[スキル【巨人種殺し】を獲得しました]

[スキル【異教聖伐】を獲得しました]

[ユニークスキル【天命ノ書版(トゥプシマティ)】を獲得しました]



 獲得できた新規スキルはこんなものか。

 数に不満はあるが、おかげで新たな神域の力が得られそうだ。



[一定条件が達成されました]

[ユニークスキル【強欲神皇(マモン)】の【拝金蒐戯(マモニズム)】が発動します]

[対価を支払うことで新たなスキルを獲得可能です]

[【幻想無貌の虚飾王(ロキ)】【愛し欲す色堕の聖主(アスモデウス)】【地下と幽冥の暗黒(エレボス)】【天命ノ書版】【其を満たす豊穣神(ユルフ・ガイア・)の光威(スプルタ)】【影迅疾走】【怪宴触腕】【深淵魔気】【豊饒の命種】【精力絶倫(リビドー)】【生命ノ真核】【深淵なる瞑想】【液体再生成】【霊薬生成】【天浄の甘露】【魔力貯蔵】【星気宝晶】【腐命豊換】【樹界繁茂】【生体操作】【千鞭万骨】【大掘削】【魔蟲顕現】【上位魔鳥顕現】【魔植物顕現】【混命ノ水威(アプスー)】【悪意の侵言】【栽培の心得】【剪定の心得】【空気清浄】【疲労軽減】【岩土属性超強化】【暗黒属性超強化】【眷属強化】【毒入りの聖杯】【豊穣の舞い】【美魅遅老】【存在継承】【魔女の系譜】【不老長寿】【大樹の母】【外界適性】【虚構神秘】【豊穣権限】【豊穣なる祝福】【混沌の怪物】と大量の魔力を対価として支払い、ユニークスキル【深闇と豊饒の外界神(シュブニグラス)】を得ることができます]

[新たなスキルを獲得しますか?]


[同意が確認されました]

[対価を支払い新たなスキルを獲得します]

[ユニークスキル【深闇と豊饒の外界神】を獲得しました]



 ふむ。過去最多の数のスキルを対価として要求されただけあって、非常に興味深い能力があるな。

 まぁ、詳しく調べるのは後にするか。



「ん?」



 気配を感じて上を見上げると、何かが落ちてくるのが見えた。

 タイミングを合わせて手を掲げると、上空から落ちてきた神槍アプスーが手に収まった。

 先ほどの一撃の際、エクスカリバーが放った〈滅び〉の力はウルドラを経由して大魔王にまで到達したのだが、その通り道にはアプスーと大魔王間の経路も使われていた。

 そのため、〈滅び〉の力が通過した際に大魔王との繋がりも完全に破壊されており、今ここにあるのはただの──というと語弊があるが──壊れかけの大魔王産の神器だ。

 エクスカリバーの〈滅び〉の一撃を喰らっても消滅しなかったものの、廃棄寸前と言っても過言ではないほどにはボロボロになっている。

 活用方法が幾つか思い浮かぶが、どれにしようかな……。



「地上の魔物の数も随分と減ったな。あれぐらいなら一掃できる」



 残り数千体の魔物の群れを視界に収めると、【世界と精霊の星主(オーヴェロン)】の【支配ノ黄金(ラインゴルト)】を発動させた。

 黄金色に染まった双眸で地上の魔物達を睨みつけると、魔物達も俺の瞳の色と同じように瞬く間に黄金色に染まっていく。

 全身が黄金と化した魔物達は動きを止め、次の瞬間には黄金色の魔力粒子となって霧散した。

 地上を満たす黄金の魔力粒子にシーディア王国の者達が戸惑う中、光の翼を広げたままゆっくりと降下していく。



「そういえばコイツがいたな」



 途中の空間にて【神縛の檻】で拘束されている〈炎竜の魔王(ムシュフシュ)〉の姿が視界に入り、その存在を思い出すと、光の檻の中にいるムシュフシュへと手を伸ばした。



「奪い盗れーー【強奪権限(グリーディア)】」



 ムシュフシュに手で触れながら【強奪権限】の超過稼働能力オーバー・アクティベート・スキルである【強欲なる盗奪手グリードリィ・スティール】を発動させる。

 俺の手から燃え盛る竜体へと黄金色の魔力が流れ込んでいき、その核となっている〈炎竜神器(ムシュフシュ)〉を侵していく。

 大魔王産の擬似神器ではあるが、(モノ)であることには変わりない。

 神域に至った〈強欲〉の力ならば、凡ゆる財物を奪うことができる。

 同じく神域の力を持つ大魔王と繋がりのあるムシュフシュを奪える確信はなかったが、大魔王がエクスカリバーの〈滅び〉の概念によるダメージを受けている今ならば、簒奪することは可能なはずだ。



[対象を強奪します]

[対象物の帰属化の解除に成功しました]

[対象物〈炎竜神器〉の帰属化に成功しました]

[対象物〈炎竜神器〉の眷属化に成功しました]

[対象物〈炎竜神器〉が主人(リオン)の影響を受けて変質します]

[対象物〈炎竜神器〉が眷属〈黄金星竜(ムシュフシュ)〉として新生しました]



 俺の魔力に侵されたムシュフシュの身体が一度強く光を放った後にいたのは、燃え盛る炎の竜体ではなく、黄金色に輝く竜鱗が生えた美しくも強靭な物質的な肉体を持つ黄金竜だった。



「なるほどね。こうなるか。まぁ、ちょうど良いか」



 偽神には偽神を、宗教には宗教を、そして竜には竜を、っと面白い構図になったな。

 使い魔となったムシュフシュを随伴して地上への降下を再開する。

 俺達が降りてくるのに気付いた彼らが自然と跪いていくのを見下ろしながら、【帝王魅威(カリスマ)】と【帝王種の威厳】を発動させていく。

 さて、此処を拠点にして、大魔王から南方大陸を奪う(救う)としようか。



 

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