第329話 賢能宝珠
◆◇◆◇◆◇
「──こちらが年明けに私の商会にて発表を予定している新商品の消費型アイテムである〈賢能宝珠〉になります。こちらのスキルオーブを使用するとスキルを永続的に取得することができます」
そう告げながら、【無限宝庫】から掌サイズの青白い球体を取り出した。
青白い球体の内部では夜空の星のような光点が幾つも光り輝いており、この光点の色がスキルオーブの等級を表している。
今回サンプルとして取り出したスキルオーブの光点の色は白色で、白は全部で六等級あるスキルオーブの下から二番目の光点色にあたる。
「ほう、これがスキルオーブか」
「使用するだけでスキルを取得できる消費型アイテムとは……」
「いやはや、エクスヴェル公はまたもや規格外のモノを生み出されましたな。これは楽しみだ」
今日は年に一度の帝都エルデアスの皇城の大広間にて行われる年末パーティーの日だ。
パーティー会場に集まった貴族達がスキルオーブに注目しながら思い思いに言葉を並べていく。
皇帝であるヴィルヘルムへの挨拶も終わったし、アークディア帝国の主な貴族や国外からの参加者との挨拶も済ませたので今は自由時間だ。
年末パーティーに参加している婚約者達は挨拶回りが終わった後、彼女達だけでパーティー会場を回っている。
俺も彼女達と共にパーティー会場を回ろうかとも思ったが、せっかく帝国貴族の殆どが集まっている場なので新商品の宣伝を行うことにした。
婚約者達との時間を犠牲にした甲斐もあって、貴族達からは良い反応が返ってきた。
彼らからの質問に次々と答えていく。
「このスキルオーブはどのようにして使用するのですか?」
「スキルオーブが発光するまで規定量の魔力を注ぎ込むだけですね。スキルオーブが発光すると、スキルオーブが魔力粒子と化して使用者の身体に吸収されます。その魔力粒子を全て吸収し終えるとスキルが取得できます」
「ほう、思ったよりも簡単なのですね」
「スキルオーブで取得できるスキルにはどのようなモノがあるのでしょうか?」
「基本的にはレンタルスキルのスキルと同じスキルになります。ただし、レンタルスキルの中でも回数消費スキルなど一部のレンタルスキルに関してはスキルオーブ化の予定はありません」
「そうなのですか? 【獲得経験値増大】や【戦霊騎士召喚】が永続的に取得できたら嬉しかったのですが……」
「ハハハッ、そこはスキルオーブとレンタルスキルの仕組み的に難しくてですね。今後も開発研究は続けるつもりなので、いずれスキルオーブ化が可能になるかもしれません」
実際はスキルオーブにできるが、今のところはスキルオーブにするつもりはないので適当に誤魔化しておく。
「おお! もし実現しましたら是非ご一報ください」
「分かりました」
いつになるか分からないけどな。
「スキルオーブの価格は幾らなのでしょうか?」
「スキルオーブのスキルは、レンタルスキルとは違い、購入し使用すれば永続的にスキルを使用することが可能になります。ですので、その価格はレンタルスキルの最大レンタル日数である九十日の料金よりも高額にするつもりです。ハッキリとは言えませんが、最低でもそれぐらいはすると思ってください」
「なるほど。スキルオーブの価値を考えると妥当な金額ですね……」
「スキルオーブの販売数はどれほどになるのでしょうか?」
「各等級ごとの正確な数字は申し上げられませんが、最低ランクのスキルオーブならば、一ヶ月あたり百個前後放出することが可能かと思われます。ただし、常に安定供給できる類いのアイテムではないので、あくまでも目安だとお考えください」
「スキルオーブの等級とレンタルスキルの関係性について教えていただきたいのですが」
「スキルオーブは全部で六等級あり、スキルオーブの内部で輝いている光点の色で判別できます。等級は下から黒、白、黄、紅、蒼、紫の順に上がっていき、それぞれにレンタルスキルの六段階の星の数が下から順に対応していく形です。また、高ランクのスキルオーブになるほど供給量は少なくなり、高価になっていきます」
「スキルオーブの生産は全て公爵閣下がなされているのでしょうか?」
「ええ。スキルオーブはレンタルスキル同様に私の能力に根差した代物であるため、私自ら一つ一つ生産しています。先ほどの質問でお答えした、スキルオーブの供給量の数が一定ではない理由はここにあります。故に、私自身がスキルオーブに割ける時間の有無に左右されるというわけですね」
「レンタルスキルのスキルは全てスキルオーブとして販売されるのでしょうか?」
「先ほどの質問に答えましたように、レンタルスキルの中でもチケットスキルなど一部のスキルはスキルオーブとして販売する予定はありません。スキルオーブとして販売を予定しているレンタルスキルに関しても、一度に纏めて販売されるわけではありません。これらの理由に付きましては、商業的判断と私自身が多忙だから、とだけお答えしておきます」
「なるほど。確かに、レンタルスキルの数が数ですからね」
「スキルオーブにできるのはレンタルスキルのスキルだけなのでしょうか?」
「今のところはそうなりますね」
でも、いずれは……と後の言葉は飲み込んで答えると、質問者は俺の言外の言葉を理解したように頷いていた。
その質問の後も幾つかの貴族達からの質問に答えていった。
だが、俺が話したい内容に繋がる質問がいつまでも出てきそうになかったので、自分から情報を発信することにした。
「……スキルオーブの販売形式ですが、全ての等級のスキルオーブがドラウプニル商会の店頭で販売するわけではないのですよ」
「えっ、そうなのですか?」
「ええ。紅等級以上のスキルオーブは数も非常に少なく、相応に高額なので別の販売形式にするつもりです」
「別の販売形式、と申しますと?」
「ガチャです」
「ガチャ……ああ、今年の始めにエクスヴェル公が発表された財宝像ですね!」
「ええ。その財宝像です。この財宝像の排出アイテムにスキルオーブを追加するつもりです」
俺の周りに集まった貴族の一人が言った〈財宝像〉とは、俺が創り出した神器の力を中継する魔導具のことだ。
神器〈貴貨罪貨の強欲の願宝器〉。
【混源融合】の融合素材に迷宮秘宝を使っているため、分類的には神域級アーティファクトになる神器だ。
財貨を投入することで一般級~叙事級のアイテムをランダムで排出する能力を有しており、通称は〈ガチャ〉。
オリジナルの神器の見た目は、七色の魔宝珠が嵌め込まれた金飾に漆黒色の巨大な砂時計型の像で、像の上部は七つの黄金の環で構成されている。
中継機である財宝像の見た目はほぼオリジナルの神器と同じだが、黄金の環の数が七つではなく四つという違いがあるため見間違うことはない。
まぁ、そもそものオリジナルの神器は異界にある俺の固有領域〈強欲の神座〉にあるため、他人に見られることはないのだが。
ちなみに財宝像の方は、ドラウプニル商会の帝都支店と神迷宮都市アルヴァアインの本店に設置されている。
財宝像もオリジナルの神器同様に像の下部にある投入口に財貨を入れることでアイテムが排出される。
排出アイテムの種類も、武具や素材にポーションなど、これまでに俺が入手、あるいは創造したモノ自体や、その下位互換アイテムに派生アイテムが自動的に生成されるなど、これもまたオリジナルの神器と殆ど変わらない。
「財宝像には、総合、武器、防具、装身具、消耗品、素材、その他の七種の選択ボタンがあるのですが、スキルオーブはその他のボタンに分類されますので、このボタンを押すことで運が良ければスキルオーブが排出されるでしょう。更に運が良ければ安価で高ランクのスキルオーブが手に入るかもしれませんね」
俺の言葉を受けて貴族たちの目に強い欲望が宿るのが見えた。
〈強欲〉の感情の発露に満足しつつ、より詳しいスキルオーブの説明を行なっていく。
本当は高ランクのスキルオーブを高値で売るために、ドラウプニル商会主催のオークションの開催を企画していることも告げようかと思ったが、実際にスキルオーブを販売した際の世間の反応を見てからでも遅くないだろう。
オークションについて明かすのはまたの機会にするとして、今はスキルオーブの宣伝を頑張るとしよう。




