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第339話 カミとカミ



 ◆◇◆◇◆◇



 擬似神器〈混成神器(トゥプシマティ)〉の一つ〈不動神器(ウシュムガル)〉を核とした、大魔王〈創世の魔王〉の眷属ウシュムガルとの戦闘開始から二時間が経過した。

 今後のために戦闘状態のウシュムガルの情報を収集するべく、倒してしまわないように手加減をしているのだが、予想以上にウシュムガルは頑強だった。

 情報収集がてら慣らしも兼ねて普段使用していない力を使用しているのだが、使い慣れていないため然程手加減されていない力を喰らっても瀕死状態になる様子がない。

 一度、ウシュムガルの全身に剣山の如く突き刺さった光剣を全て爆発させてみたのだが、それでも死ぬ気配がなかった。

 それ以降、より注視しながら情報収集と分析用に使っている【魔賢戦神(オーディン)】の【情報賢能(ミーミル)】を発動させ続けた。

 その甲斐もあって、漸くウシュムガルの異常な頑丈さと不死性の秘密が明らかになった。



「……どこからか力が供給されてるな。まぁ、供給元は一つしかないんだが」



 認識した力へと視覚を通してユニークスキル【強欲神皇(マモン)】の【発掘自在】を発動させて非物質世界へと侵入する。

 十分すぎるほどの時間をかけて分析したため、今の俺ならば直接触れることなく干渉することが可能だ。

 巧妙に隠されていたウシュムガルと繋がる力の経路(パス)を辿っていき、自分が立っている地面の下……いや、この南方大陸という大地と一体化している存在を正確に認識する。

 経路を辿っていった先に広がる精神世界にて視認したのは、全体像を把握するのが困難なほどに巨大な青白い竜だった。

 七つある眼は全て閉じられており、まるで死んでいるように横たわったまま動く気配がない。

 だが、現実世界にてウシュムガルが大ダメージを受けていると、それに呼応するように自らとウシュムガルを繋ぐ経路を辿って力が送られていっていた。

 現実では刹那にも満たない内にウシュムガルに到達した力により、ウシュムガルが受けていたダメージが軽減され、自己回復力が一時的に大幅に強化されたのが視えた。


 一連のやり取りの間も青白い竜──〈創世の魔王〉が反応する様子はなかった。

 状況からして、緊急時の眷属への力の供給は自動化されているのだろう。

 だが、大魔王の眷属と混成神器の担い手が争う際に、このような現象が起きたという話は聞いたことがない。

 単純にそういった情報を俺がまだ得ていないだけかもしれないが、現地で〈魔王〉などと大仰に呼称されている魔王モドキ達を倒せるのは、混成神器の担い手のみという話は聞いたことがある。

 つまり、混成神器を使って戦う場合は、このように大魔王から力が供給されて不死身になることもなく、普通に倒せるのだろう。

 そして、倒した大魔王の眷属の死骸から取り出された混成神器がまた人の手に渡り、また同じようなことが繰り返される……。



「なるほど。読めたぞ。この大魔王の狙いがなんなのかを」



 大魔王とウシュムガルを繋ぐ経路から視線を移し、出来るだけ大魔王の全体像を俯瞰して視えるように意識する。

 すると、予想した通り、何処からか無数のか細い経路が伸びてきており、その経路を伝って大魔王へと力が供給されていた。

 それらの経路を適当に幾つか選んで辿っていくと、それは南方大陸に住まう人々へと繋がっていることが分かった。

 人々が経路を通して大魔王へと送っている力の正体。

 それは、〈信仰〉だ。



「混成神器という力に対する〈信頼〉、その担い手への〈畏敬〉、魔王モドキ共への〈畏怖〉……呼び方は色々あるが、どれもこれも最終的には、それらを生み出した〈創世の魔王〉への〈崇拝〉へと辿り着く。その正体を知ることなく……神器を称する媒介物を生み出すだけあって、〈神〉の真似事とはな。恐れ入ったよ」



 南方大陸という四方を海に閉ざされた箱庭の世界を使って、自らに信仰を集め、その信仰を純粋な力へと変えて自らの力を高めるのが大魔王の目的なのだろう。

 間違っている可能性もあるが、俺が持つ全ての力と経験、情報、そして直感からこれが正解だと判断した。


 見える範囲の精神体を見る限り、大昔に大魔王が負ったと聞くダメージは既に癒えているように見える。

 精神体が完治しているなら肉体も完治しているはず……いや、そもそも大陸と同化しているのだから、肉体の負傷云々は関係ないか。

 このことから信仰による力……〈信仰力〉ともいうべきエネルギーを集めているのは治癒が目的ではない。

 そして、信仰力とは神が神であるのに必要なモノ。

 まさか、大魔王は集めた信仰力で神になるのが目的か?

 南方大陸に一体化したまま動かないのは、動かないのではなく動けないのかもしれない。

 自らの箱庭と強固に結び付くことで、その世界からの信仰力を一身に集めることで〈神〉となるために……。



「予想でしかないが、宗教国家の信仰対象からも間違ってないだろう。嘘が真になるわけか。となると、これに対抗するには、ッ!? 精神世界の自動防衛も構築済みか!」



 現実世界では戦いながら精神世界で大魔王の狙いについて頭を働かせていると、その精神世界にて異常が発生した。

 俺の精神体の周囲に突如として青白い竜型の発光体が大量に現れた。

 どうやら精神世界を探るのはここまでのようだ。

 群がってくる防衛機構に向けて精神体の手を翳す。

 


「奪い解け──【強奪権限(グリーディア)】」



 【強奪権限】の超過稼働能力オーバー・アクティベート・スキル貪欲なる解奪手グリードリィ・デモリッション】によって無数の竜型防衛機構が崩壊していく。

 黒く染まった精神体の両腕へと竜型防衛機構を構築していた力が吸収されていった。



[解奪した力が蓄積されています]

[スキル化、又はアイテム化が可能です]

[どちらかを選択しますか?]



「当然、スキル化だ」



[スキル化が選択されました]

[蓄積された力が結晶化します]

[スキル【創世の欠片】を獲得しました]

[スキル【世界法則干渉】を獲得しました]

[スキル【世界ノ楔】を獲得しました]



 流石は序列二位の大魔王の精神世界を守る防衛機構だな。

 数も数だが、スキルの質も実に素晴らしい。

 今後の〈創世の魔王〉への対抗策を構築するのに役立ちそうだ。



「増援か。此処は向こうの精神世界(ホーム)だし、これ以上の長居は止めておくか」



 次は大魔王の精神体から新たな竜型防衛機構が直接生み出されようとしているのを見ながら、侵入に使った経路を引き返していく。

 最後は視覚を通して繋がっていた干渉経路を切ってから、一時的に分離していた精神体の一部を本体に戻した。



「……防衛機構発動の影響かな?」



 精神世界での戦いを終え、全ての意識を現実世界に戻すと、ほぼ同じタイミングでウシュムガルの竜体から飛散した肉片が次々と竜頭の人型魔物へと転じていった。

 ここまでの俺の攻撃によって飛び散った肉片は多い。

 液体である血まで含めれば、まさに無数の血肉と表現する必要があるほどの数だ。

 瞬く間に目前に大小様々の竜頭の人型魔物──〈竜頭人魔〉とでも呼んでおくか──が無数に創造された。

 人型なのは地底空間という狭い場所が戦場なのと、人間である俺が相手だからか?



「鬱陶しい数だな」



 ウシュムガルと竜頭人魔達が予備動作無く一瞬で魔力がチャージされ、一斉に竜の息吹(ブレス)を放ってきた。

 俺の前面の空間の全てを埋め尽くす無数のブレスは、超高魔力砲撃の暴雨と言っていいだろう。

 これまでとは比較にならない火力だな。

 【天空至上の雷霆神(ゼウス)】の【界滅ノ神霆(ケラウノス)】や【天空神ノ光輝(アイギス)】なら容易く対処できるが、ちょうど良い。

 用は済んだから、ウシュムガルも含めて全てを纏めて処理するとしよう。

 【界滅ノ神霆】を使ったらこの地底空間が崩れるし、別の方法を使った方がいいな。



「我が身に(つるぎ)を── 【星戯ノ剣神(アストレア)】」



 【正義と審判の天罰神(アストライア)】の内包スキル【星戯ノ剣神】により、俺の髪が一瞬で腰の辺りまで伸び、瞳と髪の色が黄金色へと変化する。

 【星戯ノ剣神】の力は俺を擬似的に剣神と化する力だ。

 擬似というだけあって本物の神ではない。

 だが、神の領域と言われる神域権能(ディヴァイン)級ユニークスキルの内包スキルによる擬似剣神は限りなく本物に近いだろう。

 まぁ、本物の剣神なんて俺は知らないので、神に近しい力を振るえるという認識だ。


 刹那の間に擬似剣神化を済ませると、腰に佩く鞘から神刀〈龍喰財蒐の神刀(アメノハバキリ)〉を神速で抜き放った。

 竜、または龍に対する特大の特効を持つ【龍ヲ屠ル神ノ牙】の力が付加された斬撃が、ブレスで埋め尽くされた目の前の空間を薙ぎ払う。

 一撃でブレスが幻のように霧散すると、次の瞬間にはウシュムガルと全ての竜頭人魔達の首が落ちた。

 そして、ウシュムガル達の命と共に彼らと大魔王を結ぶ繋がりも完全に断ち斬った。

 大魔王との繋がりを失ったことで力の供給が無くなり、竜頭人魔だけでなくウシュムガルも二度と動き出すことはなかった。

 たった一度の斬撃で、大魔王関連の無数の敵が放った攻撃だけでなく、その命や大魔王の力までをも纏めて斬れるとは、流石は擬似剣神化と言うべきか。



「フゥ。とはいえ、やっぱりこの力は消耗が激しいな」



 擬似剣神化を解くと、黄金色に染まっていた髪と瞳の色が元に戻った。

 髪の長さだけは伸びたままだったので、【造物主(デミウルゴス)】の【復元自在】を使って元の髪型へと戻す。

 時間にしてみれば擬似剣神化したのは数秒程度だったが、その短時間でも肩で息をするほどに体力と魔力、そして精神力を消耗した。

 やはり、このような類いの力は無闇矢鱈とは使えないな。



「さて、これが不動神器か」



 【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】によって【無限宝庫】に回収したウシュムガル戦の戦利品の中から黒一色の長剣を取り出す。

 ウシュムガルが死んだことで、その名の混成神器も元の形態にて実体化していた。

 実際に触れたり【情報賢能】で調べたりしたが、擬似剣神化の力で大魔王との繋がりを断ち斬ったため、混成神器を通して大魔王からの干渉はなかった。



「ふむ。中々興味深い仕組みだな。〈創世の魔王〉への対抗策を練るのに役立ちそうだ」



 大魔王が南方大陸を自分の箱庭にして神化を目指すならば、その箱庭をどうにかする必要がある。

 南方大陸を破壊するわけにはいかないから、徐々に大魔王の力を削いでいく方法がいいだろう。

 となると、大魔王の既得権益を奪うのが一番穏便かつ確実な方法か。

 具体的な方法を考えるのはこれからだが、大体のイメージは既に出来ている。

 直接戦闘というこれまでの魔王討伐でしてきたことが使えないため、倒すまでに途方もない時間が掛かりそうだな。


 

 

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