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第345話 蒐奪迷宮〈グニパヘリル〉



 ◆◇◆◇◆◇



「──創造後に放置しても変化は無し、と」



 前回の失敗から対策を立て、〈精霊王〉となってから再び対〈創世の魔王〉用の人造迷宮を創造した。

 創造直後だけでなく、時間を置いても大魔王からの干渉を除外できるかを確かめるために放置していた眼前の黒と白の配色の塔、蒐奪迷宮〈グニパヘリル〉を調べたところ、特に変化は見受けられなかった。



「問題なく大魔王の力も奪えているな」



 グニパヘリルに蓄積された力を認識すると、その力を素材に使用してユニークスキル【世界と精霊の星主(オーヴェロン)】の内包スキル【創星ノ杯】を発動させる。

 この内包スキルは、【世界と精霊の星主】を取得する際に糧となった特殊系スキル【星界の大君主】が有していた【創生ノ星】という創造能力が更に昇華されたスキルだ。

 神域権能(ディヴァイン)級ユニークスキルの内包スキルなだけあって、間接的に大魔王から奪った力を使って容易く新たな物質を生み出すことができた。



「ふむ。〈創世竜の霊子結晶〉か」



 創造された強大な力を感じる青白い結晶体の名称とその性質を確認した後、その結晶体を【無限宝庫】に収納した。

 この霊子結晶は後で新たな精霊を生み出す時にでも使ってみるか。

 【世界と精霊の星主】の内包スキル【精霊権限(スピリトゥス)】の派生能力の中には精霊を生み出す力もある。

 〈精霊王〉としての権能が形を変えただけなので、先代精霊王が魔王化してから精霊魔王を生み出したように、新たな精霊を生み出すことができるはずだ。

 せっかく大魔王由来の竜の力を使うのだし、特殊な精霊がいいだろう。

 将来を見据えて、そうだな……竜の力を宿した人型の精霊にして〈竜精人形(メリュジーヌ)〉とでも名付けるか。



「ご主人様。準備が終わりました」


「ん、分かった」



 背後に振り返ると、そこにはエリン達がいた。

 この場にいるのは俺以外だと、エリン、マルギット、シルヴィア、カレン、セレナ、シャルロットの六人だけだ。

 彼女達には俺が作ったこのグニパヘリルをテストしてもらうために南方大陸についてきてもらっていた。

 いきなり南方大陸の者に使わせる前に、冒険者として神迷宮都市アルヴァアインの神造迷宮に慣れている彼女達にテストしてもらった方が良いと判断したからだ。


 俺の配下の中には迷宮(ダンジョン)に関する経験が豊富な者は幾らでもいるが、今回のテストはその秘匿性の高さから婚約者の彼女達に頼むことにした。

 とはいえ、彼女達も俺の婚約者となってからは花嫁修行などに忙しかったため、迷宮に挑むこと自体は久しぶりになる。

 〈勇者〉である俺の〈聖者〉であるシャルロットに至っては冒険者ですらない──婚約者にはなっている──が、彼女にはそんなブランクのあるエリン達のサポート役に徹してもらう。

 俺も同行するが、俺は万が一にも大魔王による干渉があった場合に備える必要があるため、緊急時以外では手を出すつもりはない。


 ちなみに此処にいないSランク冒険者のリーゼロッテとレティーツィアの二人だが、彼女達には俺の代わりにアークディア帝国の帝都で行われている御前会議に出席してもらっている。

 レティーツィアの専属侍女でありAランク冒険者であるユリアーネは二人の手伝いだ。

 この御前会議は次の戦争に関する重大な会議であるため俺も出席するべきだったのだが、今回のテストを頼むエリン達全員のスケジュールが空いているのが今日ぐらいしかなかったため、正妻婚約者である二人に任せていた。

 現存する最古の王国の王女である第一正妻婚約者と、現アークディア皇帝の実妹である第二正妻婚約者ならば俺の代役として十分な資格があるだろう。

 彼女達では判断の難しいことがあったら連絡するように伝えているから問題はない。



「南方大陸と言っても、私達がいる大陸の自然環境と変わりはないわね」



 そう言いながらグニパヘリル第一号が聳え立つ丘の上から周辺を見渡している銀髪の狐人族はカレンだ。

 出会った時は十歳だった彼女も既に十三歳。

 成長の早い獣人種なだけあって、今の彼女の外見年齢は十代後半ぐらいだ。

 身長は今も伸び続けているが、彼女が一番気にしていた胸のサイズは残念ながら途中で止まった。

 異母姉であるエリンほどのサイズにはならなくて残念がっていたが、アレぐらいなら十分に大きいと思う。

 転生者であるカレンもそれは分かってはいるだろうが、俺の周りの女性達の殆どは大変発育が良いので気になってしまうらしい。

 これで前世よりも小さかったら更に落ち込んでいただろうな。


 外見年齢的にも幼女には見えない容姿になり、外聞の悪いことにはならないと判断してからはカレンからの求愛を受け入れた。

 その際に自分が転生者であることを婚約者である俺と異母姉のエリンにはカミングアウトしたが、既に知っていたので驚くことはなかった。

 彼女の方も俺が気付いていることに気付いていたため、苦笑しながらの暴露であった。

 それでもエリンにも気付かれていたのは予想外だったらしく逆に動揺していた。

 エリンの方は特に動揺することなく、そのまま変わりなくカレンを妹として受け入れており、関係性にも変化はなかった。



「何か特殊な環境が広がってると思ってたのか?」


「だって大魔王と一体化した大陸なんでしょう? 禍々しい結晶の森とか、毒々しい色合いの大地とかを想像していたのよ。それなのに凄く普通じゃない。()()らしくない」


「カレンちゃん、()王が同化している大陸という小さな世()だから魔界なの?」


「正解です、流石はセレナさん。分かってますね」


「なんだか褒められても微妙ね……」



 セレナが苦笑しているが、その意見には同意する。

 まぁ、カレンが持つ魔界のベタなイメージの環境が広がる場所が南方大陸にないわけではないんだけどな。



「こんな見晴らしの良いところに建っているけど、現地民に見られないのか?」


「不可視化の結界を一帯に張ってるから大丈夫だぞ。結界を解除しない限り南方大陸の者達が気付くことはない」



 シルヴィアがグニパヘリルの存在が明るみになることを懸念しているが、このダンジョンは近いうちに南方大陸の者達に明かすつもりなので問題はない。

 グニパヘリルには俺が〈創世の魔王〉から力を奪う際の道具としての役割以外にも、大魔王が南方大陸で築いた信仰の基盤を崩す役割がある。

 そのため、南方大陸の者達にグニパヘリルの存在と価値を明かすのは決定事項だ。



「リオンのことだから、人だけでなく魔物に対しても有効な結界なんでしょうね」


「当然だ」


「でも、現地民から魔王と呼ばれている大魔王の眷属にも効果はあるの?」


「不可視化の結界を張って近付いてみたが、魔王モドキ共が俺に気付く様子はなかったな」


「大魔王の眷属なのに感知能力が低いのね」


「奴らの力は元になった器に左右されるみたいだからな。〈混成神器(トゥプシマティ)〉にも感覚特化型の擬似神器はないようだし、気にすることはないだろう。それに魔王モドキ達の力では俺が生み出した迷宮を排除することはできないしな」



 マルギットからの質問に答えると、【魔賢戦神(オーディン)】の内包スキル【情報蒐集地図(フリズスキャルヴ)】の南方大陸のマップを開く。

 眷属ゴーレム達の働きにより、つい最近になって漸く南方大陸の地図が完成した。

 マップ上には混成神器の位置情報だけでなく、その混成神器の力に呑まれて〈創世の魔王〉の眷属となってしまった存在の位置情報も表示されている。

 混成神器の所持者の殆どは国の支配者たる君主達であるため、その居場所が大きく変わることはない。

 大魔王の眷属と化した者達の多くも元支配者階層だからか、大魔王の眷属の位置情報も大きく変化することはないようだ。


 現在活動している四体の大魔王の眷属〈毒威の魔王〉〈炎竜の魔王〉〈死使の魔王〉〈憤怒の魔王〉の殆どは、自らの下位種の魔物の生成や支配能力を有している。

 人間の頃は君主であった者が器になり、そこに配下を作り出す混成神器の能力が合わさったことが理由なのか、魔王モドキ達となってからも彼らはある種の国を形成していた。

 そんな魔物の国の君主である魔王モドキ達は基本的に動くことはない。

 現状の例外は配下生成能力が確認できない〈炎竜の魔王〉ぐらいで、この魔王モドキだけはよく移動している。

 なので、仮に警戒するとしてもこの〈炎竜の魔王〉ぐらいだが、その感知能力が低いことは確認できているため心配する必要はない。



「さて、そろそろ行くか。シャルロット。皆に強化を頼む」


「かしこまりました」



 〈聖者〉であるシャルロットによる支援強化(バフ)が終わると、彼女達と共にグニパヘリルへと潜っていった。

 このグニパヘリルは中央大陸で作った俺の迷宮とは少し仕様が異なっている。

 事前に簡単には説明しているが、彼女達がどんな反応をするか楽しみだな。

 



 

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