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第349話 統世竜使 中編



 〈混命神器(アプスー)〉の名を持つ神槍の水を僅かに浴びた手が動かなくなると、その体表が裂けていく。

 その裂け目には鋭い牙が生え揃っていき、指先には眼球のような器官まで生成された。

 水の飛沫を浴びた手に起きた異変は、そこから這い上っていくかのような動きで肩へ向かっていた。

 異変が起こってから十秒と経たずに肘の辺りまでが異形の生物と化した。

 おそらくは〈混命〉の名の通り、『生()を掻き()ぜる』や『別の生()の因子を()ぜる』といった力があるのだろう。


 この身体が本体よりも劣る分身体とはいえ、俺の肉体を侵すほどの力を持つとは思わなかった。

 アプスーは擬似神器である〈混成神器(トゥプシマティ)〉と似た気配だったので、同じぐらいの性能や出力を想定した。

 だが、俺の肉体の一部の支配権を奪えるほどの干渉力があるならば、それは擬似神器などではなく、本物の神器に匹敵する性能があるという認識でいいだろう。

 マトモに攻撃を浴びたらどうなるかが気になったが、気軽に好奇心を満たせるような攻撃ではないので、仕方なく対処を行うことにする。


 腕を侵蝕するアプスーの力を堰き止めるように大量の魔力を流し込む。

 侵蝕する力の動きが停滞したのが分かると、そこから更に魔力を注ぎ込んでいき、逆にアプスーの力を侵蝕するために【強奪権限(グリーディア)】の超過稼働能力オーバー・アクティベート・スキル貪欲なる解奪手グリードリィ・デモリッション】を発動させた。



「奪い解け──【強奪権限】」



 異形化していた腕が黒く染められていき、侵蝕していたアプスーの力の支配権を奪っていった。



[解奪した力が蓄積されています]

[スキル化、又はアイテム化が可能です]

[どちらかを選択しますか?]


[スキル化が選択されました]

[蓄積された力が結晶化します]

[スキル【混命ノ水威(アプスー)】を獲得しました]

[スキル【混沌の怪物】を獲得しました]



 侵蝕を受けて異形化した腕が元の形状に戻ったのを確認してから【強奪権限】の解奪状態を解除する。

 【造物主(デミウルゴス)】の【復元自在】でも元に戻せたが、俺を侵すほどの力に興味があったので同じ神域権能(ディヴァイン)級ユニークスキルでも【強欲神皇(マモン)】の方を使用した。



「確かに驚きはしたが、こんなものだろうな」


「何だとッ!?」



 俺の腕が元に戻ったことに驚いているウルドラを無視するように、その場を離れる。

 グニパヘリルの近くで戦った場合、【天空神ノ光輝(アイギス)】で守られたグニパヘリル自体は無事でも周りの地形が破壊されてしまう。

 正確には、戦闘の余波でグニパヘリルが建っている地盤が崩れる可能性があるので場所を移すことにした。



「ハハッ、竜神とかいう邪神の力も大したことがないな」


「貴様ッ!? 我らが神を愚弄するかッ!!」



 【挑発】と【悪意の侵言】の力を乗せた嘲笑に激昂したウルドラが追いかけてくる。

 転移を使うわけにはいかないため、高速で飛翔してウルドラを誘引する。

 怒れるウルドラが後方から放ってくる様々な攻撃魔法を、振り返ることなく回避していく。

 攻撃魔法に織り交ぜて神槍アプスーの水の砲撃だけでなく、ウルドラ自身や騎乗している〈炎竜の魔王(ムシュフシュ)〉の竜の息吹(ブレス)が次々と放たれてくるが当たることはない。

 【強欲なる識覚領域】で周囲の空間を認識しているため、ブレスといった一直線上の軌道に進む攻撃を躱わすのは余裕だった。



「ん? もうここまで移動していたか」



 ウルドラをグニパヘリルから引き離すべく移動していると、いつの間にか〈浮嬢水軍〉シアンの祖国である都市国家〈シーディア王国〉の近くまで来ていた。

 シアンからの支援要請に応えつつ、対価として大魔王の力を削ぐための戦略に協力してもらうために、グニパヘリルはシーディア王国の近くの丘に創造していた。

 ここまで移動するつもりはなかったが、ウルドラが騎乗しているムシュフシュの機動力と追撃の激しさから距離感を見誤っていたようだ。

 実際にはまだまだ距離はあるが、直線距離で見れば目と鼻の距離だと言えるだろう。



「……ふむ。予定とは違うが、せっかくだから今の状況を利用するとするか」



 引き続き攻撃を回避しながら、【意思伝達】を使って俺の領地にいるシアンに連絡を取った。



『シアン』


『うぇっ!? えっ、この声は、公爵様ですか?』


『ああ。リオンだ。いきなりで悪いが、以前から話していた計画を前倒しする』


『計画と仰いますと、南方大陸と同化している大魔王の力を削ぐべく、私の祖国を起点に公爵様を神と崇める魔神星教を広げる計画のことでしょうか?』


『その計画のことだ』



 この計画はシアンからの要請だった彼女の祖国であるシーディア王国への支援も兼ねている。

 シーディア王国がある地が今後南方大陸を席巻する予定の宗教の総本山になる利点は大きい。

 魔神星教の総本山にして聖地になれば、巡礼などによる経済効果だけでなく、南方大陸における俺の拠点になることによる軍事面でも俺の庇護を受けられることになるからだ。

 代わりに現状での南方大陸最大規模の宗教である竜神教を敵に回すことになるが、そこに関しては魔神星教が大きくなれば自然と対抗できるようになる。

 魔神星教の運営が軌道に乗るまでは俺が直接支援するつもりだから問題はないだろう。



『前倒しといいますと、いつからでしょうか?』


『今からだ』


『えっ?』


『現在進行形で竜神教の使徒と大魔王の眷属のコンビによる攻撃を受けていてな。どうせだから、その戦闘の様子をシーディア王国の民達に見せ付けて、魔神星教を開く足掛かりにしようと思う』


『使徒と魔王が!? だ、大丈夫なんですか?』


『俺が偽物の魔王や使徒如きに負けるわけがないだろ?』


『いえ、心配なのは国の方なのですが……本物の魔王達を倒してきた公爵様が負けるとは夢にも思っておりません』


「あ、そっちか」



 思わず念話でなく口に出して納得すると、ウルドラが放ってきたブレスを回避しながらシアンとの念話を続ける。



『確かにシーディア王国の近くで戦うことにはなるが、被害が及ばないように結界を張るから心配する必要はない』



 グニパヘリルからも充分離れたし、今なら【天空神ノ光輝】を解除して代わりにシーディア王国の方を守らせても大丈夫だろう。



『そういうことなら良いのですが……』


『というわけで、シアンには魔神星教の開祖となるべく今から里帰りしてくれ』



 シアンの母国を支援する対価として、彼女には魔神星教のトップである教主になってもらうことになっていた。

 総本山となるシーディア王国は彼女の母国だし、中央大陸と南方大陸の両方の大陸について知る彼女が最適だった。

 中央大陸でSランク冒険者になるほどの戦闘能力を持ち、シーディア王国の王族でもある彼女ならば色々と都合が良いからな。



『わ、分かりました。急いで準備します』


『荷物とかは後で取りに帰らせてやるから、今は国の者達を扇動することだけを考えていてくれ。すぐに転移できる奴を迎えに行かせる』


『承知しました』



 さて、下準備はこんなところか。

 シアンの送迎は分身体の一つを女性体(フリッカ)で行えばいいだろう。



「……見えてきたな」



 やがて、進行方向先に都市国家であるシーディア王国の姿が見えてきた。

 ウルドラ達からの攻撃を回避しながら徐々に移動してきた甲斐もあって、シアンがシーディア王国に着くまでの時間は稼げた。

 【世界と精霊の星主(オーヴェロン)】の〈妖星神眼〉で故郷の者達と数十年ぶりの再会を果たしているシアンを眺めつつ、再び彼女に向けて念話を発する。



『到着するぞ』



 端的にそれだけを伝えると、【黒天紫晶陣】により生み出した複数の黒紫色の水晶盾でウルドラの魔法攻撃を防いでいく。

 黒紫水晶の盾と魔法が衝突したことによる衝撃音が辺り一帯に響き渡る。



「逃げるのを諦めたか?」


「そう思うか? 本当にそう思っているなら、その目は節穴だな」


「減らず口を……あの都市に被害が及ぶのを嫌ったか」



 ムシュフシュの炎のブレスがシーディア王国に向けて放たれる。

 まさか一切躊躇うことなく攻撃するとは思わなかったな。

 ブレスの先に移動させた黒紫水晶の盾を複数個重ねることで攻撃を防ぐ。



「……竜神教の信徒がいるかもしれないのに攻撃するのか?」


「真の竜神教の信徒ならば、神敵を倒す一助となるのは本望である」


「フン。期待を裏切らない狂信ぶりだな」



 ウルドラに対して悪態を吐くと、ユニークスキル【正義と審判の天罰神(アストライア)】の内包スキル【神星礼装】を発動し、光の王冠と光背、そして光の翼をそれぞれ展開する。

 全能力の強化を行いつつ、後方のウルドラとムシュフシュだけでなく、戦闘音に気付き地上から此方を見上げていたシーディア王国の者達からの注目も集める。

 攻撃の余波がシーディア王国に及ばぬよう、グニパヘリルに使っていた【天空神ノ光輝】を再展開して都市を守らせた。



「さて、我が宗教の踏み台になってもらおうか」



 そう告げてから、これまで抑えていた魔力を含めた気配を解放した。



 

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