表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
350/411

第337話 混成神器



 ◆◇◆◇◆◇



 南方大陸の調査を開始してから一ヶ月が経った。

 自領がある中央大陸と南方大陸間を、転移のみで行き来できるようになったことを確認してからは、中央大陸でのアレコレは分身体に任せて、本体は南方大陸に滞在している。

 このひと月の滞在期間中に南方大陸の言葉は粗方覚えたので、現地民との交流においても意思疎通に問題はないはずだ。

 はずだ、と言うように、未だに南方大陸の人々とは接触していない。

 まぁ、そもそもの話、現状ではファーストコンタクトを取る予定はないのだが。



「交流するにしても、せっかくだから利になる接触にしたいものだ」



 〈強欲〉的にも、な。

 例え異大陸であっても、俺の利己的な基本方針に変わりはない。

 それに、今は南方大陸の土地を調査して、シアンからの支援要請を受諾するか否かの判断を下すための材料を探している最中だ。

 具体的には、地下資源とか、そういう人間が価値を見出すような資源が存在するかどうかの調査になる。

 元々そういう土地なのか、〈創世の魔王〉を冠する〈大魔王〉が同化したことによる影響なのか、現時点でも思っていた以上の種類と量の資源が見つかっていた。

 今の段階でも結論を出してもいいのだが、もう少し様子を見たいのが正直な気持ちだ。


 あれから再びシアンと話し、彼女が支援を求める彼女の祖国が何処の国かも既に聞いている。

 その国の様子が分かるように監視の目を常駐させているので、気付いたら国が滅んでいたという事態に陥いることはない。

 ちゃんと最低限の対策をしているからこその余裕というわけだ。



「ま、そうやって監視して気を配っていないと滅びかねない大陸情勢だからな。魔境だよ、本当に」



 今日までの調査によって分かったのだが、南方大陸は中央大陸以上に血で血を洗うような情勢下にあるらしい。

 人類種同士の争い以外にも、魔王モドキ達による人類国家への侵攻、魔王モドキの支配下にいない魔物同士や人間との争いなどが、南方大陸の至るところで常に起こっている。

 大半の人間や魔物は海にいる海龍達以下の強さしかないが、一部の人間と魔物はそうではない。

 この一部の存在が原因で、大陸情勢は混沌と化していると言っても過言ではなかった。



「ふむ。戦況は一進一退か」



 【隠身ノ神戯(ハデス)】で姿を隠したまま上空から地上を見下ろす。

 地上では、南方大陸において一握りしかいない超常の力を振るう存在同士が争っていた。

 上空からだと俯瞰できるので、双方の立ち位置がよく分かる。


 一方は、威厳のある佇まいと装いをした中年ぐらいの年齢の人族の男性で、その手には青い宝石を冠した灰色の長杖が握られていた。

 彼の周りには槍や剣などの武器を持った兵士達が控えているが、彼らが身に付ける装備はどれも青銅製だ。

 あまりにも粗末な武器だが、この南方大陸では珍しくない一般的なグレードの装備になる。

 階級が上っぽい装いをした兵士達の装備は鉄製だが、その数は非常に少なく、装備の質も悪かった。

 兵士達の背後には周囲を城壁に囲まれた都市があり、其処は彼らが属する都市国家群の首都でもある。

 そして、灰色の長杖を持つ男は、その都市国家の頂点に君臨する王だった。


 そんな人間達が相対している敵は、まさに竜の形をした炎という表現が相応しい見た目をしていた。

 その外見に相応しい熱量が全身から発せられており、炎竜の後方には炎の道が続いており、この炎竜がどのような移動ルートを通ってきたかがよく分かる。

 遠方に見えるルート上には、一際燃え盛っている場所があるが、そこには数時間前までは別の都市国家があった。

 今となっては僅かな都市の残骸と炎ぐらいしか残っていないだろう。


 南方大陸において〈炎竜の魔王〉と呼ばれている魔王モドキの侵攻を阻止すべく、この都市国家群〈アルガト王国〉の君主であるスイン王が出陣した。

 彼が灰色の長杖を振るうと、その動きに合わせて周囲に大量の泥が発生し、濁流となって炎竜の魔王モドキへと殺到する。

 泥は魔王モドキの炎の身体にも焼き尽くされることなく蠢き、魔王モドキの身体を拘束してみせた。

 魔王モドキを拘束した泥は、魔王モドキから体力と魔力を奪い続けており、拘束している時間が長ければ長いほどスイン王達が有利になっていくだろう。

 だが、魔王モドキは自らの炎の身体の表面を爆発させることで、泥の拘束を強引に破壊するため、そう上手くはいかないでいた。

 泥の拘束が破壊されても、再び泥の濁流が襲い掛かって魔王モドキを拘束し、また破壊されるといったことが、両者が接敵してから数度繰り返されている。

 口に出して言ったように、まさに一進一退の戦況だが、いつまでも続くといったことはないだろう。


 

「ほらな」



 何度目かの拘束を排除した直後、魔王モドキの口から炎のブレスが放たれた。

 そのブレスは、躱わそうとしたスイン王の左腕と射線上にいた一部の兵士達を消し炭にしてしまっていた。

 スイン王が大ダメージを受けたことによって状況は動いたが、人間側はどう動くかな?

 まぁ、たぶんアレを使うんだろうけど。



「ぐっ、我が身と混ざれ、〈泥水神器(ラフム)〉ッ!!」



 腕を焼失した痛みを堪えながらスイン王が叫ぶと、右手に持っていた灰色の長杖が灰色の粒子となってスイン王と融合する。

 次の瞬間、周囲にあった灰色の泥が、スイン王の焼失した左腕の部分に集まり、左腕の形を成した。

 それだけでなく、その左腕の形をした泥はスイン王の全身を覆っていき、瞬く間に彼を灰色の体皮を持つ異形の人型の姿へと変質させた。

 赤い三つ目がある頭部からは太いケーブルのような髪が大量に生えており、髪先は足元にできた同色の泥沼と繋がっていた。

 その泥沼の範囲はあっという間に広がっていき、周りにいた兵士達の足元にまで拡大した。



「兵士達よ。我が剣となりて、国を脅かす災厄を祓い給え」


「「「仰せのままにッ!!」」」



 スイン王が灰色の腕を振るうと、足元の泥が兵士達の身体だけでなく武器までも覆い隠していく。

 やがて、兵士達は元が灰色の泥とは分からないほどに硬質な輝きと気配を放つ灰色の全身鎧を身に纏っていた。

 各種武器も同様で、泥製なのに非常に強靭そうだ。

 兵士達を強化される間も泥の濁流は魔王モドキに襲い掛かっており、スイン王が灰色の長杖と一体化して異形となってからは、その操作性が格段に上昇していた。

 泥を爆破されても、その上から更に追加の泥を纏わせて拘束を継続させており、そんな魔王モドキへと泥製武具に身を包んだ兵士達が殺到していく。


 魔王モドキの炎の身体に通じるのか怪しんでいたが、兵士達が灰色の武器を振るう度に魔王モドキの気配が弱まっていくのを感じる。

 魔王モドキも負けじと爆発の威力と規模を上げて拘束具ごと兵士達を爆砕させていた。

 爆発の直撃を受けたら流石に即死しているようだが、泥製武具が破損するだけならば、後方からスイン王が灰色の泥を支給することで一瞬で武具が修復されていった。

 

 一進一退の攻防を越えた、まさに文字通りの泥沼の戦場と化した城壁前の戦闘だが、程なくして魔王モドキが全身の体表を爆発させた勢いで後退し、そのまま撤退することで唐突に終わりを告げた。

 異形化を解いて元の姿に戻ったスイン王によるな勝ち鬨に沸き立つ地上から視線を逸らし、遠方に退却していく魔王モドキの後ろ姿へと顔を向けた。



「〈混成神器(トゥプシマティ)〉。南方大陸における権力の証であり、災厄の証、か」



 おそらくは〈創世の魔王〉が生み出したと思わしき擬似神器の使い手達と、その擬似神器の力に呑み込まれ、元の姿に戻れなくなった魔王モドキ達が、この南方大陸の支配者だ。

 危険な代物である混成神器についての調査が終わらない限りは、シアンからの支援要請を快諾することはできないな。

 等級的には、伝説(レジェンド)級以上、神域(ディヴァイン)級未満って感じだし、魔王由来のアイテムである可能性が高いことを抜きにしても非常に危険だった。



「せめて全ての混成神器の能力ぐらいは調べる必要があるな……一つぐらいは手に入れてみるか?」



 手に入れるにしてもどれにするか……全部で十一個もあるから悩ましいな。

 暫く悩むことになりそうだな。

 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ