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第343話 悲嘆の魔王 後編



 ◆◇◆◇◆◇



「──【神喰転装】」



 スキル名を唱えると同時に身体を黒金色のオーラが包み込む。

 一瞬の後に人族の上位種である超人(スペリオル)族の身体が、所々に金毛が混じった黒毛の狼人族のような姿に変化する。

 実際の狼人族とは違い、狼に似た耳と尻尾だけでなく、頭部や腹部などを除いた全身が毛皮に覆われており、パッと見は狼系魔物の毛皮製防具を身に纏っているかのようだ。

 これはユニークスキル【神喰と終末の獣神(フェンリル)】の内包スキル【神喰転装】による変身であるため、当然ながら狼人族への変身ではない。

 敢えて言うなら〈獣神〉への変身になるだろうか。

 つまりは獣神化だ。

 〈悲嘆の魔王〉の〈権能〉によって剣や魔法といった人類の文明の利器が満足に使えないならば、〈人〉ではなく〈獣〉の力を以て倒してやろう。


 そんな野生味溢れる身体になったのを確認していると、精霊王でもある〈悲嘆の魔王〉と基本六属性を司る六体の精霊魔王達が共同で魔力砲撃を放ってきた。

 六体の精霊魔王達の〈火〉〈風〉〈水〉〈土〉〈光〉〈闇〉の魔力が〈悲嘆の魔王〉の〈星〉の魔力の元に統合されているため、単純な計算の七体分の魔力以上の威力を有していた。

 ただでさえ一体一体の魔力砲撃の威力は同属性の竜種の竜の息吹(ブレス)を軽く超えており、それらが統合された大魔力砲撃は同じ〈魔王〉にだって致命傷を与えられるだろう。



「カァッ!!」



 迫る大魔力砲撃に対し、【神喰転装】により爆発的に向上した身体性能を以て短く大声量で吠える。

 大咆哮を戦略級魔法数十発分の莫大な魔力によってブレスとして放つと、そのブレスに同ユニークスキルの内包スキルである【神滅ノ終喰牙(ヴァナルガンド)】の黒金色のオーラを混ぜ合わせる。

 そのブレスを攻撃系スキル【終末を招く神災刻韻(ギャラルホルン)】によりブレス内の大咆哮の音響部分を超強化し、最後に強化系スキル【其を満たす豊穣神(ユルフ・ガイア・)の光威(スプルタ)】でブレス自体のエネルギーを増幅させた。


 口内から解き放たれた黒金色の終喰ブレスの直径は目の前の景色が見えなくなるほどに巨大化し、〈悲嘆の魔王〉達が共同で放った大魔力砲撃を容易く呑み込んでいく。

 大魔力砲撃が消滅した頃には、終喰ブレスは魔王達の元に到達していた。

 一部の精霊魔王達にはギリギリで回避されたが、〈悲嘆の魔王〉と残りの精霊魔王達には終喰ブレスが直撃した。

 終喰ブレスが晴れた後には、〈悲嘆の魔王〉の壁となったことで消滅していく土の精霊魔王と、その背後で終喰ブレスを闇の力で可能な限り減衰させていた瀕死の闇の精霊魔王、そして無傷の〈悲嘆の魔王〉の姿があった。



「今のを防ぐか。やるな」



 魔王にも致命傷を与えられると思っていた一撃を防いだことに感心しつつ、そのブレス攻撃を躱わした残りの四体の精霊魔王達が間髪を入れず攻撃を仕掛けてきた。

 火の精霊魔王が粘度のある業炎の放射攻撃を、風の精霊魔王が極小の台風の塊を、水の精霊魔王が極寒の冷気の槍を、光の精霊魔王が太陽の光の如き光量のレーザーをそれぞれ放ってくる。

 最も攻撃速度の速い光の精霊魔王のレーザーを【黄昏ノ貪喰(フローズヴィトニル)】の貪喰のオーラを纏った手で受け止め、攻撃の全てを喰らい魔力へと変換していく。

 そうして得た膨大な魔力を糧に【暴風神魔(ルドラ)】で暴風を発し、その暴風を【星羅万象(アストラル・ルーラー)】の風を使って精密制御することで嵐の槍と化した。



「……なんか作れそうだな」



 ふとした直感に従い、かつて〈機怪王〉の配下の人工勇者から得た【想造改戯(カスタマイズ)】を追加で発動させる。

 貫通力を上げるためだけに形状を変えた暴風を、仮の姿ではなく元から()()であるかのように改変した。



[スキル【想造改戯】が発動しました]

[対象の存在が改変されます]

[スキル【嵐星覇槍(テンペスト)】を獲得しました]



 そのような情報通知(アナウンス)が脳裏に浮かぶと同時に、生成していた暴風の槍の存在感が増大する。

 〈風〉という属性の極みへと昇華された暴風の槍改め、嵐星の槍を極小の台風に向けて投擲する。

 同じ風属性に属する攻撃事象同士が衝突し拮抗していたが、元より貫通性を高められた嵐星の槍が有利であり、それは数瞬後に結果となって現れた。

 極小台風を突き破った嵐星の槍は、そのまま風の精霊魔王をも貫き、螺旋状に渦巻く暴風によって風の精霊魔王の身体を散り散りに破壊していった。



[対象を融合します]

[〈氷毒死泉(フヴェルゲルミル)〉+〈星禍の獄炎〉=【冥獄神炎(ゲヘナ)】]



 嵐星の槍を投擲しながら【混源融合】を使い、権能【獄炎神域】の固有属性〈星禍の獄炎〉の〈獄炎〉とユニークスキル【冥府と死魂の巨神(ヘル)】の【氷毒死泉】で生成した死属性魔力を融合させた。

 本来の【獄炎神域】の持ち主である大魔王〈獄炎の魔王〉が生み出す〈深淵の獄炎〉は黒紫色の炎であり、俺の〈星禍の獄炎〉の炎は黒青色をしている。

 だが、今生み出した【冥獄神炎】は、獄炎に死属性魔力を融合させたことで黒一色の炎となって顕現した。


 〈深淵の獄炎〉にはどこまでも出力を上げることができるという性質があり、〈星禍の獄炎〉には自由自在に形や状態を変えることができる性質があり、二つの獄炎には共通して通常の手段では消えないという性質を持っている。

 一方の【冥獄神炎】は、スキル化により〈権能〉製でなくなったことで通常の手段では消えない性質を失ったが、代わりに燃やした対象に〈死〉を齎す性質を持つ冥府の炎となっていた。

 

 〈星禍の獄炎〉の変幻自在の性質を一部引き継いだ【冥獄神炎】の炎を手のひらサイズに圧縮してから発射し、火の精霊魔王が放った業炎を撃ち抜く。

 その冥府の炎が火の精霊魔王に直撃し、直前の風の精霊魔王を倒した時と同様に、同属性の攻撃にて火の精霊魔王を滅ぼした。



「【陽喰ノ獣戯(スコル)】、【月喰ノ獣戯(ハティ)】」



 俺の両脇に見上げるほどに巨大な狼が顕現する。

 右側に立つスコルが俺へと迫っていた冷気の槍を噛み砕くと、二頭がその場から一瞬で姿を消した。

 次の瞬間、水の精霊魔王のすぐ傍にスコルが出現し、高熱化した爪で水の精霊魔王を斬り裂き、その水の身体を蒸発させていた。

 ハティは光速に迫る速さで飛び回る光の精霊魔王を猛追しており、迎撃するために放たれてきたレーザーは全て体毛を貫くことなく反射されているため、ハティは一切のダメージを受けていなかった。

 程なくして光の精霊魔王に追いついたハティは、そのまま光の精霊魔王を食べてしまった。



「……食あたりしないのかな? まぁ、いいか。【至高の冥獣(ガルム)】」



 〈悲嘆の魔王〉からの力の供給を受けたことで瀕死の状態から復活したばかりの闇の精霊魔王を狩るべく、【冥府と死魂の巨神】の内包スキルで生み出した冥府の狼を放つ。

 自分達の狩りが終わったばかりの二頭の神狼も合流すれば、闇の精霊魔王もすぐに狩れるだろう。

 だが、そう都合良くはいかないようだ。



「なるほど。やはり術者を倒さないと終わらないか」



 〈権能〉を応用して生み出した多重障壁で自らを守りながら、〈悲嘆の魔王〉が周囲に大量の精霊を新たに生み出していく。

 その中には倒したばかりの精霊魔王達の姿もあった。

 あれらはあくまでも替えのきく駒でしかないようだ。

 再生成された精霊魔王達を筆頭に迫る精霊軍団を、【神喰と終末の獣神】の【獣神の覇倒】で圧し潰す。

 放たれたプレッシャーに耐えられず、精霊軍団の九割以上が消滅する。

 消滅せずにその場に押し留められている残りの精霊達は、【神滅ノ終喰牙】の黒金色のオーラを纏ってから放った俺の爪撃にて討ち滅ぼした。

 その攻撃からも生き残っていた精霊魔王の再生成体達も、闇の精霊魔王を狩り終わった三頭の神狼によって喰われていった。



「まだやるか?」


「a、aA、AahHーーーッ!?」



 無駄な抵抗、と言うには強烈な抵抗である権能【悲嘆神域】の〈悲嘆の人理〉を応用した攻撃が放たれてくる。

 どうやら〈悲嘆の人理〉は人の文明を否定するだけでなく、その文明を再現して攻撃することも可能らしい。

 無作為に放たれてくる権能製の剣や槍、矢などを四肢に纏う【黄昏ノ貪喰】の貪喰のオーラで破壊しながら、〈悲嘆の魔王〉に近付いていく。

 光の精霊魔王と同じように光の如き速さで後退するのを見ながら、胸元にあるエクスカリバーの力を解放した。



「理想へ至れ──【願い望む星の杯(アヴァロン)】」



 エクスカリバーの第七能力が発動し、俺の望みをエクスカリバーが叶えていく。



[神器〈星統べる王の聖剣(エクスカリバー)〉の能力【願い望む星の杯】が発動しました]

[願いが受諾されました]

[対価が支払われます]



 【願い望む星の杯】に願ったのは、『俺の牙へ一時的に二振りの神刀が持つ能力【財ヲ顕ス強欲ノ刃】を宿す』こと。

 普通に倒すだけでは勿体ないので、一手間かけさせてもらった。

 〈悲嘆の魔王〉の後退先に転移すると、【神喰転装】発動後も人型のままだった身体を巨大な神狼へと転じさせる。

 逃げた先に回り込まれていたことに〈悲嘆の魔王〉が気付いたが、もう遅い。

 ユニークスキルの神を喰らう狼(フェンリル)の名に従い、逃げようとする〈悲嘆の魔王〉を丸呑みにする。

 口内に【神滅ノ終喰牙】のオーラを充満させながら〈悲嘆の魔王〉を咀嚼し、その存在だけでなく人類への嘆きも余すことなく取り込んでいった。



[スキル【星の玉座】を獲得しました]

[スキル【精霊源種】を獲得しました]

[スキル【星願祈祷】を獲得しました]

[スキル【理の担い手】を獲得しました]

[スキル【星の愛し子】を獲得しました]

[スキル【精霊を統べる者】を獲得しました]

[スキル【世界の守護者】を獲得しました]

[スキル【世界の破壊者】を獲得しました]


[権能【悲嘆神域】〈悲嘆の人理〉を獲得しました]

[権能【悲嘆神域】〈悲嘆の人理〉は神域の主に帰属します]



[〈強欲/創造の勇者〉と〈悲嘆の魔王〉による〈星戦〉が終了しました]

[勝者は〈強欲/創造の勇者〉です]

[勝利した〈強欲/創造の勇者〉には〈星域干渉権限〉が与えられます]

[勝利した〈強欲/創造の勇者〉には追加でアイテム〈魔王の宝鍵(ほうけん):悲嘆〉が与えられます]

[アイテム〈魔王の宝鍵:悲嘆〉を使って勝利報酬を選択してください]

[アイテム〈魔王の宝鍵:悲嘆〉は〈強欲/創造の勇者〉に帰属します]

[アイテム〈魔王の宝鍵:悲嘆〉は指定回数の勝利報酬を選択後に消滅します]



 目の前にどこからともなく〈悲嘆の魔王〉の魔力が集まると、自然の豊かさと涙を表現しているかのような装飾が特徴的な煌びやかな金色の鍵が出現した。

 人型へと戻ってから宝鍵を手に取ると、脳内に見慣れない通知が浮かんできた。

 


[今代の〈精霊王〉が死亡しました]

[次代の〈精霊王〉が自動的に選出されます]

[スキル【精霊王:臨時(エクストラ)】の存在が確認されました]

[個体名:リオン・ギーア・ノワール・エクスヴェルが戴冠条件を満たしました]

[新たな〈精霊王〉へ選ばれました]

[スキル【精霊王:臨時】がスキル【精霊王】へランクアップします]

[称号〈精霊王〉を取得しました]



 ふむ。人間でも〈精霊王〉になれるのか。

 まぁ、【精霊王:臨時】なんてスキルを取得できたから予測はできていたけどな。

 そんな風に思っていると、再び新たな通知が届いてきた。



 

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