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第330話 連合軍侵攻開始



 ◆◇◆◇◆◇



 この世界に来て三度目の新年を迎えて約半月が経った頃。

 大陸中央部南西方面に位置するゴベール大砂漠の周辺国家であるサウラーン王国、ジェスム国、パルディーン商国の三ヶ国がアヴァロンへ同時に宣戦布告してきた。

 宣戦布告から間もなく、三ヶ国が同時にゴベール大砂漠にある唯一の都市である、アークディア帝国エクスヴェル公爵領ゴベール大砂漠地方都市アヴァロンへ向けて侵攻を開始。

 現在、三ヶ国が侵攻を開始してから約二時間が経過していた。


 各国はそれぞれ一万以上の兵を動員しており、合計四万を超える連合軍が結成されている。

 三ヵ国合わせても約四万の兵しかいないのは少ないと思ってしまうが、そもそもこの三ヶ国はアークディア帝国のような大国ではない。

 そのため、戦争に割けるリソースの差から、正規兵や雇った傭兵団だけでなく、国民から徴兵してもなお、これぐらいの数しか動員できないのだ。



「主にアヴァロンロードを通るとはいえ、砂漠へ各国一万以上の兵士を派遣するなんてよく決断したよな」



 まぁ、俺は砂漠での戦争の知識なんて持ってないので、砂漠への万単位の派兵がどれほどの難易度なのか正確には分かっていないのだが。

 連合軍は約四万という数と各国の位置関係や、軍の侵攻に使われるアヴァロンロードの道幅などの問題もあって、固まって行動はしてはいない。

 連合軍と言いはしたが、同じ軍に編成されてはいないため、同盟軍と表現するのが正しそうだが、一応全軍のリーダーは決められているため連合軍と呼称されている。

 リーダーは三ヶ国の中で最も軍事力の強いジェスム国の将軍で、この国は派兵している兵士の数も一番多い。

 一番多いとは言っても二万に届かない数だが、国内人口が約二十万人であることを考えると、結構頑張って兵力を抽出したと言える。


 侵攻してきた三ヶ国を人口が多い順に並べると、サウラーン王国、パルディーン商国、ジェスム国となる。

 軍事力の強い順に並べると、ジェスム国、サウラーン王国、パルディーン商国。

 経済力の高い順に並べると、パルディーン商国、サウラーン王国、ジェスム国。

 歴史の古い順に並べると、サウラーン王国、パルディーン商国、ジェスム国となっていく。

 このような力関係にある三ヶ国は、ゴベール大砂漠の周りにある五ヶ国の中でも特に関係が深く、切っても切り離せない関係にあった。


 そんな中、建国時から続く脅威であった〈地刑の魔王〉が倒され、その支配領域であったゴベール大砂漠にできた黄金都市アヴァロンによって各国の経済は大なり小なりダメージを負った。

 故に、彼らの矛先がアヴァロンに向くのは自然なことだ。

 魔王という魔物の王には通じずとも、勇者という人間には言葉も刃も通じると考えてしまうこと自体は、何らおかしなことではない。

 だが、その考えがどこまで大胆になるかは不明なため、そのまま放置しておくのは、いつどこで爆発するか分からない爆弾のようなものだ。

 だから、アヴァロンへの諜報と破壊工作をキッカケに三ヶ国の首都への異常気象という間接的かつ分かりやすい報復をしてやった。

 更に三ヶ国の特使を追い返すことで起爆までの時間を早めてやることで、俺が望んだ通りのタイミングで起爆させて開戦に至ったわけだな。



「三ヶ国と繋がるアヴァロンロードを通って侵攻してきているけど、止めなくていいのか?」



 アヴァロンの領主城の一室にて、アヴァロンロードを構成するオベリスク群に搭載してある監視機能から送られてくるリアルタイムの映像を視聴していると、一緒に映像を観ていたシルヴィアがそんな質問をしてきた。

 俺の側妻の一人として婚約を発表して以降、シルヴィアはシェーンヴァルト本家の方で花嫁修業を行うのに忙しくなり、ここ一年ほどは家にいないことが多くなった。

 年末年始の時期は俺の元へ帰ってきており、今もこうして傍にいた。

 同様の理由で離れていたマルギットも帰ってきており、彼女も俺を挟んでシルヴィアとは反対側に座って映像を眺めている。



「ああ。そのまま放置で構わないさ。今は撃退するつもりはない」


「アヴァロンまで侵攻させるの?」


「いや、アヴァロンまで近付かせるつもりはない。いずれかの軍がアヴァロンまで残り半分ほどの地点に到達したら一斉に迎撃を開始させる予定だ」

 

「各個に撃破するんじゃなくて同時に撃破するのね」


「そっちの方が戦力に余裕があるように見えるだろ?」


「誰に、って、ああ。この戦を注視している諸外国に対してということね」


「そういうことだ」



 今回の侵攻に対する国内外の反応は様々だ。

 俺が属しているアークディア帝国は、三ヶ国がエクスヴェル公爵領への軍事侵攻に向けて国境へ軍を動かしているのを察知してすぐに、三ヶ国へ向けて抗議文を発した。

 本来ならアークディア帝国も援軍を派遣すべきだが、事前に俺が伝達していたので帝国の動きは抗議文だけで終わっている。

 帝国上層部の中には戦功を上げる機会が失われて不満顔の者達もいたが、彼らには我慢してもらうしかない。

 まぁ、いずれ彼らにも機会があるさ。


 アークディア帝国の友好国や同盟国も同様に抗議文を発した一方で、仮想敵国にあたる国や国交がない国の一部は密かに三ヶ国を支援している。

 金銭や兵糧、それに兵力の支援など色々やっているようだ。

 ただ、本気で軍事侵攻を成功させるには支援が中途半端なので、支援している国々は三ヶ国をエクスヴェル公爵家の戦力を測るための試金石にしていると判断した。

 元より、このタイミングで三ヶ国に開戦させた目的は、エクスヴェル公爵家の戦力を見せて他国が干渉してくるのを躊躇させるためだ。

 そう考えれば、他国が三ヶ国を支援しているのは都合が良いと言える。

 今回のことでエクスヴェル公爵家に手を出すのは損が大きいと思ってくれれば重畳だ。



「うーん。確かに、多方面から同時に攻めてきた一万を超える他国の軍勢を、同時に撃退できるような都市や領地は少ないでしょうね」


「ああ。そして、その中でも圧倒するほどの戦力となれば滅多にいないだろう。だから今後、エクスヴェル公爵家の兵力が抑止力としての役割を果たせるようにするためにも、今回の連合軍を圧倒しなければならない」


「リオンが出なくても圧倒できるのか?」


「大丈夫だろう。そのための準備はしてきた」



 現在、エクスヴェル公爵家の表向き動員できる戦力の数は、都市内の警邏部隊などの衛兵達を除けば約一千名ほどしかいない。

 エクスヴェル公爵家騎士団の一般騎士が百名と公爵軍の兵士が一千名という少なさだが、エクスヴェル公爵家ができてからまだ一年しか経っていないので仕方がないだろう。

 それに、我が家は量より質を重視している。

 登用した一般騎士には幾つかの賢能宝珠(スキルオーブ)を与えるだけでなく、俺が直々に鍛えている。

 その一般騎士の中から一際才能と実力に秀でている騎士には、更に高ランクのスキルオーブを与えた上で、より一層力を入れて鍛え上げた。

 それらの上澄みの騎士達は、他の騎士達とは別に分けて特級騎士という特別な身分を与えている。


 特級騎士には専用装備〈白威ノ星浄霊鎧(アルベド)〉を与えており、彼ら特級騎士のことは専用装備から名を取って〈白星(はくせい)騎士〉と呼称している。

 一年に満たない期間で鍛えあげたとはいえ、白星騎士達のレベルと技量はSランク冒険者に相当する。

 スキルオーブと俺のダンジョンを使って鍛え上げた一般騎士達の実力は、他家の騎士の比ではない。

 そんな一般騎士達の力の御披露目は勿論だが、それ以上に御披露目したい戦力がこの白星騎士だ。

 そして、その白星騎士以上の力を持つ〈黒星(こくせい)騎士〉達の力を一端だけ見せつければ、きっと抑止力としては十分な役割を果たしてくれるだろう。



「そうか。リオンがそう言うなら本当に大丈夫なんだろう。連合軍は迎撃地点までどのくらいで到達するんだ?」


「軍勢だから移動スピードは遅い。だから、早くても三日はかかるだろうな」



 それまではゆるりと待つとしよう。



 

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