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第342話 悲嘆の魔王 前編



 ◆◇◆◇◆◇



 〈堕ちた精霊王〉こと〈悲嘆の魔王〉が封印されている場所は、とある国の地方都市の中にある神塔星教の神殿の最深部だった。

 元々〈悲嘆の魔王〉の封印が最初に存在し、その封印を守るためにエリュシュ神教国によって何もなかった土地に神殿が作られた。

 それから封印の神殿を中心とした町が形成され、神殿がある土地と神殿内に関する全ての権利はエリュシュ神教国に帰属するという条件で、町自体は今の国家へと移譲され、現在の地方都市にまで発展したといった経緯がある場所だ。

 その封印の神殿内の回廊を、本国であるエリュシュ神教国からの見届け人であるヴィクトリアと、俺の〈聖者〉であるシャルロットを引き連れて歩いていく。

 正確には他にも複数の高位神官達やこの神殿の責任者の神殿長などがいるが、彼らは本当にただの付き添い人なので数には含めていない。


 見届け人であるヴィクトリアは、万が一にも俺が〈悲嘆の魔王〉の討伐に失敗した場合に魔王を討伐、或いは足止めするために同行している。

 超越者を意味するSSランク冒険者にして、世界から〈熾剣王〉の王権称号を贈られているヴィクトリアも共に戦えば確実だが、今回も魔王と戦うのは俺だけだ。

 南方大陸と一体化している序列二位の大魔王を倒すためには、〈悲嘆の魔王〉を倒す必要があるとアルカ教皇に説明しに向かった際、エリュシュ神教国の上層部から神の使徒達による助力を提案された。

 だが、〈魔王〉であり〈精霊王〉でもある〈悲嘆の魔王〉を相手にするならば、人数が増えることは不確定要素が増す結果に繋がる可能性が高いため、必要性がない限りは止めた方がいいと言って申し出を断った。

 何より、封印を解いた瞬間、魔王化した精霊王の力が周囲に放出されるので、〈勇者〉どころか超越者でもない者達は何の役にも立たないだろう、というのが本音なのだが。


 胸の奥にしまった本音はまだしも、表向きの理由だけで向こうが退いたのは、俺が既に二体の魔王を単独討伐しているからだろう。

 世界への悪影響という点では、先の二体の魔王を大きく上回る影響力を持つ〈悲嘆の魔王〉は、エリュシュ神教国としてもチャンスがあれば処理したかったらしく、その後はスムーズに手続きが終わり、こうして現地へとやってきた。



「ここが封印の間ですか」


「はい。ここが永きに渡り〈悲嘆の魔王〉を封じてきた〈聖なる境界の間〉でございます」



 俺の独り言に対して、同行している神殿長からの反応が返ってきた。

 神殿長が言う〈聖なる境界の間〉の広間の中央には、極彩色に輝く魔力の渦があった。

 空間の中心に浮かぶ渦を囲むように聖気と神気を感じる光の檻が存在しており、その檻には錠前らしきモノがあるのが見える。

 おそらく、あの錠前に本国から持ってきた封印を解除する鍵を使うのだろう。



「もう向かうの?」


「ああ。準備はとっくに出来ているからな。さっそく向かおう」



 神殿長達は広間の入り口に待たせてから、ヴィクトリアとシャルロットと一緒に光の檻の錠前へと移動する。

 そこでヴィクトリアが懐から華美な鍵を取り出し、錠前の鍵穴へと差し込んだ。

 次の瞬間、錠前から順に光の檻が消滅していき、残ったのは極彩色の魔力の渦だけになった。



「これで外部からの侵入を防ぐ封印は解除されたわ。あとは、この渦の中に入れば封印対象である魔王の封印も解けて目覚めるそうよ」


「分かった。シャルロット」


「かしこまりました」



 シャルロットの手が俺の手を包み込むと、そこから発せられた青白い光が俺の全身を包み込んでいった。



[〈聖者〉からの祝福を受け入れました]

[対象の〈聖者〉は称号〈強欲の勇者〉〈創造の勇者〉の適合者です]

[永続的に称号〈強欲の勇者〉〈創造の勇者〉の各種補正値が上昇します]

[永続的にジョブスキル【大勇者(アーク・ブレイヴァー)】の各種補正値が上昇します]


[特殊支援効果〈聖者の祈り〉が発動しました]

[一定時間、全能力値が増大します]

[特殊支援効果〈聖祈の矛〉が発動しました]

[一定時間、称号〈魔王〉並びに〈魔王〉の眷属への干渉力を増大します]

[特殊支援効果〈聖祈の盾〉が発動しました]

[一定時間、称号〈魔王〉並びに〈魔王〉の眷属からの干渉力を減少します]



 この聖者の祝福も久しぶりだな。

 これで全ての準備は整った。

 シャルロットに礼を告げると、彼女達に見送られながら魔力の渦へと飛び込んでいった。


 飛び込んだ先には、ただただ真っ白いだけの空間のみが続いていた。

 いや、正確には俺以外の異物が二つだけあった。

 一つは、俺の背後にあるこの空間と外を繋げる出入り口である極彩色の魔力の渦。

 そしてもう一つが、外にあった光の檻とよく似た光の鎖に全身を繋がれている、人型の精霊の姿だ。

 上空にて拘束されているあの精霊が〈堕ちた精霊王〉である〈悲嘆の魔王〉だろう。

 こうして姿を確認している数瞬の間にも、何処からか伸びてきている光の鎖に亀裂が入っていっていた。

 俺という封印対象外の存在が侵入したことで、封印に綻びができたからだ。

 あと数秒と経たず封印が解かれるだろう。



「今の内に塞いでおくか」



 ユニークスキル【天空至上の雷霆神(ゼウス)】の【天空神ノ光輝(アイギス)】を発動させると、背後の出入り口を絶対防御の光で覆って利用できないようにした。

 これで魔王化した精霊王の力による影響が外部に漏れ出ることはないだろう。

 こういった手段を持ってなかったのも、これまでヴィクトリアやジークベルトといった超越者によって〈悲嘆の魔王〉が討伐されなかった理由の一つだ。

 更に俺の全身にある精霊紋を通して大精霊達に干渉されないように、【萬神封ずる奈落の鎖(タルタロス)】の漆黒の鎖を四肢に巻いて精霊紋自体を封印しておく。

 精霊王ならば人間と契約下にある精霊を強制的に従わせることも出来そうだ。

 実際にできるか分からないが、用心するに越したことはない。



「──『原初の闘争(プライマル・デュエル)』」



 最後に【始源魔法】を発動させ、対象を俺と〈悲嘆の魔王〉に設定する。

 この魔法の効果により、互いに相手を倒さない限り逃げることはできなくなった。

 魔王にどこまで効果があるかは不明だが、〈悲嘆の魔王〉が外に脱出することを防ぐためには、やれることはやっておいた方がいいだろう。



「時間切れか」

 


 〈悲嘆の魔王〉を封印していた光の鎖が全て砕け散り、涙を流す〈悲嘆の魔王〉の双眸が地上にいる俺を認識した瞬間、脳内にお馴染みのアナウンスが響き渡ってきた。

 どうやら、異界に属するこの封印空間の内部でも〈星戦〉は発生するらしい。



[──〈強欲/創造の勇者〉が〈悲嘆の魔王〉と戦闘状態に入りました]

[──〈悲嘆の魔王〉が〈強欲/創造の勇者〉と戦闘状態に入りました]


[──〈勇者〉よ。〈魔王〉を滅ぼし、〈人類〉に繁栄を齎してください]

[──〈魔王〉よ。〈勇者〉を滅ぼし、〈魔物〉に繁栄を齎してください]


[両陣営以外の勢力の該当地域への接近が阻害されます]

[勝者には一定範囲内でのみ使用できる〈星域干渉権限〉が与えられます]

[勝者は〈星域干渉権限〉を使用し、各勢力を栄光へと導いてください]

[これより、〈強欲/創造の勇者〉と〈悲嘆の魔王〉による〈星戦〉を開始します]



 さて、やるとするか。

 今回は周りの目がない場所での戦いなのと、いつまでも魔王化した精霊王の力を防げるか分からないので、さっさと倒すことにする。



「〈星統べる王の聖剣(エクスカリバー)〉」



 名前を呼ぶと同時に手の中に漆黒色の柄が出現する。

 柄と剣身以外が全て黄金色に染まった星王剣エクスカリバーを軽く振るうと、周囲の空間が震えた。

 神域(ディヴァイン)級最上位である神器にして星剣の極地たる愛剣を使える機会など滅多にない。

 エクスカリバーを使う以上はすぐに終わるだろうが、偶には使ってやらないとな。

 俺の意思に応えるようにエクスカリバーの黄金と漆黒の剣身が神々しい光を放つ。

 エクスカリバーのやる気も十分であることを確認していると、〈悲嘆の魔王〉に動きがあった。



「a、aAhHーーーッ!!」



 俺が持つエクスカリバーに視線を向けた〈悲嘆の魔王〉は、まるで怯えるようにも嘆くようにも聞こえる叫び声を上げた。

 すると、その叫び声が空間全域に伝播するに従って、エクスカリバーをはじめとした全ての装備が重くなった。



[〈悲嘆の魔王〉が権能【悲嘆神域】の固有領域〈悲嘆の人理〉を展開しました]

[固有領域〈悲嘆の人理〉により、人類の文明に属する凡ゆる利器が力を失います]



 なるほど……〈権能〉か。

 〈悲嘆の魔王〉は〈魔王〉だが例外的にユニークスキルを持っていないと聞いていたが、〈権能〉は持っていたようだ。

 魔王化して間もなく封印されたため、実際の活動期間は非常に短い。

 それなのに純然たる神の領域の力と呼ばれている〈権能〉を取得しているとはな。

 このことは事前に得た情報にはなかったが……おそらくは〈権能〉を使う前に封印したためエリュシュ神教国も知らなかったのだろう。



「……剣も、魔法も弱体化しているな。いや、格の高い神器と【始源魔法】だから弱体化で済んでいるのか」



 既に発動している魔法の効力や、新たに発動させようとした魔法の発動難度の確認をしていると、〈悲嘆の魔王〉が六大精霊を召喚しようとしているのを感じた。



[〈悲嘆の魔王〉が〈精霊王〉として六大精霊を強制召喚します]

[六大精霊と契約しています]

[六大精霊はユニークスキル【強欲神皇(マモン)】の固有特性(ユニークアビリティ)〈強欲蒐権〉の影響下にあります]

[六大精霊は〈強欲/創造の勇者〉の使い魔です]

[〈強欲/創造の勇者〉の所有物(モノ)を奪うことは不可能です]

[〈悲嘆の魔王〉は六大精霊の強制召喚に失敗しました]



 ふむ……どうやら事前に行なっていた対策は意味をなさなかったみたいだな。

 それでも俺の〈強欲〉から奪うことは出来なかったようだ。

 〈悲嘆の魔王〉としての力で強化(ブースト)されている〈精霊王〉の力にも抵抗できるとは、流石は俺の根源たる力と言うべきか。



「強制召喚に失敗した次は新たな大精霊の創造か」



 六大精霊の強制召喚が出来ないことに気付いた〈悲嘆の魔王〉の周囲に、膨大な量の〈精霊王〉と〈魔王〉の力が集まっていく。

 新たな大精霊が生み出される前に攻撃を仕掛ける。

 


「【解放されし星の光剣(カリバーン)】」



 〈悲嘆の魔王〉に向けて漆黒と黄金のエクスカリバーの剣身から黄金色の光の斬撃を解き放つ。

 瞬く間に〈悲嘆の魔王〉に到達するかと思った斬撃は、彼我の空間に多重に展開された様々な障壁によって防がれた。

 〈悲嘆の魔王〉を守る障壁が残り四枚といったところで斬撃が止まったが、そこに追加で魔力を注いで更に光の剣身を伸長させる。

 一瞬で再び伸びた剣身が残りの障壁を突き破り、〈悲嘆の魔王〉の右肩部を斬り裂いた。



「AaahhHhーーーッ!?」


「やはり、無茶をすれば権能の影響下でも使えるか」



 通常時とは文字通り桁違いの魔力を要求されるが、全く使えないわけではないらしい。

 だが、エクスカリバーの一撃を受けたのにあの程度のダメージしかないことからも、〈剣〉としての攻撃力の大部分が失われているのは間違いないようだ。


 負傷した〈悲嘆の魔王〉を守るように生誕した六体の新たな大精霊──〈魔王〉の力も有しているから〈精霊魔王〉とでも言うのが正しいか──が前に出てくる。

 生まれたばかりの六体の精霊魔王の自我は薄いようだが、その分だけ忠実に創造主である〈悲嘆の魔王〉を守るだろう。

 数も質も高い相手と戦うにあたり、無理に剣と魔法を使って倒すのは少し非効率かな?



「悪いなエクス。お前の出番はまた今度、いや、また後でだ」



 シュンと落ち込んでいるエクスカリバーの思念を感じながら元のネックレス形態に戻すと、別の攻撃手段を発動させた。



「【神喰転装】」


 

 

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